05・理論ではなく魂で分かり合える同士
現状、2章まで空白スペース削減他いろいろと
リニューアル中。
初期のバーレンシア侯爵ってレンジって
呼んじゃっていたのね(;・∀・)
日本・とある都心のマンションの一室―――
コタツに入りながら、TVを見てくつろぐ
少女と猫が1人と1匹―――
「今年もいつの間にか終わりですね。
去年の今頃は結構バタバタしていた感じ
でしたけど……」
コタツの中から上半身だけ出して、お目付け役は
主筋の女神に応える。
「今年も今年でいろいろありましたね。
ほら、フィオナ様がパンをくわえて走りながら
曲がり角を曲がって火の輪くぐりをした時は
驚きましたよ」
「ウンそんなの本人の記憶にも無いよ?
ねつ造はいけないと思います」
テーブルの上に突っ伏すようにアゴを乗せながら、
フィオナはナヴィの言葉にツッコミを入れる。
「はー……しかし、誰とも進展なしで年末まで
来るとは。
何かきっかけとか無いんですかね」
「アルプ君なら、奉公労働者に落ちるのを
回避させたのと、お母さんの解放という
これ以上ない恩義というか実績があるでしょう。
当人も眷属に選ばれた事を誇りに思っている
みたいですし、そこから入ってみては?」
過去のおさらいと手段を提示され、女神は考え込む。
「んん~……でもアルプを眷属に出来たのは、最初は
ママから力を貸してもらったからだし……
後半はアタシの実力と言えなくもないですけど。
何というか、アレをもって迫るのは自分で納得
出来ないとゆーかー」
「変なところで頑固なんですね。
まあ、マービィ国で温泉に行く機会があるみたい
ですし、そこで距離を縮める努力をしてみては」
「そっか! そーいえば温泉イベントがあったわね。
何としてでもこのチャンスをものにしなければ!」
「イベントゆーな。
それじゃそろそろ、本編スタートしますね」
│ ■マービィ国・温泉街 │
「…………」
「…………」
日差しが落ちてきたマービィ国の温泉街の
道端で―――
互いに見知った男女が対峙していた。
「どうしてここに『枠外の者』の貴方が?」
「それはこちらのセリフです。
レイシェン・シッカ子爵―――いえ、今は
『伯爵』令嬢でしたかな」
その瞳の奥から、動揺とも疲れとも取れない
視線を、ラムキュールは向ける。
「まあ、ここは観光地であり温泉街です。
遊行でいらっしゃっているのであれば、
無粋な真似はやめておきませんかね?」
「わたくしは仕事―――
ある方々の護衛です」
「……護衛?
こんな序列下位の国に?」
│ ■温泉宿メイスン │
「……どうして貴女がこんなところに?」
「それはアタシのセリフなんですけどねえ」
温泉施設、その露天風呂へ入浴しに行く途中―――
女神・フィオナとトーリ財閥の令嬢・シンデリンは
バッタリと鉢合わせした。
「あれ? ネーブルさんでしゅか?」
「そういう貴方は……ナヴィさん?」
ミイト国で面識のあった彼らは互いに確認を兼ねて
声を交わすが―――
初対面の人物もおり、疑問と同時に口を挟む。
「え? どなたですか?」
「あ! アルプちゃんじゃない。
久しぶりー」
アルプの声にシンデリンは即座に反応し、
すぐにフィオナの後ろに隠れる。
「相変わらずアルプにご執心ですか……
そっちにそれだけの美形さんがいるにも関わらず」
「その言葉そっくりお返しするわよ。
そっちにはファジーちゃんもいるんでしょ?」
女神は商人とにらみ合うが、ふと横のネーブルに
視線が移る。
「てかナヴィ、この人って報告にあった人?
何か中身というかイメージが」
「んー、ネーブルしゃんはちょっと事情が複雑
でしゅて……」
腕組みしながらどう説明したらいいものか悩んで
いると、シンデリンが目を閉じて何やら思い出す。
「……あら? ナヴィって言ったら……
確かバーレンシア侯爵様お付きの―――
という事はやはり……」
一人納得する彼女を横に、当事者同士が対峙する。
「ああ、今回は女性の格好はしてないんですね。
薄々気付いてはおりましたが」
「こちらも似たような事情とは思っていましゅた。
理由も同じでしゅよね、多分」
頭の上に疑問符として?マークを飛ばしまくる
アルプを置いて、フィオナとシンデリンは互いに
手を伸ばし、ガッチリと握手を決める。
「どうやら―――敵とはいえ志は同じのようね」
「理論ではなく魂で分かり合える
同士がいるとは……!」
よく状況が飲み込めず、女性陣の間をキョロキョロと
アルプの目線が行き交う。
「あの、これはいったい??」
「あー、しょれは後で話しますよ。
とにかく、温泉に来たんでしょう?」
「そうですよ。
ではここで一度別れましょう。
お嬢様も、事情は直接その方にお話しください」
アルプがフィオナとシンデリンの会話を
理解出来ずにいると、ナヴィとネーブルが
入浴のため、別行動を促す。
「そうね。ここに混浴は無いようだし。
男は男同士、女は女同士でってところかしら」
「それじゃ、後はゆっくりとお湯につかりながら、
お話する事にしましょう」
そして女神と商人の女性は方向転換し―――
その背後から、お互いのお目付け役と付き人が
声をかける。
「フィオナ様、ひとつだけ―――」
「言っておく事があります、お嬢様」
呼び止められた2人は振り返り、
「ん? なあに、ナヴィ」
「何ですか、ネーブル」
名前を呼ばれた少年2名は並んで応え―――
「……のぞくのはダメでしゅよ」
「……のぞかないでくださいね」
その言葉に、女性の方は苦笑しながら、
「ヤダもー、ナヴィったら」
「フツー男女逆でしょう、ネーブル」
当然ともいうべき反応を示した後、彼女たちの顔が
キリっと真面目な表情となり、
「そんな約束出来るわけないでしょう!?」
「そうよ! バカなの!?」
アルプはポカンと口を開け、反論を受けた
少年2人は同時に叫んだ。
「「バカはお前らでしゅ(だ)ーーー!!」」
│ ■温泉宿メイスン・女性用露天風呂 │
しばらくして―――
フィオナとシンデリンは互いに湯につかり、
くつろいでいた。
「そ~いやあ、ミイト国での一件は聞いて
ますけど……
今回は何でこの国に?
また悪い事でも企んでいるの?」
ずけずけと質問してくる女神に対し、商人は
消極的に応える。
「企んでいたとしても、何でそんな事を正直に
答えなきゃならないのよ。
でもまあ、今回は私に取っては関係ないと
いうか、お詫びというか……」
―――シンデリン回想中―――
│ ■ミイト国・某所 │
とある薄暗い一室で―――
『枠外の者』たちが再び集まっていた。
常に顔を出す常連ともいうべきジン・ラムキュールと
シンデリン・トーリは、自身に向けられた疑惑に対し、
ため息をつきつつ釈明に追われていた。
「だから何度も言っている。
私がミイト国から離れる時までは、彼女に関する
動きは知らなかったのだ。
それはシンデリン・トーリも証言してくれて
いるだろう」
イラつきを隠そうともせず、ラムキュールは
周囲に対し抗弁する。
「まさか、貴方を擁護する日が来るなんてね。
ただ彼が言っているのは本当よ。
シッカ子爵令嬢―――いえ、今は伯爵令嬢かしら?
私たちにバーレンシア侯爵との関係に釘を指す
一方で、自分はちゃっかりつながっていたなんてね。
悔しいけれど、今回はあちらの方が一枚も二枚も
上手だったってだけ」
彼らは―――『新貴族』の一員であった
レイシェン・シッカの離脱について追及されていた。
その事については彼らはおろか、
当のバーレンシア侯爵すらあずかり知らない
ところで勝手に進んでいた話なので、実際に
彼らは無実なのだが―――
度重なる計画の失敗が、必要以上に疑念の空気を
醸成していた。
「しかし、君達は一番近く現場にいたわけで……
本当に何もわからなかったのかね」
なおも続く疑問の声に、シンデリンも反発する。
「現場に近く、ってねえ……
だいたいあのお見合いは押し付けられた
ものでしょ?
それが勝手に疑っていややっぱりくっつくなだの
二転三転して……
それにこっちは貴族様に見張られる立場だったのよ?
どうしろっていうのよ」
自分への無理強いをカウンターに使いつつ、正論で
反論材料を潰していく。
ラムキュールは何とか話の方向性を変えようと、
彼女の言葉を引き継ぐ。
「仲間割れしている場合ではないという事を、
理解してもらえればいい。
フラール、バクシア、ルコルア、ミイトと
失態を続けているのだ。
このままではさらなる離脱を招きかねん。
特にあの―――
『連合共同金融安定局』には、各国の『新貴族』の
協力が不可欠なはずだ」
「私は奉公労働者さえ買えればいいんだけど、
目を付けていた2人でさえ入手の目途が
立ってないっていうのに……
で? 私たちを責めるあなた方には、
何か景気のいい話はないワケ?」
『今回のペナルティに釣り合う利益を寄越せ』
と、言外ににじませながら要求し―――
他の『枠外の者』たちは顔を見合わせる。
「……そういえば、フラールと同じくらいの規模の
国があったな。
農業国ではあるが、フラールの再現テストで
使えればと思い、取っておいたのだが」
「グレイン国の仲間が狙っていた国か。
まあ、計画の立て直しの時間稼ぎにはちょうど
いいだろう。
『新貴族』サマの方々にも、何かオイシイ話を
用意しないといけないからな」
その男の提案にラムキュールが応え―――
シンデリンは不満そうに手にした扇子を振る。
「私は今回は様子見させてもらうわ。
儲かりそうになったら言ってね」
「まあそう言うな―――
確かあそこは温泉施設もあったはずだ。
様子見ならばそこですればいい」
返事もせず、シンデリンは静かに席から
立ち上がり―――
部屋を出る直前になって振り向いた。
「費用は全部そっち持ちでね♪」
―――シンデリン回想終了―――
「……ホントにもう。
まあこれを機に、ネーブルと仲良く
なれたらぐふふふ」
「?? どうかしました?」
フィオナからのツッコミに、慌てて会話を振って
流れを変えようとする。
「いいいいえ別にっ。
それより、事情は一通り聞きましたけど……
他に来ている人はいないんですか?」
事情は聞いた、と言っても―――
『枠外の者』、『新貴族』、『女神の導き』に
関する事はタブーのようにお互い避け、もっぱら
異性の事に集中した。
ただ、シンデリンの方でもめぼしい情報はあらかた
調査済みで―――
本当にフィオナが神様だと信じているかどうか、
という認識の違いがある程度だった。
「こちらにはもう1人来てますよ。
護衛ですけど」
その護衛とは、ちょうどフラールに来ていた
レイシェンであった。
また、『女神の導き』の一員であり
マービィ国出身のレンティルも、入国まで
同行していたが、今は同国の仲間に連絡を
付けるため、別行動を取っていた。
「確かに、女子供だけですからね。
旅行だとしても、ちょっと不用心でしょう」
「女子供だけって、それはそっちも―――」
「ネーブルが護衛のようなものです。
結構強いんですよ、彼」
へー、と感心するフィオナは、もう1つ質問を
彼女へ向ける。
「じゃあ、ココへは2人きりで?」
「そうだと良かったんですけど、妹がついてきて
おりまして……」
│ ■温泉宿メイスン・男性用露天風呂 │
「……ああ、それで女性の格好を」
「お互い、苦労するでしゅねえ」
「あ、アハハ……」
ネーブルとナヴィが互いの気苦労をいたわって
いるのを、困惑した苦笑でアルプは流す。
「……しかし、アルプしゃんのお母しゃん……
来られなくて残念でしゅたね」
「やはり果樹園は僕とお母さん、どちらかが
いた方が安心ですし……
おじい様、おばあ様のお世話のためにも、
隣国にいた方がいいですから。
そういえばネーブルさんは、トーリさんと
2人きりで来たんですか?」
その問いに、ネーブルはいったん手ぬぐいで
顔を拭き、汗をぬぐいながら答える。
「いえ、シンデリン様の妹、ベルティーユ様も
一緒です。
確かナヴィさんはミイト国で会った事があると
思いますが」
「ああ、あの長髪の女の子でしゅよね。
そうでしゅか、では後でその方にも挨拶を」
「……ん……久しぶり……」
聞き覚えのある声に、ナヴィが振り向く。
同じ湯舟の中に、バイオレット・ヘアーの
少女の姿を認め―――
「あ、お久しぶりでしゅ」
「あれ? 内風呂に入っておられたのでは」
「あ、は、初めまし……て……?」
特に誰というでもなく、彼女は3人の方を
凝視し―――
「……じー……」
男性陣は現状の把握に時間を要し、理解した順に
戸惑い―――
そして、絶叫が露天風呂に響き渡った。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3061名―――