破壊神と高校生、幽霊船へ
ひと振りする度に、その刃の輝きは増していく。
ブレイド・サーガに帯びた赤色のレーザー光は戦車の装甲さえバターのように融解させる熱量を秘める。それが徐々に、泉から水が湧くように確実にその出力を増していく。
「これなら……いける!」
参太は己に言い聞かせるためにも叫び、赤剣を振るった。
「気の早い若造だ」
対して管理人は落ち着いていた。
徐々に巨大化していく赤剣を、しかし聖剣の細い刃ひとつで迎え撃つ。
いまや人間ひとり分ほどの大きさをもつまでに強化された巨剣を、聖剣は微塵も揺れることなく受け止めた。
互いの刃が衝突し、拮抗する。
「渡り合うことがまず、第一だが。それができたからといって、勝利を確信するのは気が早い」
瞬時、管理人の姿が消える。
テレポートか。
「そうだと思わないか、参太くん」
参太は振り返って目の前に迫った聖剣を切り払った。
全身を兵器とすることで人を超えた参太は、テレポートをしてくる敵の動きにさえ対応する。
「誰も確信しちゃいない……でも!」
振り上げた赤剣の刃先を一度引き、直後、突く。反発エネルギー関節となっている参太の肩と肘は生命体の常識を破る速度で突きを繰り出すことが可能だった。
管理人はこれを難なく切り払う。上から下に聖剣を叩きつけ赤剣の刃先を逸らした。
「勝たなきゃ、意味ないんだよ。気が早くも、ないだろ!」
突きが払われるのも構わず、すぐに横なぎに赤剣を薙いだ。
これも防がれる。
だが、もはやそれでは済まされない。管理人の全身は熱の波動にあぶられれた。
「ほう……!」
たまらずテレポートして熱波をやり過ごし、参太とは距離をとって再び現れる。
すでに赤剣が帯びるレーザーは参太の身長を超えるほどの長さになっている。太さも参太三人分ほどの大きさになっており、もはや剣というより光の扇と言った方が適切か。しかしそれでもまだ自己強化を続けており、その進化は留まるところを知らなかった。
その上、当然ながら光に質量はない。刃の大きさは大きくなろうとも重さに変わりはないため、参太はまったく使い方を変えることなくその巨大化する剣を扱うことができた。
「聖剣でさえ防ぎきれないとはな。これはもう、付き合っていられないか」
毎秒強化されていく刃。管理人はその意味を理解するや、聖剣を収納する。虹色のペンを懐にいれ、
「さらばだ、愚か者どもよ」
管理人の髪の色が黒から赤に変わり、瞳の色も同じ色に染まっていく。
「これは……早く、逃げるよ!」
状況を理解した司がまっさきに宇宙空間から消える。現実空間に転移したのだ。
「そのようだな」
エイリアンに変わったままの透もまた彼女の後を追って転移する。
「逃げる? どういう」
言いつつ、参太は管理人の姿さえなくなっていることに気がついた。
敵味方ともに逃げる、異常事態。
宇宙の暗闇に取り残された参太に待っていたのは、世界ごと握りつぶされる末路だった。
遠い星が一気に接近してきたのが、その兆候だった。星が動いてきたわけではない。ただ世界の端から端までが巨大な力に握りつぶされ、収縮したためだった。
スキル“世界改変”のひとつ、破壊の神を呼び出し世界ひとつを握りつぶす。
司が操るのとまったく同じ現象を、管理人も操ることができる。
「そんな」
理解した瞬間、参太の全身は握りつぶされる。宇宙から脱出しない限り逃れることは不可能だ。
[所有者の存在危機を感知。これより援護に入ります]
それは果たして幻聴か。
参太は世界のすべてが潰れていくのを見ながら、電子音声が宇宙に響くのを耳にする。
誰かが助けに来てくれたのか。
否。
参太の目の前には、エイリアンシップがあった。
新幹線のような流線型のボディに、灰色の全体。表面はどこかぬめっており、金属光沢はあるものの、何かが蠢いており軟質素材のようにも見える。巨大な船舶というより鉄の鯨といった印象が強いが、それはエイリアンにとっての船だった。
エイリアンシップは現れるや否や、その先端のハッチを開く。ちょうどサメが大口を開けて人間を喰らうかの如く、エイリアンシップは展開したハッチから参太を取り込むと急いで口を閉ざす。
エイリアンシップはそうして世界から消えた。
次の瞬間。
宇宙空間のすべてが神の名の下に握りつぶされ、崩壊する。
「痛い!」
突然取り込まれた参太が見たのは、すっかり修理された操縦室だった。
盾伊と決戦を繰り広げ、モニターが破壊され天井に穴すら空いた惨状を呈していたはずだが、誰の手によるものかすっかり元通りになっていた。
と、壁面に小さな虫型ロボット装置が走っているのを参太はみる。
「え?」
思わず武器を構えるが、赤剣はすでにレーザーを帯びていなかった。機能を一時停止している。おかげで操縦室を切り裂くことはなかった。
周囲を見渡せば、虫型ロボットは操縦室の至るところに蠢いており、参太は得たいの知れない機械の虫たちに囲まれたような気になったが、ロボットたちがこちらに来ることはなかった。
むしろ虫たちは様々な機材を運んでおり、それが去った跡にはそこにモニターができたり、新しい床のパネルが敷設されていたりした。
虫たちはエイリアンシップの全自動修理機構なのだ。
まるでカブトガニのような格好をしてワシャワシャと蠢いているロボットたちに敵意がないことがわかると、参太は大きく息を吐き出して尻餅をついた。
「いや、死ぬかと思った」
嘘偽りない本心が出てくる。
まさか世界改変まで使われるとは思っていなかったし、しかしエイリアンシップが助けてくれるとも思っていなかった。
『お疲れさま、参太くん』
優しい女性の声が響いてくる。
零華の声だった。
「ありがとう。でも、すみません。ダメでした」
操縦室まできたということは……そこに安置した青刀と対峙するということだった。
ゼロ・ブレイドは青い燐光を帯びながらも、やさしく参太に語りかける。
『すこし報告、お願いできるかな』
「はい」
そうして参太は変身を解除すると、手にした赤剣を青刀の隣においた。
青刀はわずかに輝きを揺らめかせて、すこし動揺したようだった。
参太はすべてを報告する。己の不出来を正直に告白するかのように。
「また俺は、助けられませんでした」
まさに参太にとってそれは懺悔だった。




