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10美少年感知(シックスセンス)



「そういえばナヴィは人間の姿に

 なれるのよね?」


「はい、そうですが?」


日本、とあるマンションの一室で―――

一人の女神と一匹のお目付け役の猫は、

常識とはかけ離れた会話を交わしていた。


「って事は―――

 人間の感覚も分かるって事?」


「それはもちろん」


ナヴィの回答に、フィオナは不満そうな表情を

隠そうともせずに次の質問に移る。


「え~……でもさぁ、

 ナヴィがここに来てから、

 アタシの膝の上で寝たり、

 一緒のベッドで眠ったりもしましたよね?」


「まあ、猫ですし。

 それが何か?」


「それっておかしくない?

 こんなナイスバディな美少女と

 一緒にいるんですよ?

 いろいろスキンシップしているんですよ?

 それで何とも思わないの? オスなのに」


「……まったく、何がナイスバディですか。

 女性の魅力うんぬん言うのであれば、

 体型もアルフリーダ様並になってから―――」




―――そこには、ドス黒い覇気をまとい―――


―――両眼に鈍い光を宿した女神がいた―――




「OK落ち着きましょう争いは何も

 生みませんそうでしょう?(早口)


 で、では本編スタートいたします」




│ ■日本国・フィオナの部屋  │




>>300


【    試食    】



「えええ……試食ってアレですよね。

 よくデパ地下とかスーパーとかであるアレ」


「まあ一般的? 平均的?

 と言えなくもない?

 ものですね」


「純度100%で庶民的じゃないですか!

 どうするんですかコレー!!」



【 まあまあ、味で買っていく

 『物好き』もいるって話じゃん。 】


【 意外とイケるかも知れないよ(適当) 】




│ ■バクシア国・首都ブラン  │

│ ■高級青果店『パッション』 │




「ぬ”ぁ”?」


自分の店でアルプの『頼み』を聞いていた

シモンは、困惑と怒りとで妙な声を上げた。


「あのなアルプ、俺の話聞いてたか?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!

 で、でも―――」


謝り倒すアルプに、ふぅ、と一息ついて

改めて向き直す。


「確かに俺は、

 『味で買っていく客もいる』

 と言った。


 だけど、そりゃ『物好き』だ。

 自称グルメとか味にウルサイとか―――


 そんな客は別室に案内して、

 素材を直接、または調理したりして

 食べてもらっているんだ。


 もちろん別料金としてチップが必要になるけどな」


「そ、それじゃ―――」


「でもそんな客は月に数回現れるかどうかだ。

 しかも面倒くさい場合が多い。

 その上、時間を取られちまう。


 正直、俺としてはあまり

 『相手にしたくない』部類の客だ」


「あ、あうぅ……」


小さくなるアルプの頭を、シモンがポン、と叩く。


「―――まあ、何事も勉強だ。

 そんなに試食させたけりゃ、『試食可』の

 看板をお前のスペースに掲げておくよ。


 あと、手に負えないと思った客が来たら―――

 すぐに俺を呼べ。わかったな」




│ ■日本国・フィオナの部屋  │




「け、結果オーライですね!

 さっすがアタシ!」


「現状、あまり変化が無いような

 気もしますけどね。


 『アンカー』は守られたので

 良しとしましょう……ん?


 ―――ユニシス様が? フィオナ様に?

 少々お待ちを。

 フィオナ様、ユニシス様に連絡を取ってください」


「へ? パパがアタシに? 何で?」


「そこまでは……とにかく、

 ご連絡をお願いします」


手持ちの機器を取り、彼女は父親に連絡を

取る事にした。


「あ、パパ―――

 どうしたの?」


『どうしたの、じゃない。

 フィオナ、お前は今の状況がわかっているのか?

 もう残り20人を切ろうとしているんだぞ』


「あ、それはその、だからぁ。

 今何とか出来そうな感じで……」


『今すぐ手続きを申請すれば間に合うんだ。

 意地張ってないで、早く―――』


「―――!?」


『―――!』


父娘の話し合いが長期化しそうだと見たナヴィは、

神託カイセンをいったん切る事にした。




│ ■バクシア国・首都ブラン  │




「……くんくん……

 ここら辺りから、美少年の気配がする……」


「珍しいわね誤差が出てるわよ貴女の美少年感知シックスセンス

 でもこの辺りだとシモン君くらいじゃないの?

 彼は好みじゃないんでしょ?」


銀のロングウェーブの髪を揺らしながら、

姉妹と思われる女性が街中を歩く。


その装飾の割にはラフと思われる動きやすい

服装をしているが―――

地味や派手さを感じさせず、セリフを抜かせば

気品に満ちた雰囲気を周囲に与えていた。


「シモン君もいいんだけどねー。

 彼、ちょっとしっかりし過ぎっていうか。

 年上でもグイグイ引っ張って行きそうだし」


「メイはそれじゃダメなの?」


「ポーラ姉さまはわかってないなあ。

 『僕、お姉ちゃんがいないと何も

 出来ないんだ……』

 くらいじゃないと、年下の醍醐味だいごみ

 無いじゃないの」


「まあ、貴女の好みにどうこう口を挟む

 気はありませんけど……あら?


 ……どうやら貴女の美少年感知シックスセンス

 狂いは無かったみたいね」


「どゆ事?

 ―――お?」




その2人の視線―――右斜め45度面舵いっぱいの

ところに―――彼はいた。


「え? え? シモン君の店に

 あんな子いた?

 アレ男の子だよね?

 めっちゃ可愛くない!?」


「これは、何としても一目見ておかないと。

 そしてお近づきになっておかないと。

 そして身長体重好きな食べ物その他の

 データを収集しておかないと―――」


明らかに購買目的とは違う何かを狙って、

2人は店内へと向かった。




│ ■バクシア国・首都ブラン  │

│ ■高級青果店『パッション』 │




「い、いらっしゃいませ」


「―――あら、この店では初めて見る顔ね」


あくまでも今気づいたフリを装う2人。

そして反応を見て楽しむ。


「ぼ、僕はアルプといいます。

 今日から、シモンさんのお店で僕の果樹園で獲れた

 果実を売らせて頂いております」


初対面で、かつ年上の女性。

さらに異性としてその美貌を前にしているからか、

真っ赤になりながら頭を下げる。


「果樹園? バクシアで果樹園って珍しくない?」


「……いえ、フラール国のです。

 僕は奉公労働者として、ある方のお付きで

 この国に」


「(ぐはぁ……っ、これだよこれポーラ姉さま!

 薄幸の美少年、それも異国の……

 しかもすごく素直そう……!)」


メイは心の中でガッツポーズを決めながら、

その喜びを姉に伝える。


「(これは久しぶりの逸材いつざいね……!

 いいわ、わたしも全面的に協力するわよ。

 どうやってこの子と親しくなるか……ン?)」


そこでポーラの視界に入ってきたのは―――

『試食可』という看板。

それに気づいたのか、メイも視線をポーラへと移す。


「(ポーラ姉さま……これは)」


「(利用しない手はありません……!

 行きますよ、メイ!)」


「―――アルプ君、これ、試食出来るのよね?

 お願いしてもいいかしら」


「えっ!? は、はい。それでは別室で―――

 それと別料金として―――チップをい、頂きますが、

 よろしいでしょうか?」


「大丈夫よ、この店の事なら多分貴方よりも

 詳しいわ。

 さ、早く別室へ行きましょう」


そして、2人に促されるようにして、

アルプは試食用の別室へと一緒に入っていった。




│ ■高級青果店『パッション』・試食室 │




「そこでおかけになってお待ちください。

 すぐにお出ししますので」


部屋に入ると、アルプはすぐに準備を始めた。

簡易ではあるがキッチン、それに道具は一通り

揃っている。


酸化防止のための塩水を作るため、ボールに水を入れて、

さらにそこへ塩を追加する。


そして手早く果実の皮を剥いて、8等分にカット。


塩水に一瞬浸した後、盛り付け用の皿に綺麗に並べ、

彼女たちの前に置く。

この間実に3分ほど―――




「お、お待たせいたしました。

 どうぞ―――」


「さすがに手際いいわね。

 んじゃ、さっそく」


「待って」


次の動きをポーラが手で制する。


「な、何でしょうか?」


「毒味、してもらえないかしら?」


意味が飲み込めずポカンとするアルプに、

意図を察したメイが追い打ちのように言葉を続ける。


「―――ちょっと自分で食べてみて、

 って言ってるの。


 それとも貴方は、自分では食べられないような物を

 わたくし達に勧めようと言うのかしら?」


『面倒くさい場合が多い』―――

アルプは、シモンの言葉を思い返していた。


「(手に負えなくなったら呼べって

 言われているけど―――

 でも、シモンさんに迷惑をおかけするわけには)」


意を決して、アルプは一切れの端を少しだけ

かじった。

しばらく口の中で噛んだ後、音と共に喉に

流し込まれる。


「―――これでよろしいでしょうか。

 すぐに代わりの分をご用意しますので、

 少々お待ちを」


かじった分を捨てようとすると、メイの手が伸びた。


「あ、いいわ。

 わたくし、食べ物は粗末にしない主義だから」


言うが早いか、アルプの手から奪うようにして

それを口の中に入れる。


「(ず、ずるいわメイ!

 せっかくわたしが―――)」


「(早い者勝ちよポーラ姉さま。

 ふふ、彼の間接キス付きの極上の果実、ゆっくり

 味わって食べま―――)」


「……えっ?」


ふと、メイの口の動きが止まった。


「? どうしたの、メイ」


「ふぁっ、あ……あぁあっ、ああ……っ!!

 な、何、これ……えっ!?」


「お、お客様!? どうされましたか!?」


メイはしばらく口を抑えていたが―――

果実が全て飲み込まれると、放心したかのように

息を吐き出した。


「……あ、あの……」


「は、はいっ!

 あの、大丈夫ですか?」


上気した目元、まるで何かに疲労したかのような

荒くなった呼吸が漏れ、しかしそのままメイは

言葉を続ける。


「……ま、待って」


メイは何かを確かめるかのように、他のカットされた

果実に手を伸ばす。

そしてそれを口に入れると、かみ砕いて飲み込む。


「……違う……

 これも、美味しい、けど……違う……」


「?? メイ、あなた何を言って」


ポーラが心配そうにメイの顔を覗き込む。


「もっと……ど、毒味……して。

 それ……ちょうだい」


「ど、どうしたの?

 ねえ、メイったら」


「ポーラ姉さま……

 食べてみれば……わかるわ……


 お願い、アルプ……

 かじったの、ちょうだいぃ……♪」


その迫力に気圧けおされて―――

言われるがまま、アルプは残りのカットされた

切れをかじり始めた。




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在217名―――


―――神の資格はく奪まで、残り17名―――




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