20・今まで何とかなってきた実績が憎い
( ・ω・)去年の同じ時期、前書きで
花粉なのか咳が酷いと書いてましたが
今年もバッチリです。
日本・とある都心のマンションの一室―――
ごろごろと寝転がりながら、スマホを操作する
家主の少女と、それを見ている猫の姿が一匹。
「ん~……毎年この時期になると、イベントが
落ち着いちゃって、する事なくなるんですよねえ。
バレンタイン、ホワイトデー、お花見とか
軒並み終わっちゃって……
エイプリルフールも今年は自粛してる
みたいですし」
「状況が状況ですから、仕方ないですよ」
フィオナのグチにも似た話にナヴィは付き合い―――
何気なく彼女は続けて、過去の出来事を口に出す。
「そういえば去年の今頃くらいの時期に、
ママがラクロスにはまっていたような」
「あー、フィオナ様が盛大に勘違いした
アレですね(4章4話)」
後ろ足でカカカカッ、と頭をかきながら、
ナヴィは主筋の女神に受け答えする。
「よく覚えていらっしゃってやがりますね……
そういやママ、アレ続けているの?」
「どうなんでしょうね?
結構飽きっぽいところもあるお方ですから。
案外、フィオナ様が勘違いした方向で極めて
いたりして」
まさかー、と笑い合う女神とお目付け役。
そして続けてナヴィはフィオナに提案し、
「それはそうと、お時間があるのであれば
アルフリーダ様に連絡を取ってみては
いかがですか?
母娘なのですから、たいした用事はなくとも
娘からの連絡は嬉しいはずですよ」
「ん~……そうですねえ、たまには」
彼に促され、女神は天界へと連絡を取る事にした。
フィオナが意識を集中して間もなく、2人が
知っている声が室内に響く。
『あら、フィオナちゃん?
どうしたの?』
「あ、いえ、特に用ってほどの事は無いんですけど、
確かママ、ラクロスしていたでしょ?
まだやっているのかなーって」
『失礼ね、ちゃんと続けているわよ。
今、天界で5チームくらいに増えているんだから』
おおー、と素直に感心する娘と従僕に、
アルフリーダは続けて―――
『そうそう、あと歌って踊って可変翼機に乗る?
だっけ?
アレもちょっとチャレンジしてみようかと
思っててねー。
軍神に頼んで、取り合えず地球の、えーっと、
F14トムキャット? を再現してもらって、
今それを』
ブチ、という音と共に強制的に神託は閉じられ―――
「アタシたちは何も聞いてない! いいね?」
「さて、そろそろ本編スタートしましょう!」
│ ■マービィ国・温泉街 │
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
その日の夕刻過ぎ―――
『女神の導き』から戻って来たレンティルを加え、
バクシア・フラール両国といつも通り神託を繋ぎ、
シンデリンからの担保要求について話し合う事に
なったのだが……
当然というか想定通り反対が続出した。
アルプとファジーは『フィオナ様の命に従う』と
当人の同意は得られたものの―――
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「ダメですー!! ですー!!
シンデリンってアレっしょ!?
あの女のところへアルプ君を行かせるのは
刺し違えてでも止めますー!!」
「あの、メイさん落ち着いて……
フィオナ様もお考えあっての事でしょうし」
と、猛反対するメイを、母親であるソニアの方が
なだめる状況となり―――
「ファジーだって行かせられないよ!
アイツ、ルコルアの時からアルプさんとセットで
狙ってたって話じゃん!」
「ミ、ミモザ姉も落ち着いて……!
まだ行くって決まったわけじゃないんだから」
姉に抱きしめられながら、第二眷属である弟は
猛抗議する彼女に胸の中から声をかける。
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「ううむ……
確かに、トーリ財閥に対して相場の2/3以上の
損害が出なければ、担保として引き取られる事は
ありませんが―――
何か打開策がおありなのでしょうか?
フィオナ様」
アルプの義祖父にあたるローン・ボガッドは、
消極的ながらも理解に努めようとするが、
それにはやはり納得する材料が必要で―――
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「まま、まあ、それは?
信じて頂くしかないというか、ですね」
しどろもどろになりながらも、話を進めようとする
女神に、第一眷属もサポートに入る。
「おじい様、不安はわかりますが―――
今までフィオナ様のなさってきた事に
間違いはありません」
「(くああぁああ……
憎い! 今まで何とかなってきた実績が憎い!!)」
絶大な信頼を寄せられ、フィオナはそれまでの
成果に反省とも恨みとも取れない感情を抱くが―――
アルプはさらに続け、
「それに、あちらのネーブルさんとナヴィ様は
懇意になさっているみたいですので、もし万が一
奉公労働者になっても、酷い扱いにはならない
かと……」
│ ■アルプの家 │
「そうなんですか、ナヴィ様?」
「そういえば、以前ミイト国に行った際、
トーリ家の従者と知り合ったというお話は
聞いてますけど」
ファジーとメイが、第一眷属の説明に当人に
聞き返し、
(ん~……それもありますが、あのシンデリンって
いう人も、フィオナ様と同じ匂いというか―――
似たような印象があるんですよねえ。
普段積極的なように見えて、いざとなると……
ってところとか)
ナヴィの答えに、ソニアとミモザは微妙な
表情となり、
「ま、まあ……
そこは個人差、とでもいいますか……」
「本当にそうなら安心材料になるんだけど、
それはそれで」
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「何か国家をまたいで遠回しにディスられているような
気がするんですけどアタシ」
「いいじゃないでしゅか。
ぐろーばる(笑)で」
なおも何か言いたそうな女神をお目付け役は制し、
「でもアルプしゃんの言う通り、ネーブルしゃんが
いれば大丈夫そう、というのは同意しましゅ」
│ ■ボガッド家屋敷 │
「ううむ……
ナヴィ様までそう仰られるのであれば」
屋敷の主は心配そうにしながらも賛同し―――
「今のところ、それ以上の手立てはありませんし……」
「この条件下で、今年はクルーク豆の暴落を
回避出来るってだけでも御の字なんだろうな。
時間稼ぎが出来るってのもデカイ」
ローンの後に、ポーラとシモンも同調の言葉を続ける。
│ ■アルプの家 │
「あくまでも暴落をある程度食い止める、
というだけで、値下がりそのものは
避けられませんが―――」
マルゴットが厳しい現状を追認するように口を開き、
「それは仕方ないでしょう。
これまでは、準備段階ともいえるところで介入
出来ましたが……」
「何かもう、全部終わっているみたいだしね。
これを覆すには、生半可な手では通じないよ」
バートレット伯爵とバーレンシア侯爵も、担保の件は
容認かつ前提として語り始めた。
「それにしても、シッカ伯爵―――」
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「はははっはい! 何でございましょう!?」
突然のバーレンシア侯爵の名指しに、レイシェンは
見えないはずの相手に姿勢を正す。
│ ■アルプの家 │
「いや、こんな事になってしまって、
すまないと思って……
護衛を頼んだつもりだったのに、
巻き込む形になってしまったから」
おずおずと話す侯爵に、伯爵令嬢は―――
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「いえ、元『新貴族』のわたくしに取っても
無関係ではないかと。
・・・
あの人まで絡んでいるのですから―――
何かの因縁、という事でしょう。
それに、侯爵様に恩を返すには絶好の機会とも
思っておりますので」
うやうやしく、フラールにいる侯爵に向かって
彼女は頭を下げる。
│ ■ボガッド家屋敷 │
「こう言っては何ですが―――
シッカ伯爵様へ何らかの接触は無いのですか?
その、マイヤー伯爵からは……」
何か少しでも打開策を見つけたい焦りからか、
言いにくそうに語るローンを、妻がたしなめる。
「あなた、いくら何でも……」
ポーラも同性として苦言を呈する。
「それはちょっと、さすがに」
彼は慌てて、失言を取り消す。
「いや、失礼な事を申しました。
お忘れください」
そしてフォローするかのように、シモンが別の
話を振る。
「そういや、トニックさんとソルトさんは?
今日は姿が見えねーけど」
その疑問に屋敷の主が答える。
「彼らなら、マービィ国へ向かわせた。
こちらでの活動はこれ以上効果が得られないと
判断したのでな。
いったんフラールへ寄った後、フィオナ様の元へ
行く予定だ」
│ ■アルプの家 │
「そうですか、お義父様―――
あ、じゃあついでと言っては何ですけど、
アルプに何か持っていってもらおうかしら」
「お手伝いいたします、お義母様!」
「あ……じゃあ私の方からも何か」
すっかり母親の顔になったソニアに、メイと
マルゴットが色めき立ち―――
いくつか私的な会話が各人で交わされた後、
神託は閉じられた。
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「(……って、結局解決策らしい手が全然
出てこなかったワケですが)」
神託を終えた後、フィオナはガックリと肩を落とし、
そこへナヴィが追い打ちをかける。
「(しょれはフィオナ様の考える事でしゅ)」
「(いやいやいや、こういう時って何かいろいろ?
案とか作戦とか出てきて、それをヒロインが
上手くまとめる展開でしょ?)」
不満気に理想論を話す女神に、お目付け役は
さらに追撃し、
「(ま、諦めるでしゅ。
フィオナ様はしょういうキャラでしゅし)」
「(どんなキャラだっつーのよ!?)」
小声で語り合う彼らを周囲が見守りながら―――
夜は過ぎていった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3160名―――