乱入高校生と天啓の皇女
「テレポートって、それあたしのスキルだから!」
宇宙にハルの叫びが木霊した。
直後、シャルロットの背後に二人の人間が出現する。
ひとりは管理人。聖剣を振り下ろし、シャルロットを切り裂こうとしている。
もうひとりは、ハルだった。突如戦場に乱入した彼女は、管理人の背後で手を伸ばしている。
「消えちゃえ!」
ハルは叫び、管理人の背中に触れようとした。
スキル、テレポートを完璧に使いこなすハルは、自身の移動のみならず接触したあらゆる物質を自在に転移させることができる。
「たまらんな」
視線だけ後ろに向けた管理人は一言つぶやくと、その姿を消す。
ハルの白く細い指先が空を切る。つい舌打ちすると、
「クズ、ほら早く!」
もうひとりの乱入者たる参太もようやく戦場に入ってくる。
制服姿だったが、直後に全身を兵器化。盾を背負った白銀の鎧の戦士に変身する。
「おお、ハルちゃん! きてくれたんデスねえ!」
遅えよ小娘、もう少しで殺られるとこだっただろうが! 使えねえ脳味噌テレポート女だなあ!
「うん、来たよ。だからもう、大丈夫!」
何ドジやってんだよ年増大学生。呆れて物も言えねえよったく。
言いつつハルは少し照れているのかシャルロットと目を合わせようとはしなかった。
そんないつもの挨拶を交わしている二人をよそに、参太は高解像スコープで周囲を見回した。
テレポートでハルから逃れた管理人は、一度距離をとるべく遠方に姿を現わす。
「参太くん。どうやら君は、私の忠告を無視するつもりのようだ」
聖剣を構えつつ参太を睨む管理人は、もう笑顔を保っていない。
鋭い眼光に気圧されつつ、しかし参太も言葉を返した。盾に収納した宇宙剣ゼロ・ブレイドの柄――零華の手をすがるように握りながら、
「結果的にはそうなってるけど……でも、住民の殺戮は見過ごせない」
ゼロ・ブレイドの鮮やかな青い刀身を抜き放って切っ先を相手に向けると、参太と管理人は向かい合う。
虹の聖剣と蒼穹の刀とが切っ先を突き合わせるなか、シャルロットは手元のスマホを覗きこむ。ダウンロード進行率、残り15%。あと、少し。
「クズだけじゃないわ。あたしもいるってこと、見落としてないですか?」
参太の後方にいたハルは直後、管理人の背後に転移する。
あらゆるものを世界から排除する手がふたたび背中に迫った。
「油断も隙もない」
苦笑し、管理人は前進。
ハルの手から逃れると同時に、参太に向かって斬りかかってくる。
「忠告を無視したツケを、まず払ってもらう!」
豪語し、直後、姿を消す管理人。
「!」
参太は気配を感じて振り返り、青刀を構える。
そこに虹の刃が衝突した。
「危な!」
「さすがにもう、読まれているか!」
しかし管理人の剣さばきは終わらない。防がれたとみるや、すかさず次撃を繰り出してくる。
参太は高解像スコープの動体視力で剣筋を見極めると、完璧に防いでみせる。
再び管理人は剣を振るうが、参太はそれにあわせてしっかりと刃を当てている。
「遅れは、取らない!」
今度は参太が豪語する。直後、青刀をぐっと握って念じた。
「零華さん、行きます!」
参太に応えるように、青刀は雷光を刀身にまとわせる。
『了解。スキル、発動するよ……私の願いに、応える者。いまこそ願うわ……力を、貸して!』
「武器召喚、起動! 世界に命じる、俺を、助けろ!」
その詠唱が世界に響いたとき、シャルロットは目を細め、ハルはショックを感じたのか「はぁ!? 零華さん?」と叫んだが、参太は零華のスキルを迷わず起動する。
住民の力を宿した宇宙剣、ゼロ・ブレイドの刀身の周囲に円形の魔方陣が形成される。地球人の言語ではない、どこの銀河の生命体のものともわからない未知の言語が刻まれた魔方陣は、次には薄紫色のワームホールへと変わっていた。
零華の願いが宇宙を駆けて異次元へと渡り、異世界に助けを求める。彼女の意志に応えた世界の武器が、いま現実に送り込まれる。
零華と参太の二人の意志が宇宙を超え、空間を超え、異次元の武器を招来した。
『召喚、完了』
「武器銘――聖盾」
青刀の周囲に展開したワームホールから、参太の身長の半分ほどの盾が三つ、飛び出した。
盾の裏には取っ手がなく掴めない。代わりにそれは宇宙空間を自在に動き、参太、シャルロット、ハルを護衛するべくそれぞれ正面に定位した。
同時に参太は青刀を振り抜き、管理人の聖剣にぶつける。
「これでもう、誰も!」
青刀をぶつけた参太は、刃越しに管理人の瞳を睨んだ。高解像スコープに赤い走査線が輝き、威嚇する。
「殺させない!」
「なるほどな」
管理人はしかしただただ冷静に間合いを読むと、瞬時に参太の刃をはね返す。
「く!」
刀を凄まじい勢いで返された参太は思わず両手をあげ、胴体を無防備にしてしまった。
そこにすかさず突きを繰り出した管理人だったが、
「やはりそうなるか」
聖剣の切っ先は参太の胴体を突き崩すより先に、宙をかけまわる聖盾に防がれる。
「これでは埒があかないが……さて、どうしたものか!」
管理人は盾を一蹴して吹き飛ばすと、聖剣を振り下ろす。
これを参太は青刀を当てて防ぐ。
斬っては防ぎ、反撃しては防がれる。一進一退の攻防に、シャルロットはふたたびスマートホンの画面をのぞき見た。
進行度は残り8%。
(これはいけます! もう、時間稼ぎとしては完璧デース!)
シャルロットは勝利を確信した。
参太の攻撃は防がれ続けているが、管理人を足止めすることには成功している。おそらく参太の力量では管理人を殺すことはできないだろうが、兵器のダウンロードが完了してしまえば戦況は簡単に覆る。
シャルロットが舌なめずりをした、その時だった。
「え?」
思わずシャルロットは、うめいた。
自分の胸に、白刃が一本、突き立っていたからだ。
「そんな」
血を吐いて、シャルロットは背後をのぞいた。
そこには何故か、黄色の体表をもったエイリアンがいた。手にした刃が背中から差し込まれ、胸に貫通したのだ。
バイオロイドであるシャルロットはそれくらいでは絶命しない。しかし、致命的なダメージであることに代わりはなかった。
「ボクも混ぜてもらうよ。皇女さま」
シャルロットはそうして、あの神童――神居司の声をきく。
「ここで、このタイミングで……!」
シャルロットは胸を貫かれたままスマホ画面をみる。
残り、5%。
シャルロットはスキル“天啓”を発動する。
宇宙の核に存在するといわれる叡智の集合にアクセスし、次の策を模索した。
そうして導き出された最善の策を脳内に受け入れると、シャルロットは参太を見やる。
(さて。叡智がそう言うのであれば、もはや仕方がありません)
意を決すると、シャルロットは背後にいるエイリアンを蹴り、強引に己の胸から白刃を引っこ抜く。




