夏休みと高校生、カラオケルームにて。
夏休み。
終業式の直後に補講の説明が担任から行われる。
「進学希望組は、この夏を有意義に過ごすことー。いいな? この学校の進学率向上にぜひとも貢献してほしい!」
担任はそう締めくくると、
「それじゃあまた明日、補講で会おうな!」
と最悪の捨て台詞を吐いて教室から出て行った。
「ったく。夏休みって何だよー、マジで」
口々にそう言いつつ、しかし夏休みという言葉が持つ解放感は、あまねく生徒たちを笑顔にさせた。
参太も我知らず口元がゆるんでいたらしい。
「参太。何を笑っているんだ?」
不意に声をかけられた。見上げると透のきりりとした顔が見えた。
「やっぱり参太くんも、夏休みが嬉しいのかな?」
司もからかうような調子でにこっと笑顔を向けてくる。
「俺、そんな顔だった?」
突然に話しかけられたことに、少し違和感を覚えずにはいられない。
しかしついこの前、透は過去を許してくれた。その影響だろうか? 透はまるで昔みたいに――まるで友だち同士であるかのように、リラックスした顔を向けてくる。
「ああ。夏休みだから仕方ないが」
そういう透の顔も十分笑っているように見えるが、それは黙っておく。参太は立ち上がり、
「ひょっとしてそっちも明日、補講?」
「ああ」
「うん!」
透はやれやれ、と肩をすくめている一方、司は大きくうなずいている。
「俺もそうだけどさ」
はあっ、と三人同時にため息が出た。
直後、互いに顔を見合わせて笑った。
午前中に終業式が終わったため、明日の補講が始まるまでの時間が実質的な夏休みになる。
クラスメイトたちは次々と学校から飛び出し、ゲームセンターなりカラオケに行ってほんのわずかな自由時間を楽しくすごそうと全力を注ぐなか。
「もしよければさ、三人でなんか遊ぼうよ」
帰ろうとしていた流れから、司がそう提案してくる。
玄関で靴を履き替えていたときだ。
透と参太は顔を見合わせたが、その視線が同時に司に向けられる。
シンクロした動きを見せる二人に司は苦笑しつつ、
「なんだかボクの知らない間に、仲直りしたみたいだからさ。また喧嘩しちゃわないうちに、遊んどこうよ。三人で!」
バイトもなにもしていない参太に、予定はない。
透が首をかしげるなか、
「そっちが、いいんなら」
参太がそう返事をすると、司は即座に透の肩を叩いた。
「じゃ、決まりだね!」
司がまた笑顔を透に向ける。透は返事をしていなかったが、どうやら彼に拒否権はないらしい。
(かかあ天下、なのか?)
嬉しそうに透の裾をつかんで引っ張っている司を見て、参太は何となくそう思った。
(しかし、女って怖えよ)
透のことを“使えない”と言っていた司だったが、それと好き嫌いは別、ということなのだろうか?
参太は首をかしげつつ二人の背中を追う。
『女心ってのはね、複雑なんだよ』
不意に零華の声がそう補足してくれた上に、
『そんなことも理解できないようじゃあ、さすがにモテないですねえ』
シャルロットの嘲笑が心に響いてくる。
(悪かったな!)
そう思いつつ、参太は理解した。
いまこの時間は、カップル未満友だち以上の司と透を眺めるだけの、地獄のような時間帯なのだと。
それほど二人がいちゃつく様子がなかったのが救いだった。
披露された演目は、仲良し二人のカラオケデュエット。
クラスメイトの他集団といくらか場所がかぶったが、しかし遊ぶ場所といえばそこくらいしかない。
透が会員カードをもっていたカラオケショップに入ると、司が勝手にドリンクバーとケーキバーを追加する。
ケーキを片っ端から注文する司の食欲と歌唱力は凄まじく、流行のポップスからラップソング、アニメソングからもはや早口言葉に等しいボーカロイドサウンドまで歌いこなしつつ、チョコケーキからイチゴショートと定番のスイーツを怒濤の勢いで制覇していった。。
他方、透は真面目な顔をしてヒップホップを次々と選曲していった。司に割り込み転送されてデュエットした曲は「君が代」だったが。
そんな二人の仲良し具合をスルーしつつ、参太は昭和歌謡の世界に魂を埋めていった。どうやら昭和歌謡は透と司には親しみがないらしい。力強い息づかいとコブシをきかせた歌い方に自我自賛気味に酔いしれている参太に対して、二人は
「初めて聞いたよ!」
「珍しいな」
のオンパレードだった。
「え? 毎日聴かない?」
参太のこの問いを、二人はぎこちない笑顔でスルーする。
フリータイムで六時間歌いきった三人は、しかしまだまだイケる口だったが、フロントスタッフのタイムリミットコールで現実空間に強制転移させられる。
「楽しかったよ」
ケーキの皿を五〇枚近く重ねている司は、唇についた生クリームを舐めとりながらそんな声を漏らした。
「なら、よかった」
透がそんな司の笑顔をみてほんのりとしているのを見て、参太は(もう付き合えや)と思ったが口にできるはずもなく。
実際、楽しかったのは否定できない参太は、
「また、来れたらいいな」
ついそう言ってしまった。
「明日から補講だけどな」
透が苦笑気味に返しつつ肩をすくめてみせた。
三人はまた笑って、会計を済ませる。
「「「ありがとうございました」」」
三人同時に受付スタッフに頭を下げ、カラオケから出る。
入店したときには昼間だったはずの空も、いまでは陽の落ちた夜空になっていた。
「歌ったねえ」
満足そうに言う司と透は、これからバイトだという。
参太はメゾン・アストロに向かうことにしたが、それは二人には言わずに別れた。
『よかったね、参太くん』
零華がそう言ってくれた。参太はただうなずいた。
メゾン・アストロまで辿り着いた参太は、しかし敷地に入る前に呼び止められた。
「あの。少し、よろしい?」
声の方を向けば、着物姿のエイリアンがそこにいた。
「覚えているかしら、私のこと」
老いた女性のエイリアン。
参太はうなずいた。
管理人が最初に救った人間であり、同時に最初にエイリアンにしてしまった初めての人間。
「すこし、お茶でも飲んでいきませんか」
参太はそうして、彼女の家に誘われた。




