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12お父様、サイテー



「……やれやれ、ママも時々来てくれるのなら、

 ごはん作ってってくれてもいいのになー」


日本のとある都市部―――


独り言をつぶやきながら、自室のマンションの

鍵を回す少女が一人。


彼女は買い物を済ませ、誰も待つ者のない

部屋へと上がった。


(まあナヴィがいるから、正確には一人じゃ

 ないんですけど)


「……へ?」


「あ……っ!」


彼女の目の前には―――

腰にタオル1枚のほぼ全裸の少年が、

濡れた髪をもう1枚のタオルで吹いていた。


年齢は11、12才くらいだろうか。

染めたようなシルバーの短髪、

細い陶器のような白さを持つ肌は、水滴を

輝かせ―――




【 急募:部屋に入ったらほぼ全裸の美少年が

 いた時の対処法 】


1:取り合えず肉体で話し合う。

2:ここまで頑張ったご褒美だと思って有難く頂く。

3:神への供物なので、義務だと思って迎え入れる。


「大丈夫大丈夫怖くない怖くない優しくするから

 痛くしないから―――!!」


ル〇ンダイブのように少年に飛び掛かった

フィオナは、そのまま空中で停止した。


「えっ!? 何これバインド(拘束)!?」


「あ、あびゅなかった……

 ありゅふりーだしゃまが渡してくれた

 とりゃっぷがにゃければ……」


「……って、貴方やっぱりナヴィなの?」


「そうでしゅよ。

 しかしどりぇだけ欲望一直線なのでしゅか。

 ここまでありゅふりーだしゃまの予想通りでしゅと

 ある意味しゅごいでしゅよ」


「ね、ね。お願いがあるんですけど―――」


「何でしゅか?」


「『しゅごい』って

 もう一回言ってくれる?」


その言葉の意味を理解するのに時間が掛かったのか、

彼は2、3度首を左右に傾げ、中央に戻すと答えた。


「ちにぇ♪(超笑顔)

 とにかく、本編に入りましゅ」




│ ■高級青果店『パッション』応接室 │




アルプとシオニムは対面の席に座り―――

その対角線上の席にマルゴットとバートがつく。


そしてシオンはアルプの後ろに立っていた。


「改めて言うが―――

 この売り上げは異常だ。


 チップで通る訳が無いだろう。

 何をどうすれば、こんな金額を

 果実一つに払う事になるのかね」


徴税官であるシオニムは、あくまでも

客観的な姿勢でアルプを問い詰める。


「で、でも、お客様が」


「……シモン君だったかな?

 今まで、この店でこのような売り上げが

 1日で出た事は?」


「ねぇよ。

 こっちだってビビってるくらいだ。


 だからさっきから言ってんだろ。

 一口食ってみろって。


 コイツが、豊穣の女神―――

 フィオナ様の眷属だってわかるからさ」


「神かどうかはともかく―――


 食べる? この少年の食べかけを、か。


 『好き者』はいるのだろうが―――

 あいにく私にそのような趣味は無い」


(ムムム……

 頭が固い人ですねえ……)


「(弱りましたね……

 食べてもらえれば、フィオナ様の眷属だと

 証明も出来るのですが)」


「(ラチがあきません。

 そろそろ、昼休みも終わってしまう―――)」


マルゴットとバート、二人の顔に疲労の色が

出始めた時―――

勢いよく応接室の扉が開かれた。




「ハァイ、マイエンジェル~♪」


「そろそろお昼休み終わりですよね?

 午後イチはわたし達から!


 あの甘い時間を

 またよろしくお願いしますわぁ~♪


 あら!? この美形さんは誰?

 この人も何か売ってくれるんですか?」


乱入してきたのは―――

先日、初めてアルプの果実を試食室で

経験した、あの姉妹だった。


(?? 誰、アルプ)


(あ、この2人は昨日の、僕の初めての

 お客様で―――

 メイさんとポーラさんです)


「それにしても大盛況ね♪

 わたしも口コミした甲斐があったってものよ」


「お礼はいいわ♪

 その分わたくしにサービスを濃厚に……」


「……ポーラ、メイ?」


あくまでも表情は変えず―――

若干驚きが混じった声で、シオニムは二人に問いかけた。


「お父様?

 お父様も食べに来たんですか?」


「どう? 極上の味わいだったでしょう?

 こんなに美味しい果実、バクシアどころか

 連合国内でもありませんわ」


「い、いや―――」


すでに『好き者』呼ばわりした人間が

よもや娘とは思わず―――

しかも火付け役だと聞いて困惑する。


「あー、お客様のお父様ですか?

 せっかく宣伝して頂いたお二人には悪いのですが、

 残念な事にお父様は、

 『こんな物を食べる趣味は無い』、だそうで―――」


「ちょっ!?」


シモンのツッコミに、思わずシオニムの

声が上ずる。


「え……?」


「お父様が?」


「……さっきまでアルプはこの方に、

 『どうやってこんなにチップをもらったんだ』

 『きっと何か悪い事を企んでいるに違いない』

 って詰め寄られて……


 ああ、可哀そうに……」


「い、いやそこまで言ってないだろう!」


マルゴットの追撃に、焦り出すシオニム。

そして姉妹の視線は冷たく、厳しくなっていく。


「お父様……」


「まだこんなに小さな子が、

 いったい何をしたというんですか?」


そして、最後にバートレットが口を開いた。


「……彼は、たった一人の肉親である

 母親が奉公労働者として連れて行かれ、

 彼自身も、今のフラール国内では

 商売にならないと、

 バクシアまでやってきたのです。


 それで、この仕打ち―――


 いったいバクシアは、どこまで罪無き者を

 追い詰めれば気が済むのでしょうか―――」


「―――酷い……酷いわお父様」


「……お父様、サイテー……」


ポーラとメイ、姉妹の言葉は父親であるシオニムに、

見えない刃となって次々と貫く。




「わ、わかった!

 わかったから!!


 ―――しかし、私も仕事なんだ。

 こんな金額をチップとして認めるわけには……!」


「こっちは『一口食べてみればわかる』って

 言ってるんだけどな。


 アルプはな―――

 豊穣の女神、フィオナ様の眷属なんだ。


 だから、あれだけの極上の味になる。

 価値は妥当なはずだぜ」


「女神様の眷属……

 でも、今さら驚きはしませんわ」


「むしろ納得しました。

 まさにあれは、神の味というべきもの……」


「でも、食べて頂かない事には、

 どうしようもありませんわ。

 本人にその気が無いようでは―――」


そこまで言われると、

観念して、彼はがっくりとうなだれた。


「―――わかった。

 食べてみよう。

 用意してくれたまえ。


 それだけ、極上の味ならば誰が食べても

 きっと納得のいくものなのだろう。


 しかし―――それでも私が理解出来なかった

 場合は諦めてくれ。

 いいな? ポーラ、メイ」


「わかりました」


「それで構いませんわ、お父様」


「で、ではさっそく―――」


アルプは立ち上がると、マルゴットとバートレット、

2人に用意したのと同じように、果実の皮を剥き、

カットし―――

皿に並べてテーブルの上に置いた。




「(ウム……確かに品質は良さそうだが……)」


「ほら、アルプ君」


メイにうながされるようにして、その一切れを持って

端をかじる。

そして、それを再び皿の上に戻した。


「(全く―――どうして私がこんな子供の食べかけを、

 食べなければならないのか……)」


不満に思いつつも、彼は意を決してそれを

口に運んだ。


「……―――!?」


予想外の味わいがそのまま驚愕の顔となり―――

その表情を崩さないまま、果実が飲み込まれる。


「なっ、なんだ、これは―――」


確認するかのように、ポーラとメイ、

2人の娘の顔に交互に視線をやる。


「お分かりになりました? お父様」


「これでも、チップは妥当な値段じゃない、

 ―――と?」


「…………」


姉妹、そして4人の視線が集まり―――

彼の次の言葉、行動を一挙一動、見守る。


アルプが緊張のあまり、唾液を飲み込み、

その音が彼とフィオナの耳に響く。


(大丈夫ですよ、アルプ。

 アタシの眷属としての貴方の力―――

 信じてください)


「(は、はいっ)」


「…………


 認めよう。

 これは、それだけの価値が―――ある。


 豊穣の女神、フィオナ様の眷属―――

 信じない訳にはいくまい」


そこにいたシオニム以外の表情が、

パッと明るくなる。


「しかし―――」


「え……」


アルプは不安そうな声を上げ、それに被せるかのように

シオニムの言葉が続く。


「私は徴税官だ。


 神に仕えている訳でも―――

 悪魔の手先でもない。


 ただ粛粛しゅくしゅくと法に従うのみ」


「…………」


マルゴットが視線を落とす。


「そして―――

 神の眷属やその恩恵、恩寵などは

 課税項目には入っていない。


 果実に関しては25%の関税―――


 チップに関しては不問としよう。


 ここでの商売が終わったら―――

 チップは1割の源泉徴収分のみ、

 支払って行ってくれたまえ」


そこでやっと―――

全員の顔に笑顔が浮かんだ。


「お父様、ありがとうっ!」


「―――あ! アルプ君!

 昼休みもう終わってるよ!

 早く試食室に行こう!」


「は、はいっ」


「おっと―――

 それじゃ俺も仕事に戻るぜ」


バタバタと4人は部屋を出て行き―――

そして3人が残された。




「―――すまなかった。

 最近、『枠外の者』の事でピリピリ

 していてね。


 派手に儲けている連中がいると―――

 どうしても疑ってしまう」


「『枠外の者』―――」


「やはり、バクシアでも

 手を焼いているのですか」


バートレットの問いに、諦めたような表情で

シオニムは答える。


「アレに手を焼いていない国など

 ないだろうね。


 特に今のフラール国は連中に取って、

 美味しい獲物にしか見えないだろう。


 それにしても―――


 彼が神の眷属であるのならば、

 どうしてその女神様は、このような事態を

 黙認しているのだ?」


「私も以前、同じような疑問を抱き、質問した

 事があるのです。


 ―――曰く、神の力は、無限でも万能でも無いのだと。


 そして、可能な限り彼や信者を助けようと

 してはいるが、本来神というものは、

 人間の取り決めには手を出せないらしいのです。


 今、こうして眷属に力を貸している事すら―――

 他の神々には快く思われていない、との事でした」


マルゴットの言葉にシオニムは眉間にシワを寄せながら

目を閉じ、深く息を吐き出すと、一息ついて口を開いた。




「よほど人間よりわきまえておられる―――

 恥じ入るばかりだ。


 さて、確認も終えたし、私はこれで失礼するよ。


 もし関税や売り上げの事で揉めたら、

 私の名前を出せばいい」


「―――ありがとうございます」


シオニムが席を立ち、扉に向かおうとしたところ―――

扉の向こうでバタバタとした気配がした。


「なあ、お嬢の知り合いだっていう

 爺さんが来ているんだが―――」


「お嬢様!

 こちらにおられると聞いて参りました」


シモンを押しのけるようにして、

初老の紳士が早足で部屋へと踏み入れる。


「どうしたの爺、慌てて―――

 何かわかったの?」


「はい、アルプの母親についてです。

 所在が判明しました。ですが……」


マルゴットは勢いよくイスから立ち上がり、

明るい表情で彼に詰め寄る。


「見つかったの!?

 すぐに解放に向かわないと―――」


老紳士は、目を閉じて首を左右に振る。


「残念ながら、それは難しいかと。


 アルプ・クリスプの母親である

 ソニア・クリスプは―――


 再婚されて、今はザック・ボガッドの妻―――

 ソニア・ボガッドとなっております」


「―――は?」




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在209名―――


―――神の資格はく奪まで、残り9名―――




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