14・ものすごく会話が噛み合っていない
( ・ω・)1ヶ月後に健康診断の予定が
入ったため、ダイエットを敢行
(無駄な抵抗)
日本・とある都心のマンションの一室―――
「しゃて、ちょっとユニシス様のところへ
行って来ましゅね」
地球では珍しく人間Verになっているお目付け役は、
家の主である少女に外出について声をかける。
「ん? ママのところじゃなくて?」
「定期報告ならこの前したばかりでしゅよ。
今回は私用と言いましゅか……」
「パパに?」
要領を得ない、という感じで首を傾げるフィオナに、
ナヴィは手荷物を持ち上げながら答える。
「ええ。ユニシス様には以前から、時々稽古というか
指導を受けていたのでしゅが。
フィオナ様のお目付け役兼サポートになってからは、
いろいろと学ぶ事が増えているのでしゅよ」
「えー、何それいいなー。
ていうか、地球の猫とは交流しないって
言ってた割に(3章22話目)、
姿が見えない時があると思ったら……
アタシも行っていい?
ちょうど暇だし」
彼女の問いに、彼はメモを取り出して内容を
確認しながら口を開き―――
「今日やるのは、歴史学と軍事史、しょれと
経済学―――
座学が中心でしゅね」
「あーアタシ今とても忙しくなりました。
残念だけど次の機会にまた」
目と顔をこれでもかと反らすフィオナに、
ナヴィは構わず会話を続ける。
「ふみゅう。
しょの忙しい事とやらを、私の目を見て
言ってみるでしゅよ」
「え、ヤダ……♪
俺の目を見ろだなんてそんな……
ダ・イ・タ・ン♪
でもアタシはいつでも準備OKですよ。
ほらこんなところに婚姻届が」
いつの間にか猫の姿に戻ったナヴィは、差し出された
用紙を前足でぽてぽてと叩き、
「肉球でもサインって認められるんですかね?」
「何で猫に戻っているんですかー!?
そのサインされた書類役所に持ってったら、
頭が可哀想な美少女の出来上がりです!!
知ってる!?
世の中って頭のおかしい人には厳しいんですよ!?」
涙目で抗議する女神を横目に彼はため息を付き、
「何でこう用意周到なのに、眷属との仲が
進展しないんですかね……
それではそろそろ、本編スタートしましょう」
│ ■マービィ国・温泉街 │
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「では行ってまいりましゅ」
「はーい。気を付けてね」
翌朝、朝食を食べ終えた後―――
主従が出掛ける前の言葉を交わす。
今回はナヴィが単身で特区に潜入し、他のメンバーは
さらに2手に別れて外出。
フィオナだけが留守番という事になっていた。
「では、私は『女神の導き』のメンバーに連絡を」
「わたくしとアルプ殿は―――
適当に市中を見回って参ります」
青年と伯爵令嬢も佇まいを直し、女神に挨拶する。
「フィオナ様、あの―――
何か買ってきて欲しい物とか、注意するような事は
ありますか?」
第一眷属がおずおずと聞くと、フィオナは微笑み
「いえ、その必要はありません―――
貴方たちに任せておけば大丈夫です」
「フィオナ様ぁ……」
甘えるような声で答えるアルプと、他の2人も深々と
頭を下げ―――
ただナヴィはじっと女神の方を見つめていた。
「(何も考えてないから丸投げしましゅたね?)」
「(ままままあ、これも信頼の証ですよ!)」
そして、4人はまず下の階の大広間へと向かった。
前回の、一度に動くと警戒されてしまうかも、という
意見を踏まえ―――
いったん大広間に降りて時間をつぶし、20分ほどの
間隔で、それぞれが外出する運びになった。
│ ■温泉宿メイスン・最上級客室『光の間』 │
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
「はぁいネーブル、あ~ん♪」
「……だから、食べる事くらい自分で出来ますから。
しかし、せっかく温泉街に来ているのに、どこにも
お出かけしないんですか?」
同じ宿に泊まっているもう一方の主従は―――
引き続き、従者が自分の看護をする主人の対応に
追われていた。
「……ん……でも……
ネーブルお兄ちゃんが……動けないから……」
「そーよー。
それに、護衛である貴方がダウンしていちゃ、ね」
姉妹に諭され、ネーブルは頭をかく。
「それを言われては返す言葉もありませんが……
宿屋の中くらいなら、別に構わないのでは?
それほど治安は悪くないでしょうし」
と、ネーブルが言い終わったと同時に、彼は扉の方へ
視線を向けた。
「……誰か、ここに訪ねてくる予定が?」
姉妹はお互いに顔を見合わせ―――
「?? そんな予定は無いけど……
いるとしたらラムキュールくらい?」
「……誰か……来ている……?」
ネーブルが護身用の獲物に手を伸ばすと、ノックの
音が聞こえ、そして声も向こう側から伝えられた。
「あのぉ~フィオナです。
ちょっとよろしいですかー?」
3人は知っている声を聞いてホッと一息付き、
シンデリンがその扉を開けて対応する。
「えっと、何しに来たのよ」
「いやー、ウチの護衛がそっちの人を
ケガさせちゃったでしょ?
そのお見舞いに」
部屋の扉を開けたまま、中には入れさせないという
態度で、シンデリンは接する。
「……お見舞いの品も何も持たずに……?」
「いやそれは何ていうか、アハハ」
姉はその場を妹に任せ、ネーブルの寝ている
部屋に向かい、そのドア越しに声をかける。
「ネーブル、ちょっと下の大広間に行きます。
貴方は休んでいて」
「え……は、はい? お嬢様」
彼の返事が終わるのを待たずに、そのまま彼女は
来客のところまで戻り、手をつかむ。
「えっ、な、何?」
「いいから来て! 早く!」
そして彼女は妹と一緒に、フィオナを連れて
1階の大広間へと向かった。
│ ■温泉宿メイスン・大広間 │
「さあ、ここならいいわ。
何でも話してちょうだい」
備えてあるテーブルに姉妹で両隣に座り、目の前に
フィオナを座らせて、彼女たちは対峙する。
「まあここでもいいですけど……
でも何で?
あ! そんなに愛しのネーブルさんに会わせたく
なかったとか?」
「……貴女ねえ。
ただでさえこちらは、そっちと繋がっているんじゃ
ないかって疑われているのよ。
それがまた、旅行先の密室で話し合ったなんて
噂を立てられたら、たまったもんじゃないわ。
ここなら何でもオープンに話していいわよ」
「……まあ、ネーブルお兄ちゃんに会わせたく
なかったっていうのは……合ってる……」
3人とも言いたい事を言った後、シンデリンが
疑問を口にする。
「そういえば貴女1人なの?
ちょっと不用心じゃなくて?」
「みんなは調査っていうか、何やら調べていて。
でも行き詰っているみたいなんですよ」
額に指をあてて、シンデリンはイスに深く
腰をかけ直す。
「私からは何も話せないわよ?
少なくとも、今回は無関係」
「あー、そういうのじゃなくてですね。
アタシ1人残されてヒマ……じゃなくて、
同性として聞きたい事があるってゆーかー。
ズバリ! 従者―――いえ、恋人候補との
距離の詰め方についてですね。
そちらはどんな方法を使っているのか教えろ教えて
くださいお願いします」
イスに座ったまま頭を下げ、途中からイスを降りて
正座して頭を下げ、そして土下座になった彼女を
姉妹は困惑しながら見下ろす。
「ええと……
それはネーブルとの仲って事でいいのかしら?」
「……ネーブルお兄ちゃんとの……」
今回の件に関係無い事だとわかって姉妹は安心する
ものの―――
今聞かれている事についても、話していいかどうか
戸惑う。
「そんな事を聞かれても、ねぇ……
聞いて欲しいお願いとかがあったら、
私とベルちゃんとで挟み撃ちにしたり、
逃げられない状況にしてから―――
という事はよくやるけど」
「なるほど!
動けなくすればいいんですね!」
シンデリンの言葉を、ガリガリとメモに
書き込むフィオナ。
「後は―――
今みたいな状況、とか?
弱っているところを優しくしたり、
献身的に身の回りのお世話をしたりすれば―――」
「なるほど!
弱らせればいいんですね!」
姉と女神の会話を見て、妹が割って入る。
「……待って……シンデリンお姉さま……
ものすごく会話が……噛み合っていない
……気がするの……」
説明するシンデリン、曲解するフィオナ、突っ込む
ベルティーユ―――
この流れの構図は、いつまでも戻らない事を心配した
ネーブルが、呼びに来るまで続いた。
│ ■マービィ国・農業特区 │
「しゃて……
潜入したのはいいでしゅが、どこからどう
調べたものでしゅかね」
すでに特区内の農場に足を踏み入れていたナヴィは、
ひときわ高い建物の横、そこにあったさらに高い木々の
上で、一人思案する。
「関係者の話が聞ければいいんでしゅが―――
あとは収穫を待つだけなのか、それらしい人は
全然見かけないし。
警備の人と思われる連中はいっぱいいるんでしゅ
けど……」
まるで軍事拠点のように、鎧で身を固めた
武装兵が巡回する中、注意深く身を隠しながら
ナヴィは様子を伺う。
「―――ん」
ふと、武装兵たちの動きが慌ただしくなる。
何人かが走り、いずれかに消え、そして戻ってきた時、
男が3人やってきた。
「ラムキュールしゃんが来たのは知ってましゅが―――
他の2人は?」
ナヴィは3人が建物の中へと入っていくのを
確認すると、木々を伝い、その4階建ての屋根へと
飛び移った。
│ ■農業特区・研究試験所内 │
巨大な施設、その最上階の一室に―――
ラムキュールとファーバ、そしてマイヤー伯爵が集う。
商人2人は席に着いたが、伯爵は一人窓際へと
近付き、外の景色を伺う。
「警戒しなくても大丈夫ですよ。
ここの警備は万全です」
「……妙な気配を感じたのだがな」
ファーバの問いに、彼は無機質な声で否定を唱える。
「冗談でしょう?
ここは4階ですよ?」
ラムキュールの言葉には答えず、無言で席に着き―――
話を進めるように圧力をかける。
「ではまず、収穫量についてですが……
人の口に戸は立てられないものですな。
すでに、クルーク豆の相場が……」
彼らが報告を始め、それを聞き出す影が
屋外にひとつ。
ナヴィは器用に窓の雨除けに片手で
ぶら下がり、諜報を続行していた。
「(う~みゅ。一応神託を繋げてみましゅか。
アルプ君はレイシェンしゃんと外出中のはず
でしゅから……)」
彼はひとまず、留守番している自分の主筋に
状況を伝える事にした。
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「あら? ナヴィ、どうかしたの?」
(今、特区の施設でラムキュールと誰かが話して
いるんですよ。
聞き逃す事があるといけませんので、フィオナ様も
一緒に聞いておいて欲しいのですが)
「それは構わないけど……
アタシ、あんまり難しい話は」
(しまった。
女神がバカだという事を忘れてた)
「言いたい事はすごくよくわかりますけどね!
もうちょっと言葉を選んで頂けないで
しょーかっ!?」
こうして、主従2名で―――
引き続き彼らの話を傍受する事になった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3120名―――





