07・主食とお肉とお魚のバランス
4章リニューアル、全章のリニューアルが
終わりました。
てか改行以外にも直すところが多くて(;・ω・)
日本・とある都心のマンションの一室―――
振袖で着飾った少女は、初日の出に向かって
ガラス戸越しに叫ぶ。
「皆様! 明けましておめでとうございます!
果樹の豊穣を司る優しき女神・フィオナです!」
「何か年明けからテンション高くて
すいませんナヴィですもう帰っていいですか?」
対照的にツッコミに回るお目付け役(猫Ver)に、
構わず彼女は突っ走る。
「相変わらずレベル高いですねーナヴィさんは。
ではここで今年の抱負をば一発!
『今年こそは必ず眷属と、少なくともアルプを
弟夫にする!』
です!」
「まあ考えてみれば機会はそれなりに
あったわけですし。
今年こそは進展するといいですね」
冷静に、しかし主筋の恋の成就を願うナヴィ。
それでも自分の世界に浸っているフィオナはそのまま
片手を高く振り上げて―――
「もしこれが叶わなかった場合、世界は闇に飲まれ、
大地は避け、海は荒れ狂い、リンゴは落ちる!」
「いきなり世の中を呪うな。
あと最後だけ極端にレベルが低いな」
「そしてアタシは人間をやめるぞぉ!
徐々にーーーっ!!」
「徐々に!?
いや元々神様でしょうがフィオナ様は!」
―――少女回想終了―――
「という初夢を見たんです」
「初夢を夢オチに使うとはなかなかやりますね、
フィオナ様。
それではそろそろ、本編スタートしましょうか」
│ ■マービィ国・温泉街 │
│ ■温泉宿メイスン・大部屋 │
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「グレイン国の―――」
「『新貴族』、ですか……」
レイシェンとアルプ、そしてナヴィとフィオナが
いったん顔を見合わせた後、情報を持ってきた
青年に視線を集中させる。
「は、はい。
『枠外の者』の動きにばかり気を取られて
いたのですが―――
別動隊から、王家がグレイン国より、貴賓を
招くとの情報が……!」
「まさか、トーリ家の者と連動して?」
レイシェンの疑惑に、女神は首を左右に振って否定する。
「んー、直接話したからというわけではありませんが、
それはないんじゃないでしょうか。
ここには、妹さんがついて来たとか言ってましたし、
それでお仕事の話をするのも何だか……」
ベルティーユの奇行を思い出し、当事者を除く
全員が複雑そうな顔をしてうなづく。
「フィオナ様がそう仰られるのであれば―――
間違いはありません」
レイシェンは一人納得し、ナヴィがふと女神から
彼女へと向きを変え、口を開く。
「レイシェンさん、グレイン国の『新貴族』について、
何かご存知でしゅか?」
「……知っている者はおりますが、それが今回やって来る
『新貴族』かどうかまでは。
せめて、爵位なり名前なりわかればいいのですが」
くるりと今度はナヴィの向きがレンティルに変更され、
意図を察した彼は応える。
「申し訳ありません。
そのあたりの情報については、まだ……
ただ噂では、子爵以上の身分の方が来られると」
「グレイン国……
序列では上位三ヶ国の一つですよね?」
アルプがレイシェンを見上げるように問い、
彼女もまた彼に目線を合わせる。
「連合国序列1位の国家です。
とはいえ、上位三ヶ国の差は実はそれほどありません。
子爵クラスであれば、伯爵でも対等に渡り合える
でしょう」
「そうなんですか?」
「はい、フィオナ様。
この上位三ヶ国は特殊といいますか……
人口もさることながら―――
連合国の主要な食糧物資を占めている事が、
大国ならしめている理由でもあります。
我がミイト国は畜産とその副産物の乳製品等を、
グレイン国は穀物を―――
シフド国は豊富な漁業資源をバックに、
連合国上位に君臨しているのです。
ただ上位三ヶ国内ではその輸出入が絡み合って
おりまして……
例えばミイト国は家畜の飼料をほぼグレイン国に
頼っているわけですが」
話が長くなりそうだと判断した時点で、フィオナは
理解を放棄した。
それはかなり早い段階で行われた。
「あっハイ。
主食とお肉とお魚のバランスって大事ですよね!」
「えっ?」
女神が限界だと感じていたお目付け役は、すかさず
フォローに入る。
「あーしょの……
つまり、もしグレイン国の『新貴族』が現れたと
しゅても、レイシェンさんさえいりぇば対抗
できりゅという事でしゅね?」
「はい! お任せください!」
胸を張るレイシェンとは対照的に、おずおずと
アルプがレンティルに質問する。
「ええと、それで僕たちは今後、どうすれば
いいのでしょうか」
「申し訳ありませんが、今しばらくここでご滞在して
頂ければと……
本来はどこまで『枠外の者』や『新貴族』の計画が
進んでいるかの調査だけでしたが」
「急に事が進んでいるみたいな感じでしゅね。
わかりましゅた、お願いしましゅ」
その言葉にレンティルは恐縮して頭を下げる。
「い、いえっ! とんでもありません!
では自分はこれで……!」
レンティルは入ってきた時と同じく、慌ただしく
部屋を退出し―――
後には男女2名ずつが残された。
その中で真面目な少年は、困った顔をして考え込む。
「う~ん……
でも、滞在って言われましても……
要はまだどうにも動けないって事ですよね?」
「まじゅ後で定時連絡をしゅるとして―――
レイシェンさん、上位三ヶ国の力関係を教えて
頂けましぇんか?
出来ればボガッド氏も交えて、しょの情報を
みんなと共有しゅた方がいいと思われましゅ」
お目付け役の提案に、女神は不満そうな顔で応える。
「(えぇ~……
せっかくだからゆっくりのんびりしましょうよ~)」
「(貴女の代わりに先ほどの話を理解するため
でしゅよわかってるんでしゅかダ女神)」
「(お役目ご苦労様にござりますナヴィ様)」
心の中で彼女は土下座並みの感謝を捧げ、
ひとまず定時連絡の時を待つ事となった。
夕食後、一時間ほどして―――
フラール・バクシア両国にいる眷属を通じ、
神託が開かれた。
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「あ、今神託がつながりました」
第三の眷属の声に、室内にいる数名のメンバーが
イスに腰掛けたまま姿勢を正す。
「……さて、準備はよろしいですかな」
初老の男性と、その横に座る同じくらいの年齢の妻を
前にして、対照的に若い男女がうなづく。
「ああ、問題ない」
「わたしも大丈夫です」
シモンとポーラが答え、それから少年の方は
あたりを見回すと、彼女に問いかける。
「そういえばメイはどうしたんだ?
昨日も店にも姿を見せなかったけど」
「メイなら、わたしと入れ違いで―――
ちょっとプレゼントを届けに」
「??」
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「……何であの姉妹の片割れがいるんだよ。
アルプさんはココにはいねーぞ」
フラールの地で因縁浅からぬ相手に、ミモザは毒付く。
もちろん、弟のファジーを自分の後ろにかばいながら―――
「オイ、ソルト。
何でコレ連れてきたんだよ」
「い、いや。
届ける物があるって言うから、護衛も兼ねて……」
不満気なミモザとはまた別の理由で、彼女もまた
不服そうな表情でつぶやく。
「もう、せっかくフラールまで来たのにアルプ君が
出て行ってしまわれた後だなんて。
私もマービィ国へ行こうかしら」
「ごめんなさいメイさん。
でも、アルプはフィオナ様に従い、重大な
使命を遂行しているはずですので」
「いっいえっ! お母さま!
決して非難しているわけでは……!」
片思いの少年の母を相手に、さすがにメイは焦り
口ごもる。
「そういえば、バクシアではアルプに大変良くして
頂いたとか……
もしよろしければ、ここで少しお手伝いをして
頂けないでしょうか。
アルプが普段どのような仕事をしていたか、
知って頂くいい機会かと」
「是非よろしくお願いします!
全部教えてくださいお母さま!」
この時、ミモザ・ファジー姉弟はソニアの
『よっしゃー労働力げっと』という小さな声を
聞き逃さなかった。
│ ■ボガッド家屋敷 │
「……それにしても、俺もいなきゃならないのか?」
シモンは頭をガシガシとかきながら、隣りに座る
ポーラに要領を得ないといった感じで質問する。
「だって、わたしは徴税官の娘なんですから。
ボガッドさんのお屋敷に一人でいたらいろいろと
マズいでしょう?」
「いや別に徴税官本人ってわけじゃねーし……
考え過ぎじゃねーのかなあ」
その光景を初老の女性が目を細めながら見つめ、
夫が軽く咳払い咳払いして、本題に入る。
「ウォッホン!
さて、上位三ヶ国の関係について、でしたかな……」
│ ■マービィ国・温泉街 │
│ ■温泉宿メイスン・最上級客室『光の間』 │
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
「グレイン国のお仲間、ねえ。
一体誰が来るのかしら。
まあ今回、『枠外の者』が来ようが『新貴族』が
来ようが―――
私には関係の無い話だけど」
「ですが、グレイン国は序列1位の国でしょう?
またミイト国での騒動のように勘違いされたら、
厄介な事になりませんか?
あの時は介入している『枠外の者』も
『新貴族』も、同じ国内かそれ以下の
序列の国で良かったですけれど」
シンデリンのつぶやきにも似た言葉に、従者は
心配そうにたずねる。
それに対する彼女の返答は―――
「確かに序列ではグレイン国が1位でシフド国が2位、
ウチのミイト国は3位って事になっているけど……
この三ヶ国は実はそんなに差は無いのよ。
それに利害が絡み合っている国でもあるから。
ベルちゃん、ウチの主要産業って何だったかしら」
妹に質問を向けると、不思議そうな表情ながらも
それに答える。
「……ン……?
確か……」
│ ■ボガッド家屋敷 │
「まず、ミイト国の主要産業は畜産です。
肉は元より、副産物として獣皮や獣毛、
そして乳製品が商品として連合国家内で
流通しております。
その家畜のエサとなる飼料は―――
大部分をグレイン国から輸入しております」
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「ふみゅ、じゃあミイト国はグレイン国に
頭が上がらないって事でしゅか?」
ナヴィは当然の疑問を口にする。
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
「でもシンデリン様、それって―――
ミイト国の生命線を握られているという
事なのでは」
従者の質問に、主人は説明する。
「グレイン国の主要産業は穀物だけど―――
その肥料となる魚肥は序列2位のシフド国に
全面的に頼っているの。
シフド国は海に面していて、豊富な海洋資源を
持っているわ。
その代わり、穀類や動物性たんぱく質は他の
二国から輸入しているのよ」
│ ■ボガッド家屋敷 │
「このあたりの事情は、ミイト国もグレイン国も
似たようなものです。
大規模な国力と人口を支えるには、食糧需要を
満たす供給を確保していなければなりません」
│ ■アルプの家 │
「バランスがその三ヶ国で取れている、
という事ですか……」
独り言のようにファジーがぽつりと出した言葉に、
室内の人間は同意の合図のように首を縦に振る。
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「良く言えば互いを補う協力関係―――
悪く言えば利害の一致が絡み過ぎて、うかつに
動けない仲とも言いますか」
レイシェンが話を締めるように、誰に向けるでもない
言葉を述べた。
「なるほど……
……? あの、フィオナ様?」
話が一段落したと思ったアルプは、主人である
女神の方へ話しかけるが、彼女は反応を示さない。
「あー、しょれは理解のきゃぱしてぃを超えたので、
目を開けたまま眠っているんでしゅよ。
神託は私が引き継いでいましゅし、
フィオナ様には後で説明しましゅから大丈夫でしゅ」
レイシェンとアルプの目は点となり―――
落ち着いた後は、それぞれ個人的な報告ややり取りの
時間となった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3070名―――