聖戦と高校生(源)
虹の輝きに包まれたエイリアンは、通常の個体とはかけ離れた戦闘能力を有する。
たった一体で侵略者から星を護った英雄。それと同等の力が、いま発揮される。
「力ガ、満ち満ちテイる!」
輝く聖剣はもう剣の形を成していない。揺らめく扇のように拡張されたそれは小さく縮められたオーロラの如く。
光と物質の中間に位置する扇が横なぎに振られる。
一振りで幾百の侵略者を切り伏せた力が、一閃した。
「クソ!」
参太はその一撃を、たった一人で受け止める。
武田零華をそのまま武器に変えた宇宙剣・ゼロブレイドがオーロラを捉えて接触。
瞬間、超新星爆発のような壮絶な衝撃力がゼロブレイドとオーロラとの間に発生する。
参太はけしてその手を離さない。ゼロブレイドもまた決して折れはしなかった。
衝撃波が操縦室のモニターをことごとく破壊する。聖剣を差し込むコントロール認証装置だけが残った。まるで英雄の剣を待ち望む伝説の白石のように、その装置は変わらずに空間上に定位していた。
「諦めロ、蛮族。貴様では、勝テなイ」
「それでも俺は、やるんだよ!」
半ば自分に言い聞かせるように叫ぶと、参太はすがるように刀の柄をぎゅっと握る。
『参太くん……』
亡霊のような彼女の声が参太の胸に再生される。
直後、次の一撃が参太を襲う。
オーロラがまた振り抜かれたのだ。今度は縦一閃、上から下に振り下ろされている。
『ありがとう』
その声に耳を傾ける為にも。参太は鋭敏に感覚を研ぎ澄まし、集中した。
敵はひとり。武器もひとつ。なら、集中すればいい。ここは戦場ではない、決闘の場なのだ。
「お礼なんて、俺は……!」
救えなかった。
その悔しい思いが参太に歯を食いしばらせる。
ふたたび迫ってきたオーロラの一振りを、参太はゼロブレイドを下から上に振り上げて迎撃する。
天から地へと。それは物理法則と同じ方向で振り下ろされたオーロラ。
対するは地から天へと昇るように振り上げられた、自然に争うべくもがいた人間たちを象徴する刀の動き。
両者は再びぶつかると、やはり壮絶な衝撃波を巻き起こす。
モニターはすべて割れ、床もめくれ上がった。天井にはすでに細かい穴が空いており、いつ外の宇宙へと貫通してもおかしくはない。このままぶつかり続ければ、確実にこの操縦室が砕け散る。だが、そうとわかっても参太は立ち止まらない。
全身を武器にした参太は、関節を反発エネルギーの注がれた高機動人口関節に変えている。人間を超越した素早さで刀を押してオーロラをはね除けると、反撃の一撃を繰り出した。
ひと突き。
青い刃の切っ先が流星のようにエイリアンに差し迫る。
『私なんて、いつ死んでも良かったんだよ。だから、管理人さんからもらった時間を、管理人さんのために使おうって思っただけ。私の人生なんて、それだけだったのに』
柄を握り込む度、彼女の声が心に響いてくる。
まるで隣にいる彼女の手を握りながら話しているかのに。
「じゃああんたの時間は、どうなったんだよ。あんたのための時間は、どこにあったんだよ」
純粋な疑問を口にしつつ、刀を全身全霊でエイリアンに突き入れる。
対するエイリアンはその手で掴んだオーロラでいとも容易く、軽い動作で参太の刀を打ち払う。
「ソの程度!」
火花も散らない、星の爆発のような衝撃。
聖剣と刀とがぶつかるたび、エネルギーが放出されていく。
エイリアンの背負う銀河の世界と、参太が背負う地球の世界がぶつかっている。そう思えるほど、その戦いのエネルギーは人智を超えていた。
切り払われた刀の、参太は急いでその向きを整える。
直後、敵の反撃を防御する。
光でも物質でもない超越者のオーロラが、ただの人間を変質させただけの刀にぶつかる。
だが、その刀は決して砕けない。
『私の時間は、私が線路に飛び降りたあの瞬間から……本当なら、消えていたから』
刀はその刀身から青い微光を帯び、それを徐々に、しかし確実に増大させていた。
『だから参太くん、もうやめていいよ。あなたにとってメゾン・アストロなんて、どうだっていいでしょ? むしろ、近づかない方がいいくらいの、害悪でしょ』
「それはもう、終わったことなんだよ!」
砕けない刀を押し、いま一度オーロラをはね除ける。
エイリアンはため息を吐いた。
「此処迄着いてくルこと、敬意ヲ表ソウ。蛮族ノ英雄ヨ、ヤはリ貴様ハ、銀河ニ名ヲ刻むベキ者」
向かい合う敵を、うるさい蝿からやっと人間並に扱うことにしたエイリアンは、そこでオーロラを再び剣の形にまとめあげた。拡散する力を練り上げ、絞り、一本の線にする。
相手を賞賛する行為は、勝者の特権。
エイリアンは再び顕現した聖剣を構えると、全身全霊の力をこめてその刃を振り下ろす。 刃が空間を疾走するその軌跡は残像となってはっきりと見える。残像はきらきらと輝く小さな星々を生み、極小のミクロコスモスを空間に刻みつけた。
「俺はもう、やるって決めた。だからもう、やるしかないんだ! お願いだ。俺にそんな言葉をかけるのは止めてくれ!」
参太の願いが宇宙に放たれる。それを聞いた青い刀はその微光をよりいっそう際立たせた。
直後、聖剣と青刀とがぶつかり合う。
衝撃波は発生しない。聖剣の力を青刀がすでに抑え込んでいるからだった。
「ソノ武装……一体、何ダ。こノ聖剣ト渡り合ウとハ」
『私は零華、ただの人間だけど』
青刀が帯びる微光はやがて雷光となり、刃の周囲にスパーク現象を起こし始める。
人をそのまま武器としたその刀は、人間の力を体現する。
『参太くん。そこまで言うんなら、その覚悟があるんなら。私も貴方に、力を貸すよ』
零華の声が参太の脳髄を揺らした。ズキズキとした頭痛すら感じる。
覚悟をみせて。
そう言われたような気がして、参太は
「上等」
と呟いた。
刀を押して聖剣を払い、一度、一歩退いて距離をとる。
刀を下段に構え、その切っ先を上に向けると、参太は彼女の声に導かれてその口上を口ずさんだ。
『私の願いに、応える者。いまこそ願うわ……力を、貸して!』
「武器召喚、起動! 世界に命じる、俺を、助けろ!」
叫び、一歩前へ。同時に刀を下から上に振り上げる。
瞬間、刀身に帯びる青い雷光が強く輝き、円形の魔方陣を形成した。地球人の言語ではない、どこの銀河の生命体のものともわからない未知の言語が刻まれた魔方陣は、次には薄紫色のワームホールへと変わっていた。
それは武田零華のもっていたスキル“武器召喚”の顕現だった。
彼女の願いが宇宙を駆けて異次元へと渡り、異世界に助けを求める。彼女の意志に応えた世界の武器が、現実に送り込まれる。
零華と参太の二人の意志が宇宙を超え、空間を超え、異次元の武器を招来する。
『召喚、完了』
「武器銘――暗黒剣」
刀の一閃と同時に、参太の目の前に漆黒の刀が現れた。
その柄を掴むと、参太は振り上げたばかりの青刀を腰のアタッチメントに取り付けて固定、空いた手で暗黒剣の柄を握り直した。
それは暗黒星雲にすべてを飲み込まれた世界の住人が、せめてもの反撃に、勝者であったはずの暗黒星雲を一本の刀に変質させた禁忌の武器。
世界一つ分の力を内包するその刀は、すでに肉体を失ったにも関わらず乞い願いつづける零華の意志に応えるために、そして彼女の願いを引き継ぐ参太に使役されるために、顕現した。
参太はそれを自若として構える。
「さて。リスタートだ」
防戦一方だった戦いに光明を見いだすために。参太はその切っ先を突きつけるように、前に向ける。
対するエイリアンもまた、聖剣を構え直した。
一振りするだけで小宇宙を生み出す真の聖剣と、その一振りで世界のすべてを飲み込む暗黒剣とが、いまぶつかりあう。
両者は全く同じ速度で、同等の力で、刃を振った。




