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メゾン☆アストロVS空き巣高校生  作者: SAND BATH
空き巣高校生VS支配人
77/112

英雄男子と高校生、対面す

 通路の砂埃を吹き飛ばして走って、階段を駆け上がった。

 また通路を抜ける。また階段を昇る。

 そう遠くへは行ってない。追いつける!

 息を切らして、参太は迷わず疾駆した。

(次の犠牲者を、作っちゃダメだ!)

 使命感が燃えていた。

 別にこの建物の住人ではないが、そして友だちがいるわけでもないが。

 少なくとも知り合いがいた。

「よし!」

 階段を駆け上がったとき、背中が見えた。

 管理人だ。

「待て!」

 叫んで、しかし参太は管理人の肩越しにもうひとり、男がいるのを見る。

「奥津くんか」

 青風透だった。

 学校帰りのままなのか校内指定のブレザーを着ている。司はいないようだ。

「奇妙な縁だな。君たちが知り合いになるとは」

 管理人は知らない、参太と透がかつては親友同士だったことを。

 二人は同時に気まずい表情になったが、しかし状況はそれどころではない。

「管理人さん。ひとつ、聞きたいことがあります」

 透は落ち着いた声で、しかし確かに問い詰めようとする力強い息づかいで言い放った。

「久地田の部屋に入っていましたね。いったい、何をしていたのですか」

「私がそれを答える義理はない、と言おうと思ったが」

 管理人はそこでちらと参太を見やると、

「広告塔が仕事をするとも限らぬので教えてやる。彼を殺した、それだけだ」

「殺した? なぜ!」

 透は怒りに目を剥いた。

 一方管理人の態度は変わらない。美しい発音の重低音が平然と響く。

「貴様ら住民たちに教えるためだ。闘争の終着点は、こういうものだとな」

「終着点?」

「そうだ。闘争の果てにある、最後の景色。私はそこにいるのだよ。貴様らはそれを知る必要がある」

「どういうことだ」

「わからないのなら、これ以上は説明しない。だがいずれは理解するだろう。もっとも、君がこの闘争に生き残る器であれば、だがね」

「そんな曖昧な言葉で、管理人、あなたのしたことは言い逃れできない。これで三人目だ。三日前から始まった連続失踪……すべて、あなたがしたことだというのなら、俺は」

「君は、どうする?」

 透は言葉を詰まらせた。恩師を裏切る弟子のように、透は一度は自分を救ってもらった管理人に宣告しようとしている。

 一方、管理人は涼やかな微笑さえ湛えていた。

「俺は、あなたを打ち倒します」

 透の声が響いた。声は通路を打って響き、やがてはメゾン・アストロ全棟に反響した。

 はたして、管理人はうなずいた。

「いいだろう。それならば君の部屋に行くとしようか。一日ひとり、と決めていたが。今日は特別に君も殺してやろう」

 管理人はあごを一度だけ突き出して透を促し、階段の方へ歩かせる。

 ここは四階。透の部屋は七階にあった。

 透は無言で踵を返そうとした。その表情は苦い。姿勢は堂々としていたが、彼に秘められた感情がそのまま顔に表れているかのようだった。


「おい、ちょっと待てよ」


 キィ、とドアが開く。「4-D」の部屋番号。

「む?」

 管理人はちょうどすぐ側にあったドアが開いたので足を止める。

 他の部屋と比べても一等新しく、きれいなドアから現れたのは、ベリィショートに髪を立ち上げた好漢だった。

 胸板は厚く、肩幅も広い。参太や透よりも頭ひとつ高い身長をもつ成人男性。ぱっと見れば二〇代後半といったところか。

破多はださん!」

 透がその男――破多勇騎の名を呼んだ。

「おうよ、青風! お前の心意気、しっかり聞いたァ!」

 勇騎は大きい手で透の背中をバシバシ叩くと、ビシッと人差し指を管理人に向けた。

「俺も加勢だ、旦那! なあ、いいだろ?」

 勇騎はにこやかに、堂々と宣告する。

 管理人は肩をすくめて『呆れた』とでもいうように笑うと、

「いいだろう。二人まとめて殺されるといい」

 あっさりと快諾する。

「そんなら話が早い! 透、お前の部屋と言わずに俺の部屋でいいだろ! すぐ始めようぜ!」

 まるで仲間で一緒にゲームでもしようぜと言っているかのような楽しそうな表情で、勇騎は管理人と透を部屋のなかへと促した。

 先に管理人が玄関へと消え、透が一度だけ勇騎にうなずくとスマホを取り出し、『予定変更なし。部屋番号は4-D。頼む』そう誰かに文章を送信すると、部屋に入る。

 そして勇騎は参太を見るとニヤと顔を歪めて、

「ひょっとしてお前がサンタクロースか?」

 と意味不明のことを言ったので、参太は首をかしげる。

「評判は透から聞いているぜ。兵器化を操り、世界を救った英雄になった男がいるってな。まあ入れよ」

 太い指がくいくいと手元に曲げられ、部屋のなかへと促される。

 いったいどんな風に説明されたのか不明だが、しかし反論しないことにした参太はとりあえず中に入った。

 瞬間、勇騎は耳元でささやいた。管理人には聞こえないように、細心の注意を払って。

「実は、透に管理人と接触するよう指示したのは俺なんだ。いまは作戦の途中ってわけで、すまないがお前は待機しておいてくれないか。あらかじめフォーメーションが決まっているものでな」

 きょとんとした参太に、勇騎はウィンクすると何事もなかったかのように玄関を過ぎ、中のリビングに入っていく。

 天井に取り付けられたシーリングライトから伸びる一本の紐。勇騎はその先端を掴んで、白く発光しているLED電灯を消そうとした、その時。

 天井が溶け出し、壁面も液状化したかのように螺旋を描いて崩壊していく。

「さあ、はじめようか!」

 勇騎の宣言とともに、室内は現実空間から転移、宇宙空間へと変貌していく。

 作戦開始。

 勇騎と透は互いに視線を絡めあわせて頷くと、そろって管理人を睨んだ。

 ひとりは冷酷な視線を、そしてもうひとりはきらきらと輝く熱い視線で。

 その間に立たされた参太は、ひとまず様子を見守ることにした。

 

 光を吸い込む暗黒の向こうに、無数の星々が点在している。

 他の住民のものと変わらない、ブラックホールも何もない静謐な宇宙空間。


 戦いは始まった。

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