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16・よろしくお願いじば……

( ・ω・)今回はビジネスにおいてためになる

ストーリーです(半信半疑)



日本・とある都心のマンションの一室―――


TVを見ながら、リビングでくつろぐ家主の少女と

猫が一匹。


「あー、そういえばひな祭りだったんですねえ」


「?? 意外ですね。

 いつもやっているゲームのイベントとかで

 知っていると思いましたが」


トン、と床上からテーブルに飛び乗り、

お目付け役は不思議そうにたずねる。


「まー名前としては知っているんですけどね。

 ああいうふうに……何てゆーのかな、段々に

 なっているのは初めて見たので。


 イベントだとせいぜい着物になるとか、

 ヒナアラレとかアマザケを集めるとか、

 それくらいですからねー」


「扱いにくいっていうのもあるんでしょうけど……

 なるほど、ゲームでも正しい知識を身に付けられる

 わけではないという事ですか。


 ちょうどいい機会ですので、ここで正しく

 ひな祭りを学んでおいては?」


お目付け役の言葉に、フィオナは両手を頭の後ろに

回し、足をブラブラとさせながら、


「うえぇ~、別にいいじゃない。

 楽しければ何でも」


「ダメですよ、知らないならまだしも―――

 間違った認識を持ったままになりそうですので」


姿勢を正し、女神はナヴィの方へと向き直る。


「いや、間違った認識って……

 そうそう間違えないでしょ、こんなの」


ナヴィはシッポを2・3回振り子のように左右に

振りながら問い質す。


「では、あの段々は何を意味しているんですか?」


「アレでしょ。

 上に行くほど偉く強くなっていくんでしょ?」


その答えに、テーブルの上の猫は「んー」と頭を一度

天井を見るように上げて、また元に戻し


「偉いっていうのはわかりますが―――

 強いっていうのはどこから?」


「え?

 だってあれトーナメントの結果じゃないの?」


フィオナの言葉にナヴィは即座にツッコみ、


「一番上は決勝戦かよ!

 嫌なカップルだな!」


「バトルから始まって結ばれる恋……ステキやん?」


「(フィオナ様の場合、それで結ばれるのは

 主従関係のような)」


「何か言った?」


「いえ、別に―――

 それではそろそろ、本編スタートしましょう」




│ ■マービィ国・温泉街    │

│ ■フィオナ一行宿泊部屋   │




「それじゃ、お風呂行きましょうか」


女神が入浴道具一式を持って、眷属ほか

みんなに声をかける。


ナヴィが農業特区に潜入した翌朝―――

朝食後、一行はそれぞれまた温泉へとおもむく

流れになった。


昨夜、フラール・バクシア両国と神託を一応

繋いだものの、これといった進展はなく……


ただローン・ボガッド氏から

『相場についてはこちらで探ってみる』と提案され、

マービィ国に来ている一行は表面上の目的通り、

観光客として振る舞う事にしたのだった。


なお、レンティルはこの事をさっそく『女神の導き』

に伝えに、朝イチで出かけている。


「周りに迷惑をかけないようにするんでしゅよ」


「お、温泉でどうやって迷惑かけるのよ」


お目付け役の言葉に抗議気味に女神が答えると―――


「実績(5章8話目)があるのをお忘れでしゅか?」


「あ、あれはその……

 わたくしも、迷惑をおかけした一人ですので」


レイシェンもばつが悪そうな顔をし、そして

アルプはきょとんとした表情になった。




│ ■温泉宿メイスン・男性用露天風呂  │




「あれ、貴方は―――」


「あ、ネーブルしゃん」


朝食後の人もまばらな時間―――

ナヴィ・アルプ・ネーブルの3人の少年は

湯舟の中で顔を見合わせる。


「おはようございます、ネーブルさん。

 その、体の具合はもう大丈夫なんですか?」


「手加減もしてもらえたようですし、

 もう大丈夫です。


 まさか護衛に来て湯治する事になるとは

 思いませんでしたけどね」


彼は手の平を見せて、握ったり閉じたりを繰り返し、

回復した事をアピールする。


「しょういえば―――

 私がいない間に、あのバ……フィオナ様が

 迷惑かけたりしませんでしゅたか?」


「あの方ですか?

 一度お見舞いに来てくださいましたけど、

 お嬢様が対応したので」


それを聞いて、第一眷属が口を開く。


「さ、さすがフィオナ様……!

 ただ留守番しているだけでなく、きちんと

 そんな気配りまで……!」


「(絶対にしょういう事ではないような気が

 するんでしゅけどねえ……)


 しょうでしゅか。

 あのご姉妹は今日、どこに?」


ナヴィの問いに、ネーブルは女湯の方の壁を向き、


「あちらにいると思います。


 そういえば本国から手紙が来て、何やら愚痴を

 言っておりましたけど……


 ナヴィさん達に何か関係あるのかも知れませんね」




│ ■温泉宿メイスン・女性用露天風呂  │




「カラウリ?」


同じ頃、女湯に入っていた女神はきょとんとした

声を上げる。


「まあ、商売に馴染みの無い人には聞かない言葉かも

 知れませんけど―――


 簡単に言いますと、売る商品を持っていない状態で

 決済を約束する事ですわ」


シンデリンの説明に、それでもフィオナは

わからないという表情を崩さず―――


「……ん……例えば……

 一か月先、とかに……物を売る約束を……

 するの……


 ……売買する値段は……決まって……いるの……

 商品は約束した時までに……用意すれば、いい……」


フィオナは人差し指を口にあてて、


「んー……

 それって何の意味があるんですか?」


「すいません、わたくしにもちょっと……

 もう少し詳しく」


隣りにいたレイシェンも片手を上げて、

さらなる説明を促す。


「まあ、商売人じゃない人にとっては馴染みの薄い

 ものでしょうからね。


 えーと、先物取引の一種で……」




│ ■温泉宿メイスン・男性用露天風呂  │




「先物取引ですか……

 僕も家が果樹園をしていますから、そういうのは

 聞いた事がありますけど。


 でも、基本は直接卸すので、その取引はした事が

 無いですね」


男湯の方でも、ネーブルの話を聞いてアルプが

反応する。


「先物取引というのは―――

 相場に左右されないために、予め売買価格を決めて

 取引しゅる、という事でしゅよ。


 例えばアルプ君の果実を1ヶ月先に、

 1個銀貨3枚で売る、

 という契約にした時にでしゅね……


 相場が動いて、1ヶ月後に1個銀貨1枚まで

 値段が下がってしまったとしましゅても―――

 契約通り、銀貨3枚で売る事が出来るんでしゅ」


ふむふむ、とアルプは聞き入る。


「逆に、1ヶ月後に相場が1個銀貨5枚に

 値上がったとしても、アルプさんは契約通り

 銀貨3枚で売らなければなりません。


 この場合は、買う側の方が得をしますね」


ネーブルが補足するように説明を追加し、アルプは

2人の言葉を熱心に聞いていた。


「アレ? でも―――

 先物取引と空売りは違うんですか?」


アルプの問いに、ナヴィがいったん手ぬぐいで

顔を拭き、


「基本的には同じなんでしゅが―――

 『契約時に商品を持っていない』事が、空売りの

 特徴でしゅね。


 1ヶ月先に商品を渡すから、お金もその時に、

 という契約をして―――

 だからその時までは商品を持っている必要は

 無いんでしゅよ」


「空売りの最大のポイントはそこです。


 もちろん売る側は契約の期日までに商品を

 入手しなければなりませんが―――

 その時までに契約金額より安い商品を用意

 出来なければ、当然赤字になります」


「へぇえ~……なるほどです」


交互に説明するナヴィとネーブル、それを理解しようと

真面目に聞くアルプの少年3人組という―――

およそ入浴というには微妙な光景になっていた。




│ ■温泉宿メイスン・女性用露天風呂  │




「……というわけでね。

 あの、大丈夫?」


シンデリンは、説明の途中で魂を宇宙に飛ばし始めた

フィオナに、心配そうに声をかける。


「……つまり……相場が下がる、という事を……

 予測しての……商品を売る契約……と……

 考えてもらえば……いい……」


ベルティーユの言葉に、レイシェンが変わって応える。


「フィオナ様、後でわたくしが説明しますから……」


「よろしくお願いじば……」


頭を下げて顔面を湯舟につけるフィオナを彼女は

慌てて引き上げ、会話を継続する。


「でも、その空売りをしろとトーリ財閥から貴女に

 指示が飛んできたというのは」


レイシェンの表情を、シンデリンは不思議そうに

受け止める。


「?? 相場が下がると思われるから、空売りの

 準備をする事―――

 そんなに不自然かしら?」


いったん視線を落とし、何事か考えた後―――

伯爵令嬢は意を決したように口を開く。


「いいえ、ただ―――


 グレイン国の農法導入で、マービィ国は豊作になる。

 だから相場が落ちる。

 だから空売りを仕掛ける―――


 あまりにもありきたり過ぎて、何だか……」


「……ん……確かに……そう……」


妹の言葉に同意しながら姉も続く。


「芸がない、と言われればその通りね。


 まあ別にどちらでもいいわ。

 私には関係無いし」


シンデリンの言葉にフィオナは首を傾げ、


「どゆこと?」


「言葉通りよ。

 今回は『枠外の者』としての行動は

 ゴメンって事。


 それにね―――

 ルコルアでの件もそうだけど、女神サマが絡むと

 損するような気がするっていうか、逆の結果に

 なるような予感がして」


湯舟に肩、そして顔半分になるまで沈み―――

そんな姉を見ながら妹も口を開く。


「……シンデリンお姉さまの直感は……よく……

 当たるの……


 悪い事になればなるほど……」


姉妹と女神に挟まれるような位置にいるレイシェンは、

両手の手の平を組んで伸びをし―――


「しかし、そんな事までこちらに話しても

 いいのですか?


 確か、『枠外の者』の中で疑われていたと

 聞きましたが」


「まあ、貸しと受け取ってもらってもいいけどね。


 こっちは今回は関係無いし協力しないって

 言ってんのに、勝手に指示とか情報とか

 送ってくる方が悪いのよ」


その後、彼女たちは30分ほどお湯につかり―――

すでに上がっていた男性陣と広間で合流すると、

それぞれの部屋へと戻っていった。




│ ■フィオナ一行宿泊部屋   │




「……なるほど。

 豊作になるから、クルーク豆の値段が下がると。

 それを逆手に取って一儲けってわけですか」


フィオナはナヴィ・アルプ・レイシェンの説明を

聞いて、一応納得したようだった。


「でしゅが、レイシェンしゃんの言う通り―――

 セオリー通り過ぎましゅし、何より」


「回りくどい感じはありますよね。

 仮にも国相手とはいえ、それだけの利益が

 出るんでしょうか」


ナヴィとアルプがそれぞれ感想を漏らし、レイシェンも

眉間にシワを寄せて険しい表情になる。


「何より、『枠外の者』の狙いは、奉公労働者の

 オークション権―――

 でもそこまで経済を疲弊させられるかどうか、

 疑問は残るところです」


フー、と誰からともなく息を深くゆっくり吐く。

そこへ、ノックの音と同時に声が入って来た。


「レンティルです。

 フィオナ様―――入ってもよろしいでしょうか」


『女神の導き』の彼を招き入れ、これまでの情報を

共有する。


「ミイト国からそのような動きが……

 確かに、豊作になるとは言われておりましたが。


 しかし、そうなりますとグレイン国の動きが

 ますます読めませんね」


「ふみゅ? と言うと?」


「ナヴィ様がもたらしてくださった情報―――

 『相場通りの値段で取り引きする』……


 それ以外の約束事とかが見当たらないのです。

 ナヴィ様の調査を裏付けているのですから、

 正しい情報と思われるのですが」


レンティルとナヴィの会話に、伯爵が割って入り、


「国家間の約束事は、連合国家内であれば基本的に

 オープンなはずです。

 技術支援や商取引程度で隠す理由もメリットも無い。


 となると……

 豊作による相場下落だけに、何かを仕掛けている、

 としか……ん?」


そのままレイシェンの視線はすーっと横へ反れていき、

行き着く先は、もう一人の同性―――

レンティルもそれに気付いて、思わず声をかける。


「あ、あの? フィオナ様?」


死んだ魚のような目をして何の反応も示さない

彼女に、お目付け役と第一眷属の少年が近付き、


「あー……

 また、おーばーひーとしてましゅね。

 水持って来てくだしゃい、ぶっかけましゅから」


「の、飲ませるんじゃなくて?」


ひとまず、フィオナを介抱し―――

一同は夜の神託による定期連絡を待つ事になった。




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在3136名―――




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