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11すげえこの女神初めて役に立ったぞ



―――――――――――――――――――

 この引き出しを開けないでください。

 特にママ!

 絶対にママ!

―――――――――――――――――――




ここは日本のとある都市部、そのマンションの一室。


腰まであるロングヘアーを床に付けるようにして、

一人の女性が机の前にある張り紙に見入っていた。


豊満、と呼べるほどの胸を持つが、腰に向けての

ラインは細く―――

それでいて肉付きの良い両腕の先端は、人形のような

美しいつま先を空へと伸ばす。


「だらっしゃあぁあああああ!!」


そしておもむろにその張り紙の端を手に取り―――

一気に引き裂く。


「甘い! 甘いわフィオナちゃん!


 こんな紙切れ一枚で、ママを止められるとでも

 思ったかぁああああ!!」


│ ■女神:アルフリーダ・ルールー  │

│ ■時と成長を司り、見守る女神   │




☆カチリ




「―――?


 何の音?」




│ ■日本国・フィオナのマンション近くのコンビニ  │




「あ、今トラップ発動した」


買い物袋を下げながら、外見的には一人の少女と

一匹の猫が、一緒に帰り路を歩いている。


そしてスマホを見ながら、納得したようにうなづいた。


「まあほぼ100%の確率でアルフリーダ様

 でしょうけど……

 いったいどんなトラップを?」


「さすがに爆発系はやってませんよ?

 建物に被害が出ますし。

 何よりそんな程度でママに効くはずありませんから。

 ただ―――

 納豆を3パック分ほど浴びる程度です」


「それでさっきから私の方に、

 『食べ物で遊ばないでちょうだい』って

 メッセージが来ているんですが」


「ごらん、うちのオカン無敵だ」


「それでは、そろそろ本編スタートしますね」




│ ■バクシア国・首都ブラン  │

│ ■高級青果店『パッション』 │




「……えっと、何が起きてるの?」


「俺が聞きたいくらいだぜ、お嬢」


混雑した店内を、かき分けるように歩くシモンと、

それに続いてマルゴットとバートが人混みに揉まれ

奥へと進んでいく。


「やっと商談から解放されて来てみれば……

 そういえばアルプは?」


「試食室にほぼ入りっぱなしだ。

 今日は予約制にしたんで、まだこれでも

 マシになった方だぜ」


「それで、あの―――」


マルゴットが心配そうな視線を別方向へと向ける。

そして視線の先から、声が―――


「んほおぉおおおっ、

 舌がとろけりゅぅうう!!」


「らめええぇええしゅごいぃい、

 ほっぺた落ちりゅぅうううっ!」


ふぅ、とシモンが諦めたような表情でため息をつく。


「アレについても説明するよ。

 そろそろ、アルプも昼休みになるしな―――」




│ ■高級青果店『パッション』応接室 │




「あ、マルゴットさん! バートさんも……!」


「ごめんなさいアルプ、寂しかったでしょう?

 本当は昨日の内に戻る予定だったんですけど、

 ちょっと商談が長引いてしまって―――」


言うが早いか、アルプはマルゴットの胸の中に

飛び込んだ。


「僕……っ、僕、怖くて……

 何が起きているのか―――」


「ウンウン、落ち着いて。

 普通じゃないっていうのは、店に来た時

 すぐにわかったわ」


しばらく彼の頭を撫でながら抱きしめる。

そして、話せるようになる時を待った。


「……落ち着いた? 大丈夫?」


「……ウン。

 あっ、いいえ……ハイ」


体を離して、互いに向き合うマルゴットとアルプ。

そして彼女の隣りにはバート、アルプの隣りには

シモンが立ったままで―――

アルプは説明し始めた。




「―――試食で? それで、あの声は……」


「ま、どう考えてもありゃ、食事の時に

 出る声じゃないわな。


 だけど、本当にそうなんだよ。

 アルプの果実や果物はバカみてーに

 美味いだけなんだ。

 試食だと特にな」


「ですが、信じられません―――

 いったいどれだけ美味であれば、

 ああなるのか」


「―――百聞は一見に如かず、だ。

 ホラ、アルプ」


シモンは、アルプにカットされた果実を出すよう

促した。


「それで、こ、これを―――

 少しだけ毒見させてもらって……」


端を少しだけかじり、皿に戻していく。


「え、えっと―――

 このまま食べていいの?」


「まあ、食ってみろや」


半ば投げやりなシモンの声に従うように、

マルゴットとバートはカットされたそれを

口に入れた。


「―――っ」


「……!」


2人とも、口にしたそれが喉に流し込まれるまで

無言となり―――

その後、確認し合うかのように顔を見合わせる。


「まるで上等な蜂蜜に歯ごたえがあって、

 それが溶けて流れていくよう―――」


「甘過ぎず酸味も効いていて、まるで全身に生命を

 吹き込まれるような―――」


「俺もいろいろな品種は扱ってきたが、

 こんな物は初めてだ。


 ―――なあ、お嬢。

 コイツ何者なんだよ?」


さすがに隠し通せるものではないと彼女は判断し、

意を決して話し始めた。


「……信じてもらえないかと思って、手紙では

 書いていなかったの。

 実は、アルプは―――」




│ ■日本国・フィオナの部屋  │




「え、何これうらやま……!

 じゃなくて、なんかスゴい事になっている

 みたいなんですけど!?」


「何でお前が驚いているんだよ!

 フィオナ様の眷属でしょう!?


 ―――ン? アルフリーダ様?

 すいませんフィオナ様、アルフリーダ様が

 話す事があると」


「ママが?

 ―――えっと、はい、もしもし?」


『あの、フィオナちゃん?

 自分が何の女神か忘れたの?』


「え? アタシは

 『果樹の豊穣を司る優しき女神』

 でしょ?


 ……アレ?」


『そうよ。

 果樹や果実については、

 フィオナちゃんはどんな神よりも

 力を与えられているわ。


 確かに、今のフィオナちゃん自身は

 本来の力を使えない―――


 でも、眷属にした人間にも

 それなりの恩恵が与えられているはずよ』


だんだんと自身の能力を思い出し、また自覚して

きたのか、フィオナは自分でも信じられないと

いうようにアルフリーダに確認する。


「そ、それって―――」


『眷属である彼が関わるほどに、果実は

 極上の物になっていく。


 あなたの眷属はそういう『能力』を持っているの。


 近くにいる、触る、切る、調理する―――

 一番いいのは“口移し”かしらね』


「ふ、フフフ、うふふフフ……

 とうとう来たみたいですね、アタシの時代が!」



【 すげえ、この女神初めて役に立ったぞ! 】


【 天変地異の前触れか!? 】


【 貴様ニセ者だな!

 本物のフィオナをどこへやった!! 】



彼らの数々の称賛しょうさんの言葉を聞いたフィオナは―――


「ねえママ、そっちにパパいる?

 ちょっと花火一発欲しいところがあるんだけど―――

 その後でアタシ『きたねぇ花火だ』って言うから」


「せっかく神の資格はく奪が避けられそうなのに

 こっちで問題起こすな。

 それより、眷属のあの子に早く説明を」




│ ■高級青果店『パッション』応接室 │




(―――という訳なんです、アルプ。

 貴方が扱う果実はまさに『奇跡の果実』に

 なるんです)


神託カイセンを繋いだフィオナは、アルフリーダからの

受け売りを、そのままアルプに伝えた。


「ぼ、僕に―――

 そんな力が与えられていたなんて……」


「なぁ女神様。

 それって―――もしかしてどんな果実もか?


 この店、無茶苦茶売り上げ上がってんだけど」


「そんなに?」


「下手すりゃあと5日ほどで、氷室にある在庫すら

 売り切れちまう。

 次の仕入れまで開店休業状態になるな」


(アルプの分は? どれくらい売れたのですか?)


「アルプが試食室に入りっぱなしになっちまったから、

 新たに店番1人増やしたけど―――


 昨日1日で普通に売れたのが70個、

 試食室で30個ってところか?


 チップだけで―――金貨100枚以上だぜ」


「そ、それって―――

 試食だと1個で金貨3枚以上の値段が

 ついたって事!?」


「今日は、お、お財布ごと置いていく

 お客様もいて―――」


「午前中だけでチップ金貨80枚か。

 こりゃ今日は、金貨200枚いくんじゃねーの?」


驚きと困惑と喜びが入り混じる中―――

シモンは自分を呼ぶ店員の声に振り向いた。


「何だ? 今は昼休み中だぞ?

 ―――何なんだ、まったく」


部屋を出ていくシモンを見送り、3人は

『奇跡の果実』を前に、何も言えずにいたが―――


1分もしないうちに、彼は戻ってきた。

一人の男と一緒に―――




「―――君が例の果実を売っている者か。

 店の責任者もいるし、ちょうどいい」


「誰? 貴方は―――」


黒を基調とした礼服に身をまとい、

爬虫類のような眼光を、片眼鏡の下から

投げかけてくる―――


年齢は40を少し過ぎた程度だろうか。

理性の塊のような表情、佇まい。


それが一風変わった威圧感を周囲に与えていた。


「だから、役人が何の用なんだよ」


シモンが、とげとげしい態度を隠そうともせずに

男に問いかける。

それを彼は無視して―――お目当ての人物に

視線を向けた。


「初めまして。

 徴税官ちょうぜいかん、シオニム・ネクタリンです。


 さて、ずいぶんと儲かっているようだが―――


 どんな仕掛けか、大人しく教えてもらえないかね?」


「し、仕掛けって……」


高圧的な態度に、思わずアルプは身構える。


「とぼけるな。


 たかが果実で、ものすごい利益を出していると聞いた。

 脱税か、それとも何かの手引きでもしてるのか―――


 もし違うというのであれば、合理的な説明を

 してみたまえ」


「果実は1個銀貨1枚。

 これは妥当な相場ではないのか?


 ―――チップは試食した客が自分で決めて

 支払っていったもの。


 それを問い質すならば客の方―――

 彼に聞くのは筋違いだ」


シオニムの前にバートが割って入る。

同時に、マルゴットがアルプを背後に隠した。


「どちらにしろ、後で

 関税その他は取沙汰とりざたされるぞ。


 『果実の販売で得た利益です』

 それがまかり通る金額とでも思っているのか?


 大事になる前に―――

 全て話してしまった方が、利口だと思うがね」


バートの反論にも身じろぎ一つせず、

シオニムはその場を動かずにいた。




│ ■バクシア国・首都ブラン  │




同時刻―――


首都ブランの中でもひと際大きな屋敷。

そこで一人の女性が昼食の準備をしていた。


初老の女性が、後ろから彼女に声をかける。


「ほら、これデザートにどうかしら?」


「お義母さま、買い物に行ってらしたのですか?

 そんな事は私が―――」


「散歩のついでだったから、いいのよ。

 何か、賑わっていた青果店があってねえ。


 それに貴女も、ここ数日のゴタゴタで

 疲れたでしょう?」


その果実を彼女が手にした途端―――

電流が走ったように、表情が驚きに変わった。


「(―――これ、うちの果樹園の……

 まさか―――)」




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在212名―――


―――神の資格はく奪まで、残り12名―――




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