13・今度こそはアタシにも出番を
( ・ω・)自分にもまだ彼女という存在がいた
遠い昔、チョコの催促をメールでしたら
「ごめん、今、滝に打たれているから」
という返信をもらった私が通りますよ。
「では、申請受理しておきます。
お疲れ様でしたー」
「はい。ありがとうございます」
天界市役所のとあるフロアで―――
ナヴィ(猫Ver)は、顔なじみの職員と
書類のやり取りをしていた。
「そういえば今、フィオナ様が担当している
世界なんですけど……
他の神様とバッティングしたり、問題とかは
本当に起きてないんですか?」
ナヴィの質問に、職員と思われる女性は額に
人差し指を当てて、
「ん~……
ルール―(フィオナ)さんは果樹の豊穣の女神
ですしねえ。
管轄が結構狭いといいますか。
それに本来、そこまで世界に積極的に関わる
神様っていないんですよ。
まあ彼女は最初の事がありましたから、
いろいろと眷属や人間社会に関わるのも
仕方のない事かと思われますが」
世間話をしつつ、イスの上に座るナヴィの目の前に、
不意に職員はずいっと顔を差し出す。
「(それはおいといてですね……
あの、お母様の方はどんな感じですかね?)」
小声で語る職員に、彼もまた顔を近付け―――
「(しばらくは大人しくしていると思います。
何かイベントが続くとかで……
2ヶ月くらいは大丈夫なのでは)」
その言葉にホッとした表情を見せ、職員は紙袋を
彼に渡す。
「ではこちら、役所の各種予定と―――
最近の行事の記念品等です。
どうぞお持ち帰りください」
人間の姿になり、袋を持ち上げようとすると、
妙な重みを感じて小声で聞き返す。
「(あの、本当に猫缶とか別にいいでしゅよ?
こちらも何かと、ご迷惑をおかけして
いましゅので……)」
「(いえいえ!
ナヴィさんにはルールー家との仲介をして頂き、
本当に助かっておりますので……!
今後とも何卒お力添えをお願いします!)」
一度(と言わず二度三度)、アルフリーダのワガママな
襲撃を受けていた役所は、それを上手く収めてくれた
ナヴィを恩人、いや恩猫として頼りにしていた。
押し付けられるようにして受け取った紙袋を
手にして、役所の玄関口まできたナヴィは
そこで一息ついた。
「やれやれ……
これって賄賂になるんじゃないでしゅかね。
後でまた、ユニシス様には報告しておくと
しましゅか。
それではそろそろ、本編スタートしましゅね」
│ ■マービィ国・温泉街 │
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
夕食も終わり、就寝前の入浴も済ませた頃―――
フラール・バクシア・マービィ国間で、神託による
定時連絡が行われる時間となった。
「では、準備はいいですか?
ファジー、ポーラ、聞こえます?」
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「はい! 準備は出来ております!
ただ、ビューワー伯爵様とグラノーラ様は、
まだ侯爵様の付き添いで……」
元気よく第二眷属が返事をし、出席者の状況を
伝え―――それに姉が続く。
「そういや、ソルトとトニックのバカ2人が、
グレイン国から戻って来たんだって?」
「もう、ミモザ姉!」
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「ええっと……ハイ。
ソルトさんとトニックさんもこちらに
いらっしゃいます」
定位置のようにシモンと両隣に座りながら、
第三眷属の女性は困惑しながらも、フラールの
問いに応え―――
「相変わらずキッツいな……
まあ、やる事はやってきたよ」
「それじゃ、報告させてもらうぜ」
グレイン国へ行き、新農法とマイヤー伯爵の情報を
持ち帰った2人から、説明が始まった。
―――ソルト・トニック説明中―――
「ううむ、と言うと……
今回マービィ国に導入された新農法は、
グレイン国では広く普及しているものだと
いうのだね?」
ボガッド家の主、ローンが質問するように
確認する。
「ですね。あちらでは珍しくない農法でした」
「クルーク豆はグレイン国では見かけませんでしたが、
恐らく同じ効果が見込めるから、導入したんじゃ
ないですかね?」
情報屋2名が内容を補足するように答える。
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「……自国と同じだとすると、罠や仕掛けの類では
ないようですね」
レンティルがその情報に安堵したように口を開くと、
アルプが疑問の言葉をつなぐ。
「でも、『枠外の者』が絡んでいるんでしょう?」
「それに、あの人まで来ているんです。
ただの慈善事業とは思えませんが……」
レイシェンが『彼』について言及し―――
ナヴィが質問の矛先をそちらに向ける。
「しょういえば、マイヤー伯爵については?」
│ ■ボガッド家屋敷 │
「賛否両論、両極端ってところか。
グレイン国に取っては―――
有能な臣下なんだろうけどさ」
言葉を選びながらも言いよどむソルトに、
フラールにいる眷属の妹が反応する。
│ ■アルプの家 │
「お父様のお話みたいですね。
有能であればあるほど―――
良く思わない人からは……」
メイの顔を見て、アルプの母親がフォローに入る。
「評価が高い事の裏返し、という事でしょう。
でもそうなると……」
姉弟もまた、同じような感想を述べる。
「厄介そうな相手には違いねーな」
「『枠外の者』とは違うみたいだけど―――
その分、何ていうか。
それで、フィオナ様。
今後の方針などはどうお考えでしょうか?」
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「ぶうぅええっ!?
あ、いやその、ですね」
いきなり意見を求められた女神は、混乱しつつも
どう返したらいいかを考える。
「相変わらず期待通りに本番に弱いでしゅね。
貴女がメインというか神様なんでしゅから、
いい加減こういうやり取りに慣れてくだしゃいよ」
お目付け役にツッコミをもらい、フィオナは
何とか立て直す。
「ままま、まあ、ここは何としてでも相手の
手の内を知りたいところ、ですねっ。
というわけでナヴィ、今度は貴方が単身で
調べてきてください!」
流れるようにナヴィに話を回して逃げる女神。
それを聞いて同室の人間3人は顔を見合わせるが―――
「ふみゅ。さしゅがでしゅね。
実は、私もそうしようと思っていたんでしゅよ」
「え!? そうなの?」
「何で貴女が驚くんでしゅか」
要領を得ない、という体の周囲に、彼は説明し始める。
「私一人であれば潜入も可能でしゅし、
何より、ここマービィ国で何をしようと
しているのかを知る事が先決でしゅからね。
今日、場所も把握しましゅたし―――
明日にでも潜入してきましゅよ」
「し、しかし……それならば、どうして本日は」
同行していたレンティルが、なぜ今回は
調べなかったのか、疑問を口にしようとした時、
レイシェンが先回りして答える。
「今日のところは3人で現場へ行ったのでしょう?
恐らく、監視もされています。
そこで1人消えたら―――
確実に警戒され、残るお2人の身に危険が迫る
可能性もあったと考えられます」
彼女の言葉に、一緒に特区まで行った男性2人は
改めてナヴィの顔を見る。
│ ■ボガッド家屋敷 │
「しかし、そうなると……」
「ああ、だよなあ」
情報屋の2人が口を挟み、その真意をローンが問う。
「どうかしたのかね?」
「何か問題でも?」
ポーラも同時に疑問の声を上げ、ソルトと
トニックが答える。
「その温泉宿も多分見張られているだろう?」
「ナヴィ様1人だけ単独行動を取ったら、
敵さんもすぐに気付くと思うぜ」
続けて、シモンが打開策を提案する。
「全員別々に動くか、複数に別れりゃ、ある程度は
敵さんの目もごまかせるんじゃないか?
ミイト国の時みたいにさ」
│ ■アルプの家 │
「ナヴィ様はともかく―――
レンティルさんは地元だし、連絡役として
単独行動してきたから、1人でも問題ないんじゃ
ねーの?」
「となると、フィオナ様、アルプさん、シッカ伯爵様が
どう分けられるか、という事になりますね」
姉弟が考え込むと、家の主であるソニアも加わる。
「別々に行動するとしても―――
誰か1人は留守番していた方がいいと思うわ。
宿を空にしたら、何か一斉に行動を始めたと
受け取られてしまうかも」
「その通りです、お義母さま!」
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「ふみゅう。では、1人はこの宿で留守番すると
いう事で……」
メイがソニアの意見を肯定し、マービィ国の
従僕が引き継ぐ。
「そうですね。
さすがに宿の中までは襲撃してこないでしょうし。
フィオナ様、どうされますか?」
アルプの問いに、フィオナは目を閉じて
意識を集中する。
「ん、少し待っててください。
(よし! こういう時こそ『アンカー』ですよ!
三択なら留守番の可能性は1/3!
4章のようにまた目立った活躍の場ゼロというのは
何としてでも避けたい!
今度こそはアタシにも出番をおぉおお!!)」
彼女は地球、自分の部屋のPCを通じて、
『アンカー』たちへ語り掛け、状況を説明する。
【 留守番? フィオナ 】
【 フィオナに決まっているじゃん 】
【 フィオナでしょ 】
【 フィオナだねえ 】
「(まだ何も指定してねーんだよ!!
このスットコドッコイども!!)」
いきなり『アンカー』たちの全面的な支持を得て
指名されたフィオナは、その状況にブチ切れる。
【 いやだってなあ? あの伯爵令嬢って
護衛として付いてきてるんだろ? 】
【 場所の警戒とか見回りならともかく、
普通は単独行動とかせんわ 】
【 つまり彼女は誰かとセット 】
【 その上で、宿に1人残ってもリスクの少ない
人物は…… 】
「(ぬああぁああ……まあ、確かにそうだけどぉ、
そーなんだけどぉ)」
突然キレたり焦ったり落胆するその姿は、同室にいる
全員に見られており―――
不安そうにながめるそれぞれの視線をナヴィが
釈明する。
「あ、いつもの発作でしゅので気にしないで
くだしゃい」
「違うからね!?」
『アンカー』たちとの会話を切り上げたフィオナは、
その内容をみんなに伝えた。
│ ■アルプの家 │
「まーそうだな。
じゃ、ナヴィ様が特区に潜入する間―――
レンティルさんが単独行動、
伯爵様とアルプさんが一緒に外出、
フィオナ様が宿でお留守番か」
「少なくとも4手に別れましたね」
「これなら、一人当たりの監視も緩くなりそうです」
フラールでは、ミモザ・ファジー・メイが
納得した面持ちで言葉を交わす。
「あら? いいのメイさん。
アルプが伯爵様と2人きりになるのは」
ソニアがイタズラっぽくメイに聞くと―――
彼女はしっかりとした声で、
「あの人、侯爵様にベタ惚れですし
問題ないっしょ!
(いえ、これでも公私の区別はわきまえて
おりますから!)」
│ ■ボガッド家屋敷 │
「逆逆!!
メイ、本音が出てる!!」
妹の言葉に、ポーラが慌てて訂正に入り―――
バクシアとフラールとマービィ国では、しばらく
苦笑と微笑みが混じった空気が支配した。
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「―――では、神託を閉じます。
みなさま、お疲れ様でした」
落ち着きを取り戻した頃―――
フィオナがそれぞれの眷属との情報共有を告げ、
今回の神託は終了した。
│ ■アルプの家 │
「うぅう、わたくしったら何て事を口走って……」
メイが自分の失言を思い出して頭を抱え―――
家の主が声をかける。
「でも、打算や損得で冷静に判断出来るというのは、
商売する側に取ってはプラスですよ、メイさん」
「あ、ありがとうございまッス!!」
「じゃあ、明日の準備なんですけど
手伝ってもらえるかしら?」
「何でもお言いつけください!」
そのやり取りを姉弟は、もう慣れたという感じで
遠巻きに眺めていた。
│ ■ボガッド家屋敷 │
「では―――ソルト君、トニック君。
ちょっと良いかな?」
一息付いたボガッド家で、情報屋2人に
紙が配られた。
「……?
ルコルアに行って情報共有というのは
わかりますが―――」
「例の鉱山の他に、人手不足なところが無いか
探してきて欲しい?」
ポーラもその紙をのぞき込み、ローンに真意を質す。
「どうしたの、貴方」
「あの、働き手でも余っているのですか?」
妻と眷属の女性2人も意図が読めずに屋敷の
主人の顔をじっと見つめ―――
それに構わず、彼は少年の方へ向き直す。
「ストラジェン(シモン)君、新たに
バーレンシア侯爵様の領地に建てている工場―――
どれくらいまで労働力を詰め込めるか、
計算してもらえるかね。
なるべく多く見積もってもらいたい」
「2、3日もらえればわかるけど……
多く見積もる?
そんなに労働力のアテがあるんですか?」
シモンの質問に、大きくため息を付き―――
「あるいは……のう。
そうでない方がいいのだが」
そう言ってローンは深く頷いた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3107名―――