再会宇宙剣と高校生、盾をその手に
『まあそういうわけだ、よろしくな零華サン!』
すべての事情を参太が説明し終えるや否や、宇宙剣ブレイド・サーガから勇騎の声が放たれる。
対する宇宙剣ゼロ・ブレイドから零華がため息をついた。
『よりにもよってアンタが来たか、はあ……』
参太は二人のすっかり打ち解けている様子を見て首をかしげた。
「あの、零華さん。知り合いなんですか」
零華はまたわざとなのかため息をついて、
『ええ、まあ。同じアパートに住んでたし。それに同期だったし同年代だったし』
『戦闘系能力者最強の座をかけて、それはもう何度も手合わせしたものだったな』
『別にアンタが向かってきただけでしょ? 面倒ったらなかったわ。生身でキラーに挑戦した変人は古今東西アンタだけだったわよ』
異世界の人型ロボット超兵器、TN-1・キラーを相手に、スキル“英雄”による自己強化で互角に渡り合う勇騎。
(この人だったら、きっとソレマジでやったんだろうな)
参太は勇騎と知り合って間もないが、しかしその話は本当なんだろうと何となく信じられる。己の肉体を永遠に自己強化しつづけられる勇騎には文字通り不可能などないのだから。
『邪魔することだけは一人前だったくせに、事件が起これば何ひとつ助けてくれなかったじゃない』
『それは当たり前だろう? 俺たちは住民である限り敵同士だった。敵が災難に遭っているとあれば、それに助け船をだす馬鹿は居るまいよ』
事件というのは、零華の部屋の宇宙空間が異界の者たちに侵略されたという話だろうか。
参太はしかし、勇騎が何も助け船を出さなかった、という零華の言葉も嘘ではないだろうと思う。勇騎は確かに前向きで堂々とした性格をしているが、勝つためであれば手段も選ばないのだろうことは、参太も理解しているつもりだった。
そうでなければ、管理人に勝つためとはいえ己の体を兵器にしてほしいなどとは言わないだろう。
(まあどうでもいいけどさ。ちょっとうるさいな)
自分を置いてしゃべりつづける二人に、参太はそろそろ我慢できなくなってくる。
別に二人は付き合っているわけではないのだろうが、それにしては親しくしゃべり過ぎているような気がした。特に零華の口調は砕けすぎている。もっと他人行儀にしゃべってもいいのに……。
参太はついに立ち上がろうとしたが、
『おお、すまんすまん。参太、お前ひょっとしてこいつと付き合ってたか?』
参太のしかめっ面を確認したのか、勇騎がすかさず声を放ってくる。
「いやいやいや」
『べ、別にそんなんじゃ』
同時に否定する二人に勇騎はニヤニヤしつつも、
『安心しろ参太。零華サンは俺が何度言い寄っても相手にしなかったからな。そもそも零華サンが他人に対してそんなに優しそうに『ありがとう』なんて言ってるの、俺は見たことないぞ』
『アンタはうるさいな! 悪かったわねいつも無愛想で』
(いや、そういうところがうるさいんだってあんた達……)
喧嘩するほど仲がいい。その言葉を恨めしく思いながらも、しかし立ち上がったことでモニターが見えた。
それまで気づかなかったが、モニターは起動しており、地図を映し出していた。
「ちょっと、あの仲良くおしゃべりしてるとこすみません」
『仲良くって参太くん? 斬るわよ』
「すみませんって。ちょっとあのモニター、見えますか?」
『ん? あれは何だ、地図か?』
『そういえば、あんなの映ってなかったわ』
「やっぱり、地図ですよね」
参太は二本の剣を置いてモニターの前に立つ。
長方形のモニターには鯨のような輪郭線が描かれており、その内側にはいくつものラインが引かれて仕切られている。部屋と通路を分けているのだろうか。
(構造図か、これ)
可能性があるとすれば、それしかない。
モニターにはちょうど赤と青の輝点がひとつずつ、ちかちかと明滅していた。
青の輝点は鯨の頭の部分――操縦室にある。つまりは現在地ということか。
一方、赤の輝点はちょうど構造図の中央――生き物で言えば心臓の位置にそれは輝いている。
青の輝点からは白色の矢印のラインが伸びており、それが赤の輝点に接続され明滅していた。ガイドのように見えなくもない。
(ここに行け、と?)
参太は首をかしげたが、しかし現状、いつまでも二人としゃべっていても埒があかないのも事実だった。
そもそもこの船に気配はない。にも関わらず虫型ロボットは蠢いているし、いまだってどことも知れない宇宙を航行中だ。操縦室には誰もいないにも関わらず、だ。
参太の好きなように動かせるわけでもない以上、指示には従っておくのが無難か。というより、もうそれしか思いつく道がない。
「ちょっと待っててください。試しに、行ってみます」
『そうか。気をつけろよ』
『気をつけて』
二人の返事にうなずくと、参太は一応、ふたたび全身を兵器化する。
操縦室を出て、通路へ。
そこにはびっしりと先ほどの虫型ロボットが蠢いており、通路と言うより害虫の巣窟のようだった。
しかし虫型ロボットたちは参太を見つけるやいなや通路の脇に寄って道をつくってくれた。あたかも大名行列を前にした民衆達が道をあけるかのように。
虫たちが左右にひかえる通路を歩いてゆけば、やがてドクン、ドクンと規則的な音響が響いてくる。鼓動そのものだった。近づくにつれ音響は大きくなり、やがてその部屋の前に辿り着く。
参太が目の前まで来たことを感知したのか、部屋の扉はひとりでに展開され、内部を照らすライトも自動点灯される。
蛍光灯のような純白のライトに照らし出された室内からは無数の虫たちが這い出てきたが、その先にはやはり鼓動を放つ装置が鎮座していた。
天井からは血管を思わせる赤いコードで吊り下げられ、床から伸びるコードにも接続されているそれは、やはり心臓にしか見えなかった。ドクン、ドクンと力強い鼓動を響かせている。
大きさは参太の身長ほどもあり、巨大な心臓そのものだ。
(うわ、グロ……)
正直じっと見ていると吐き気さえ催してきそうなほど生々しい。血なまぐさい臭いは不思議と何ら漂ってはこないのだが、見ているだけで臭ってきそうだ。
だが、参太は幸運にも心臓を凝視せずに済んだ。
心臓の手前に、円形の盾が床に突き刺さっていたからだ。
盾は漆黒で、白や緑、青といった様々な色の点が表面に打たれている。それはまるで暗黒に星々が浮かぶ景色――まさに宇宙空間を表現しているかのような、ラウンドシールド。
参太がその前に立つと、盾は一度、揺れた。宇宙空間では地震などありえないはずなのに、盾だけが前後に大きく揺れる。
そして床からひとりでに抜け出すと倒れ、参太によりかかってくる。
「危なっ!」
参太よりも二回りほど小さいとはいえ、それでも十メートルほどの鋼鉄の盾が倒れてくれば無傷では済まない。
とはいえ、いまの参太は全身を兵器化している。すでに人でなくなっている参太は盾を正面から受け止めると回転させ、裏の方にあるであろう取っ手を探し、掴んだ。
回転させる途中に見えたのだが、盾の側面には穴がいくつも開いていた。それは等間隔にあけられていて、ぐるりと盾の全周に穿たれている。
その穴の数は、五〇。
参太が盾を掴んだ瞬間、
[ソードマスターを検知。所持を確認。階数:5、コード記号:G。住民、奥津参太、確認しました。登録開始・・・OK。使用と持ち出しを許可します。英雄よ、その道に救いの加護があらんことを]
電子音声が、なんと心臓から放たれた。
参太は首をかしげたが、しかし盾は勝手に参太の手から離れると、その背中に接合された。
意志をもった盾。不可解すぎるが、しかし部屋にはそれしかなかった。
あとは心臓が鼓動を放つのみで、仕方なく参太は引き返すことにする。
盾を背負ったまま操縦室に戻り、参太は二振りの宇宙剣を拾い上げた。
『ケガはないみたいね……よかった』
『お、戻ったか。お疲れさん。にしてもまたデカいモン持ってきたなあ』
零華と勇騎のいつもどおりの声に安心しつつ、参太は試しに宇宙剣を盾の側面に開けられた穴に突き入れてみる。
「どうかなっと」
刃をそっと盾に入れると、ぴったりだった。大きめの盾が刃を完璧に収納しており、さらにガチ、と金属音が鳴り響く。剣の柄の細さに合わせてロック機構が作動したのだ。これで盾をどんな向きにしても剣が落下することはない。
まるで誰かが住民を剣にすることを予見していたかのような専用格納器。
二振りの剣を盾に収納した参太は、全身に寒気を感じていた。
(用意されてたってことは、こうなることを誰かが読んでたってこと、なのか)
考えずにはいられない。
いままで必死に生きて、突き進んできたつもりだった現在。
それがすでにレールの上を走らされているというのか。
参太はそんなつまらない考えを打ち消すべく首を振ると、モニターを見る。
先ほどまでは船内の構造図を表示していたはずなのに、今度はまったく別の図が映し出されていた。
それは構造図ではなく、天体図か。
参太はモニターの前に立ち、七つのそれぞれ異なる色を放つ輝点が表示されたその図面を見上げた。




