04・無い(断言)、というか無理
シナリオの中でナヴィが常識人枠だと
思われているが、『アンカー』条件を
頑なに守っている時点でフィオナと
同レベルだと知る人は少ない。
日本・とある都心のマンションの一室―――
ある手紙に目を通す少女が一人。
そしてその膝の上には、一匹の猫がくつろぐ。
「う~ん、信者数4000で次の眷属追加かあ……
ちょっとしたソシャゲのアクティブユーザーくらい
必要なワケね」
「その基準はよくわかりませんが……
まあ神様始めてまだ2年も経っておりませんし、
あの世界の国や人口を考えたら、それなりに
優秀な成績だとアルフリーダ様も仰っておられ
ましたよ?」
膝の上の同居人を撫でながら、会話を継続する。
「そういえばパパとママって、今どれくらい
信者がいるのかしら?」
「ユニシス様もアルフリーダ様も、複数の世界を
掛け持ちで神様を担当しておりますからね。
中には世界まるごと、という担当もありますし。
合計したら地球の人口を超えるんじゃないで
しょうか」
改めて自分の両親の偉大さを知り、
少女はため息をつく。
「あーあ、アタシだって複数の異世界に
行けたら、もっと信者を増やせるのに……
でも今のところ、地球とあっちにしか
行けないのよねー」
「んー、でも確かどこかで、別の異世界に行く
やり方を見たような。
それも地球では結構ポピュラーな方法で……」
ナヴィのその言葉に、フィオナは食い気味で
聞き返す。
「えっえっ!? 何それ!?
そんな方法あるの教えろ教えてください!」
「えっとですね、まずは外出して―――」
「ほうほう、外で?
それから?」
女神はメモを取りながら、先を促す。
「交通量の多いところまで行って―――」
「ふむふむ」
「トラックに轢かれて―――」
それに対する答えと言うように、フィオナは
どこからか取り出したライトボードをナヴィの
前に置く。そこには、
―――――――――――――――――――
〇 異世界転移
× 異世界転生
―――――――――――――――――――
と書かれており、それを見たナヴィは―――
「そんなのどっちでもいいじゃないですか。
全く、ゼイタクなんですから」
「スイマセン生死に関わる事はなるべく
安売りしない方向でお願い出来ます?
それにアタシ、前世と来世がちょっとママ絡みで
アレなんで……
(前世:アメの包み紙/来世:焼き芋の包み紙)
そのへんちょっとあやふやなんで無茶出来ないって
いうかー」
「あー、まだ引っ張っていたんですかその設定。
というよりも、アルフリーダ様も忘れているんじゃ
ないでしょうか。
自分で聞かないと多分思い出さないですよ?」
「そうね。その内ちゃんと話さないと……
それじゃそろそろ、本編スタートするわね」
│ ■フラール国・バクシア国代官館 │
「―――そうか。
陞爵の儀の日程が決まったんだね」
「おめでとうございます」
「はい。
これも何もかもバーレンシア侯爵様のおかげです」
代官館の応接室―――
とは名ばかりの、館の中では一番広い部屋で、
シッカ伯爵令嬢と侯爵と伯爵はお茶を飲んでいた。
アルプの家で『女神の導き』との会合が終わった後、
リーダーであるガルパンは組織への報告のため一度
オリイヴ国に帰還し、
レンティルはマービィ国へフィオナとアルプを
案内するために、その準備のため果樹園に滞在
する運びとなった。
マルゴットとポーラはアルプ宅に一泊し、
情報屋・ソルトの到着を待って、それぞれ
役割を持って帰る予定である。
そしてバーレンシア侯爵は自分の館へ、
バートレットも挨拶のため一度館へ寄る事に
なったのだが、そこにレイシェン・シッカ伯爵令嬢が
待っていたのだった。
│ ■アルプの家 │
一方、アルプの家では―――
すでに眷属の少年2人はナヴィと一緒にお風呂に入り、
その間、ポーラとマルゴット、ソニアとミモザ、そして
フィオナがリビングで話し合っていた。
「何か話が大きくなってきたねぇ。
まあ乗りかかった船だ、とことんやるさ」
ミモザが用意されたお茶に口を付けながら、
投げ槍とも決意とも取れない感想を漏らす。
「そういえばポーラさんは―――
どのような理由で、フィオナ様の眷属に?
確か、アルプやファジー君とは異なる理由
なんですよね?」
「う”……アハハ、それは、わたしとフィオナ様だけの
秘密という事で……」
マルゴットの問いに、引きつった笑顔で答えるポーラ。
それにつられてフィオナも視線が泳ぐ。
「あの、グラノーラ様―――
アルプの事はどうお考えでしょうか?」
「ぶふっ!」
母親から息子の事を聞かれ、思わずマルゴットは
口にしていた水分を吹き出す。
「そ、その……どうって、どう」
「わかりやすいな……」
動揺するマルゴットに、ミモザはツッコミを入れる。
「ア、アルプはそのっ、フィオナ様の眷属ですし?
さすがに神様相手は分が悪いと言いますかっ」
「へあっ!?
あ、い、いえっ、確かに一番最初に目を付けた
弟夫ではありますけれども!
……というかマルゴットさん、結構アルプに
ご執心だったようですけど、諦めるんですか?」
フィオナの言葉にマルゴットは一瞬目を伏せたが、
すぐに微笑をともなった顔を上げて―――
「『枠外の者』との戦いが、一段落するまでですわ。
そう簡単に諦める事なんて出来ませんもの」
「ふふふ……いいでしょう。
その勝負、受けて立ちます」
お互いをライバルとして認め火花を散らす。
そしてもう1人のライバルの姉が口を開く。
「でもアルプさんって、メイにも好かれて
いるんですよね?
あのトーリ財閥のお嬢さんにも狙われているって
話でしたし」
「競争率高いな。まああの顔じゃ無理もないけどさ。
しかしその財閥のお嬢さんとやら、今回の侯爵様の
お見合い相手だったんだろ?
貴族様とタメ張るってどんだけなんだよ」
一通りツッコミを入れた後、ミモザはお茶を
喉に流し込む。
「そう言うミモザさんはナヴィの事、
どう思っているんです?」
「げぷほっ!?」
別角度からのフィオナの急襲に、ミモザは
あたふたと困惑する。
「どどどどうって、あああアタイにはファジーが
いるんだし、別に」
「確かにミモザさんって結構、普段から
ナヴィ様の事を口にされるような……」
狼狽と当惑とごちゃ混ぜになったミモザに、
冷静な疑問がソニアから向けられ―――
「だだだってそりゃあ、ファジーを助けてくれた
恩人でもあるしいいいい」
ミモザを中心に混乱した空気の中、
時間は過ぎていった。
│ ■フラール国・バクシア国代官館 │
「しかし、噂には聞いておりましたが……
普段から侯爵様は、このような厳しい環境で
己を鍛えているのですね。
このわたくしも、身が引き締まる思いです。
まだまだ未熟である事を自覚させられます―――」
室内を一通り見回して、レイシェンは感嘆の言葉を
侯爵に捧げる。
「あ、アハハ……
そういえば騎士団はどう?
僕としても、他国の剣技を知るのはいい勉強に
なったけど」
これでも、来客用に少しは改修したんだけどなあ、
とは言葉に出さず―――
近況の話題に流れを変える。
「騎士団の方々に取っても刺激に……
本音を言えばちょうどいい薬になったと思います。
序列上位国と王家直属という名にあぐらをかいて、
他を見下す者までおりましたから。
特にビューワー伯爵殿に片っ端から打ちのめされる
様は、見ていて胸がスッとしましたわ」
「彼らが、先に手を見せ過ぎたからですよ。
手の内さえ知ってしまえば、後は受け流せば
いいだけですから―――」
・・
「えっ? 『受け』?」
「?」
「?」
どうしてその単語に反応したのかわからず、
男性陣2人はキョトンとした表情を見せる。
│ ■アルプの家 │
「お?」
同時刻、同じ国内で―――
何かを察知したフィオナは声を出し、同時に
動きを止めた。
「えっ?」byマルゴット
「どうかしたかい? フィオナ様」byミモザ
│ ■フラール国・バクシア国代官館 │
「あ、い、いいえ。
それにしても―――お二人よる模範試合は
見事でしたわ。
双方一歩も引かず、実戦とも思えるような
迫力でございました。
あれを見た騎士団全員が、井の中の蛙だと
思い知った事でしょう」
出されたカップに一度口を付けて、ため息と
共に皿の上に戻す。
「フラールの代官になってから、彼には何度か
相手してもらったからね。
おかげで、腕が鈍るのは避けられたよ」
「とはいえ、お互いに手の内を知っている相手
でしたから―――
最後はどう誘い、それを受け、対処するか……
その読み合いが時間切れまで続きましたからね」
「さ……『誘い受け』……っ!?」
「?」
「?」
思わず口に手を当てて赤面する彼女に、男性陣は
意図が読めずに困惑する。
│ ■アルプの家 │
「ほう……?」
再び同時刻、同じ国内で―――
何かを察知したフィオナは声を出し、同時に
動きを止めた。
「??」byポーラ
「あの、フィオナ様。
何かあったのですか?」byソニア
│ ■フラール国・バクシア国代官館 │
「あ、あああ、いえ、その―――
そ、そういえばバーレンシア侯爵様は本日、
どちらへ行っておられたのですか?
ビューワー伯爵殿と一緒に……」
その言葉に彼らは顔を見合わせ―――
互いに目で語り合う。
「(どうしよう。
言っちゃった方がいいかな?
でも、彼女まで巻き込むのは本意じゃないし)」
「(隠し通せる覚悟があればそれでもいいですけど……
侯爵様にその自信のほどは?)」
「(無い(断言)、というか無理)」
その答えに納得した表情を返し、バートレットは
彼女の方へ視線を向ける。
「レイシェン・シッカ伯爵令嬢―――
あの後、『新貴族』や『枠外の者』は
何か言ってきませんでしたか?」
ああ、というふうにアゴを少し引いて、
姿勢を正し、同じ伯爵の男性に視線を向ける。
「その後は―――
わたくしから連絡はしておりませんし、
彼らからも積極的に接触しようという気配も
ありません。
恐らく、『新貴族』『枠外の者』に否定的な
ディーア公爵様がわたくしを後押しした事で、
彼らも距離を取りたがっているのではないで
しょうか」
「シンデリンさん……トーリ家は?」
伯爵に代わり今度は侯爵が質問し、視線とともに
レイシェンはそれに応える。
「あの一件で、『枠外の者』との関係は
少なからずギクシャクしたものになって
いるでしょうが……
そもそも『枠外の者』は、集合離散も多い
勢力ですので、関係自体はあまり変わって
いないのではと思います」
ふむふむ、と情報を把握している男性陣に、
今度は彼女の方から質問が飛んでくる。
「今のお話は―――
侯爵様と伯爵殿がご不在だった事と、
何か関係が?」
「まあ、そう言えばそうだね。
実は……」
バーレンシア侯爵は、今日の出来事を
偽りなく語り始めた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3030名―――