召喚、女子高校生、エイリアンと。
透と管理人が宇宙戦闘を繰り広げるなか、遠巻きにそれを見つめる司と参太は、互いに目線を合わせた。
スキル“弱体化”によって戦闘力を失い蚊帳の外におかれた者同士、おしゃべりするくらいしかすることがない。
「参太くん。ひとまずボクたちの戦いを見ててよ」
司は遠くにいる透から視線を参太に向け直すと、やはりにこっと笑ってくれた。
参太はその眩しい笑顔から一度目をそらすと、どうして能力を使えない司がここにいるのか、と思いつつ、
「もうエイリアン化することを、あいつは何にも思ってないのかな」
疑問を投げてみた。
エイリアンと戦い撃退した参太からみれば、エイリアンは人間の外敵であり圧倒的な力をもつ脅威に他ならない。
人がエイリアンになるなどもってのほかなのだが……いまエイリアンにその身を堕としてる透はどう思っているのだろう。
透はけして参太には気持ちを打ち明けないに違いない。いじめの過去があっただけでなく、そもそも透には意固地なところがあることを参太は知っているつもりだった。しかし司になら話している可能性がある。
その読み通り、司は目を細めて透をみつめつつ教えてくれた。
「何とも思ってないわけじゃなさそうだけど。でも、ボクのためならって、言ってくれたよ」
司は言い終えて目を閉ざした。
「ほんと、重苦しくてさ。嫌になる」
ぼそりと漏れた本音を聞いた参太は、しかし司が目を閉じたままかすかに両手を握りしめ、震えているのを見て言葉を失った。
カラオケで一緒に遊んだときは、仲良くデュエットソングを歌っていたのに。
二人とも本当に楽しそうに笑い合っていて、カップルにしか見えなかったほどだったというのに。
参太は祈りを込めて透を見つめた。
「がんばれ……」
知らずに出たその言葉は、しかし宇宙の闇に消えて透には届かない。
透の拳が管理人に届くことはなかった。
「このまえ教えた通りだ。君は私には、勝てない!」
対して、管理人の拳は透の腹に食い込んだ。
「くっ!」
衝撃波に撃ち抜かれた透の体が吹き飛ばされる。
両者の力の差は歴然だった。
だが。
透は一歩も退かない。
「このまえとは、違う!」
流されていく体を宙返りして制御した透は、エイリアンとなった口を大きく開いて吠えると、
「やるか」
司のいる場所を見て、叫ぶ。
「司、頼む!」
声を受け、司がうなずいた。
以前とは違う。その言葉の意味がいまこの宇宙に現れる。
司はスマートホンを取り出し、画面をタップする。アプリを起動した。
直後、疑似宇宙空間に純白のエイリアンが一体、出現した。
「あ、あ、あ……」
エイリアンは人間の言葉でうめいていた。それは己の両手をみつめており、わが目を疑っているのか。
声は高く、まるで女の子のようで。
参太には聞き覚えのある声だった。
「さあ、お仕事だよ」
司が呟きもう一度、画面をタップする。
同時に純白のエイリアンが大きく叫んだ。
「AAAAAA!」
そしてエイリアンは己のスキルを発動させた。
エイリアンは瞬時に、管理人の目の前に移動する。
「これ、まさか……」
参太は絶句した。悪寒が全身を走る。嫌な予感がした。信じたくない現実を前にして、それでも現実の認知を拒んだ。
テレポートをするエイリアンの存在だって、ありえない話ではない。
けして人がエイリアン化させられたのではないだろう。
「あるはずない、できるはずない、そんなこと」
参太が逡巡している様子を片目でみつつ、司はいま一度、繰り返した。
「参太くん。とりあえず、見ててね。ボクたちの戦い」
その時は司は笑っていなかった。むしろ鋭い眼光で参太をまっすぐ見つめている。
言葉に呪いが込められているような気がして、参太は固まった。
ただ見ていることしか許されない。
助けも何も必要とされていない。
ならどうして、自分はここにいる?
「司、どうして、俺にそんなことを?」
「そんなことって?」
「見ていてって、どういうことだよ」
「何もしないでって意味だよ。わからないかな」
「ならなんで俺を、一緒にこの宇宙に呼んだんだよ」
「君がいることは、ボクたちには想定外だったんだ。なにせすぐ家に帰ったとばかり思っていたから。でも人払いをしている時間もボクたちにはなかった。だから仕方なく、一緒に連れてきたんだ」
司は参太に突然、抱きついた。スマホのボタンをタッチしてアプリを操作しながら。
彼女はただ参太の胸に顔を埋めて、その表情は見えなかった。
「だからお願いだよ……ボクたちの邪魔をしないで」
心の底から懇願してくる、その口調。吐息なのか声なのか判然としないほどに喉の奥からこぼれているその言葉が胸にしみいってくる。
参太はやわらかい弾力をはね返す司の体躯をはね飛ばすことができなかった。




