天啓覚醒、高校生の宇宙剣
突如現れた司の傍には、透はいなかった。
参太は管理人の刃を受け、はね返した時、エイリアンに胸を貫かれたシャルロットの叫びを聞く。
「参太くん! お願いがありマス」
(それどころじゃ、ないけど!)
参太はそれでも管理人の腹に蹴りを見舞って吹き飛ばした。
「ぐっ!」
追撃すれば優勢になりそうな気もするが、しかしシャルロットが優先か。参太は舌打ちすると身を翻し、彼女の方へ体を泳がせた。
一方、当のシャルロットはクマ型ロボットを操作してエイリアンに攻撃をしかけつつ、宇宙の闇のなかをかき分けるように参太に近づいていく。
「シャルちゃん……!」
ハルは顔を蒼白にしてシャルロットにかけよろうとするが、
「大丈夫。ハルちゃん、私はまた蘇りまーす。ですから、お願いがあります。あの管理人さんを、少し足止めしてほしいのです」
血が出るのも構わず、シャルロットは笑顔をつくってみせる。痛みに歪んではいるが、口の形は確かな笑みを湛えているその表情をみて、ハルは目の端に涙を浮かべながらも頷いた。
「クズ……何とかしないと、後で殺すから!」
バトンタッチをするように、ハルは参太の肩を叩くと管理人に向かっていく。
しかし参太は若干、理解しかねた。シャルロットから頼まれるようなこととは何か? バイオロイドである彼女は、魂さえ保存することができれば肉体は何度でも復活可能だ。死を克服できる以上、肉体が使えなくなればさっさと死んでしまえばいい。
シャルロットはやはり苦しそうにしていたが、その表情に絶望はなかった。瞳はギラと強く輝いている。
参太のスコープをみると、シャルロットは切り出した。
「あなたは私の正体を知っていますから? 私がこんなになっても心配していないと思いますが……しかし、いま死んでしまうと体の再生に数日間、要してしまいまーす。それではきっと、管理人さんが全住民を抹殺してしまいかねませーん」
ゲフッ、と血を吐いたが、しかし言葉は止まらない。
「そこで、参太くん。私の肉体を、兵器化してほしいのです。さきほどの剣、あれは零華さんだったものなのでしょう?」
シャルロットは参太が手にする青刀――宇宙剣ゼロ・ブレイドをみる。
彼女の視線に当てられて、ゼロ・ブレイドは青白い燐光を仄かに強めた。
『ええ、その通りよ。私、本当は死んでたんだけど。参太くんが、助けてくれた』
零華の声がシャルロットの心のなかにも届けられた。
参太は首を振る。
「違います、零華さん。俺は、助けられなかったんです」
『うるさいぞ、参太! 胸を張れって言っただろ。まったく』
「この声……まさか、勇騎さんまで?」
シャルロットが目を見開く。かつて最強の住民候補のひとりと言われた男の声を聞くとは予想だにしていなかったらしい。
『ああ。俺もこいつにすべてを託した。シャルロット……お前もか』
「はい。でも安心です、勇騎さんほど打算で動く人間はいませんから」
シャルロットはそして、俯いている参太の頬に触れた。
「お願いします。やってください」
「でもどうしてだ? どうして、兵器化する必要がある? 兵器化してしまえば、魂も武器のなかに収まるから……復活できなくなる」
「それはもう、承知の上なのデスよ」
シャルロットは、そして苦しそうだった目元をそのときは緩やかにすると、ハルの方を見た。管理人と死闘を演じているその必死な姿を見つめながら、
「先ほど言ったように、私が復活するまでには数日を要しますが、管理人さんはやはり今ここで対処する必要があります。私だけの事を考えれば確かに、復活する道を選んだ方がいいのですが。しかしまあ、私も馬鹿になりました。ハルちゃんを、助けたいのです」
恥ずかしそうに告白する。知略に富んだ住民の典型例として扱われ、その策略で多数の住民を撃退し、あるいは影で葬ってきた冷酷な皇女。そう呼ばれた彼女は、しかし最期に、ハルに優しい視線を向けていた。
当のハルは、それに気づく暇もないようだが。
「ほとんどの住民が、私との関わりを断ちました。しかしハルちゃんだけは、私に挑み続けてくれました。闘争の中ではありましたが、私はどこか、彼女に感謝していました。いま、それを形にしたいのですよ」
シャルロットは血を吐いた。限界が近い。一刻の猶予もなかった。
しかし参太の胸にはやはり、不安がよぎる。
いまここで兵器化してどうなるというのだろう。あらゆるスキルを操る管理人を撃退できる方法など、あるのか?
勇騎を兵器化したときも、結局は管理人を殺すことはできなかった。その二の舞になる可能性が大きい以上、肉体を無限に蘇らせる機会を剥奪してまで兵器化することにメリットがどこまであるのか。
しかしそんな参太の心を読むように、シャルロットは言葉を継いだ。
「ふふ。私のスキルは天啓。知恵くらべではすべての宇宙の頂点に立つ女ですよ? 不安がらず、すべてを任せてもらいたいものです」
「……なら。そこまでいうなら、やるよ。やってやるよ」
参太は顔をあげた。シャルロットの笑顔と、その裏で輝く瞳をやけくそ気味に見つめかえし、頬に触れられている彼女の手を払うように、触る。
その時、彼女の全身が金色に包まれる。彼女の手が柄に変質し、肉体が凝縮。しかし刃はない。柄だけが形成される。
「兵器化、完了」
それはかつて手にした神剣とまったく同じ姿をしていた。
宇宙剣“カイゼル・スラッシュ”は、大出力型のレーザーソードだ。
参太は青刀を一度盾に収納すると、カイゼル・スラッシュの柄を強く握り込む。直後、柄に穿たれた孔――レーザーエネルギー発振装置から金色のレーザーが放出され、両刃の剣を形づくった。
また、救えなかった。人を道具にすることの罪を感じながら、しかし参太は前を向く。
(やってやるよ、シャルロット。あんたの分まで!)
念じて、もう一度宇宙剣の柄――シャルロットの手を握った。
彼女の声が、心に響いてくる。
『感謝しマース、参太くん。では、あと五分後にこの宇宙空間に新たなクマちゃんがワープしてきます。それを回収し、兵器化してください。それまでの間、あのエイリアンを倒してしまいましょう』
シャルロットの亡骸が消えたことで、エイリアンはしばらく攻撃対象を失って混乱していたが、しかし司の命令が追加される。
「攻撃対象、変更。蛮族の英雄を、倒せ」
司は右腕に巻いている腕時計に向かって声を出す。
直後、エイリアンが参太に向かってやってくる。
シャルロットの指示の通り、参太はエイリアンを迎撃する。
『それでは参太くん。私のスキルを、どうぞ起動してみてくださーい』
「どうやって!」
エイリアンは右手に純白の剣を握り、それを振り下ろしてくる。剣は純白の実体剣だが、刃には小型の蛇型宇宙怪獣が絡まりついていた。
それをカイゼル・スラッシュ――神剣の黄金の刃で受け止め、瞬間、敵の白刃を溶かし尽くす。
大出力のレーザー・ソードであるカイゼル・スラッシュは太陽表面と同等の熱量を秘めており、常時六〇〇〇度の熱を帯びるそれは、エイリアンの一般兵士用の武装など瞬時に融解させてしまう。
『一緒に念じましょう。いいですか? 天啓、起動。接続申請』
「わかった!」
参太はエイリアンの腹を蹴って吹き飛ばしつつ、その時間をつかって念じる。
(天啓、起動。接続申請……受諾、認証。これより、全知全能を把握する)
瞬間、カイゼル・スラッシュが強く輝いた。黄金の波動が暗黒の宇宙を一瞬だけくまなくてらし、司や管理人、ハルの視界を覆い尽くす。
「なに、これ……参太くんの兵器化の、力?」
「ちょっと待ってよ、見えない!」
「また道具にしたか。つくづく人は、救われない」
やがて光がおさまり、視界が取り戻されていく。
その時。参太の脳に情報が入ってくる。まるでコンピュータが電波を受信してあらゆる情報を取り込むように、あらゆる世界の情報が脳に取り込まれていく。
「ちょっと待て待て待て! これは、やばい!」
情報の奔流に、脳の処理が追いつかない。知らないはずの知識に脳が埋め尽くされ、嘔吐感さえ催してくる。
『大丈夫でーす! 落ち着いて、自分の体を動かしてくださーい! 脳を埋めているのはあくまで情報。肉体の主導権は依然、参太くんにありますので』
天啓を使いこなすシャルロットに一喝され、参太は我に返った。
直後、目の前にエイリアンが舞い戻ってくる。
武器を失った彼は、しかしその拳を差し出してきた。
「ん?」
参太は違和感をおぼえた。
エイリアンが拳を繰り出してくるその光景に、既視感があるのだ。それもいまさっき経験したばかりのことのような――。
『参太くん。天啓の赴くまま、運命を現実にしてくださーい!』
シャルロットのその教えで、参太は納得する。
すべては天啓の赴くまま。
天啓によって受信した情報は、これから起こることのすべて。
エイリアンの拳は素早い。避けるよりは防いだ方が確実だった。以前の参太なら、剣を振り払って威嚇し、接近させないことで対処しただろう。
しかしすべてを見通した参太は、その拳がどこに来るのかさえ知っていた。
人間の動体視力では捉えきれないほどの高速で繰り出された拳を、あろうことか体の軸をわずかに傾けただけで避けると、参太は見通した未来を現実にするべく、記憶に動きを重ねていく。
「これが、天啓……!」
参太は神剣を振り下ろす。六〇〇〇度のレーザーがエイリアンの背中に触れ、直後、その全身を一瞬で蒸発させていた。
その光景さえ、すでに見た景色と同じだった。
所要時間、五分。すべて皇女が見通した通り。
参太はその胸に確固たる全能感を抱きつつ、司を見やった。
天啓で受信した未来は、シャルロットが完成させた宇宙兵器で管理人を殺そうとするも、寸前のところで司に妨害される末路だった。
それ故に、参太は次の目標を司に定める。
今度は天啓が見せた未来を変えるべく、参太は神剣を構え直した。




