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メゾン☆アストロVS空き巣高校生  作者: SAND BATH
空き巣高校生VS支配人
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殺人処理と高校生、屈服

「あいて、る?」

 参太はドアの前で首をかしげた。

 メゾン・アストロ『2-B』号室の住民、久地田香を訪ねようとした時だった。

 呼び鈴のボタンを押す前に参太は気づく。そのドアにロックがかかっておらず、ほんのわずかな、しかし確実な隙間があったことに。

 息をのんで、参太はドアノブをつかんだ。

 鍵を開けっ放しにして生活する人間は、少なからず存在する。そういう習性をもつ人間を見つけては空き巣を繰り返してきたから、別に驚くほどのことでもない。

 だが。参太は息をのむ。ドアノブが変形していたのだ。それは歪んでいた。表面は不自然に削れている。まるで乱暴にヤスリで傷を付けたかのようだった。

 ドアノブだけではない。そもそもドア全体がへこんでいる。まるで強烈な力をもつ何かが、衝突したかのようだ。ドア自体が歪んでいるなど、そうそうあるものではなかった。

 ましてここはメゾン・アストロ。住民間闘争のまっただ中。ここは戦場なのだ。

「早速、か」

 メゾン・アストロと関わると言うことは、とりもなおさず戦争に参入することを意味する。

 参太は深呼吸するとドアノブを掴み、手前に引き寄せた。

 キィ、とドアクローザーのアームが軋む音がした。

 目の前にひとつ、死体が転がっていた。

「!」

 思わず参太は口に手を当てる。

 目を見開いて、その顔が玄関に向けられていた。ちょうど仰向けのまま、四肢を広げている。

 見知らぬ男の顔だった。いったいこれは誰なのか。

「ほう。参太くんか」

 そこで響いた、重低音の聞き慣れた声。

 参太は視線を死体から引きはがし、ちょうどその足下の位置にたつスーツ姿の男性を捉えた。

 長髪を後ろで束ねた三十代前後の、すこしひげが剃り残してあるダンディさを演出した顔立ち。

 管理人だ。

「いったいここで、何を?」

「それはこちらの台詞だ。ここは久地田くんの部屋だがな。彼と君とは、一度も会ったことがないだろうに。ひょっとしてまた、くだらん空き巣かな?」

 こちらを探るように瞳をのぞきこんでくる。堂々と放たれる重低音の美声が参太の心を捕まえようと響き渡った。

 男――久地田の死体と、管理人。

 その因果関係は、殺人の被害者と加害者か。

「あんたがやったのか?」

「答える必要があるのかな、この状況をみてもなお」

 管理人はその手に虹色の輝きを放つペンをもっていた。

 聖剣だった。

 宇宙空間での戦闘後、久地田の死体とともに現実に戻ってきたというのか。

(でもなんでわざわざ、死体を持ち帰ってきた?)

 抹消したかったのであれば、宇宙空間内で殺した後、死体をそのまま宇宙に残しておけば、現実空間で殺人がバレることはない。

「どうして」

 疑問を口にした参太に対し、管理人はにやりと口元を歪ませる。口が裂けたのかと思えるほど、大きく。

「君たちにみせるためだ」

「見せる?」

 発想の外にあった言葉に、参太はわずかに首をかしげる。

 殺人を隠蔽するのではなく、わざわざ見世物にする。意味がわからない。

「そうだ。この死体を見ることで、住民たちは恐怖するだろう。そして彼らは自らの運命を恐れるに違いない。この建物にいる限り、同じ目にあうかも知れないとな」

 嬉々として語る管理人に対し、早速参太は恐怖感を焼き付けられていた。

 男の死体のきれいさをみればわかる。管理人はこの男を少しも痛めつけずに、殺害していた。

 しかも零華によれば、男のスキルは“転生”。死んだ体さえ元に戻すことができる能力らしい。その力を己に使えば不死になれるが、それさえ管理人は封印したことになる。

 圧倒的な力によって生み出された、美しい死体。

 死なないはずの不死鳥の骸がその美しさを保ったまま展示されているようなものだ。

「ちょうどいい。君は広告塔になってもらおうか?」

「どういうことだ」

「住民に触れ回ってほしいのだよ。私が、転生のスキルを持つ久地田をこのように鮮やかに殺して見せたという、その事実を。恐怖をばらまいてくれ。そうすれば許してやろう」

「許す、だと?」

「そうだ。もう忘れたか? 君はもうこの建物とは関わってはならない。私は君に、すでに忠告している」

 言葉を聞いた直後。

 参太は我が目を疑った。

「いない……」

 管理人の姿が消えていた。

 しかし同時に、背後に息づかいが聞こえる。耳に息が当たるのを、感じた。

「いま殺してもよかったが。君は本当に魅力的な人間だよ、参太くん」

 振り返るまでもない。

 耳元でささやかれた。全身に鳥肌がたった。指先ひとつ、凍えたように動かない。

 本物の恐怖がそこにあった。

「それでは頼むよ。次の死体が出るのとどちらが先か……すべてが君に託されている」

 そう言い捨てて。

 背後の気配はふっと消えた。

 思わず、よろめいた。足に力が入らなくなって、尻餅をついた。

「く!」

 痛みと悔しさが全身を突き上げた。

 先ほどまで真っ白だった頭が、徐々に回復してくる。血の抜かれた腕に徐々に神経が通っていくように、参太の心は次第に熱さを取り戻していく。

 五分ほどが経ったとき、ようやく我にかえった参太は部屋から出ると、そっとドアを閉める。

 死体の処理は誰かに任せることにして、参太は前を向いた。

「広告塔だと? ふざけるな……!」

 参太は通路を走って、階段を駆け上がった。

 まだ近くにいるであろう管理人を追いかける。

(もう誰も、殺させてたまるか!)

 彼女のような犠牲者は、出させない。

 それが彼女のためになると信じて、参太はメゾン・アストロを駆け抜けた。

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