贖罪と高校生
地球時間にしておよそ、一〇〇年前。
銀河の辺境で、とある事件が発生する。
『英雄の失踪と聖剣の消失』
それは戦争中のエイリアンたちにとって、切り札の消滅を意味する。
虹の聖剣【アゾノフ】と、それを持つ英雄は圧倒的な破壊者であり、守護者でもあった。
彼なくして戦争はできない。そうとまで謳われるほど天下無双を尽くした彼が、突如消失する。
エイリアンたちは混乱状態に陥った。しかし一部のエイリアンは冷静に状況に対応、様々な仮説をたてて英雄の現状を分析する。
敵軍による暗殺、誘拐。あるいは英雄自身が寝返ったか――しかし、敵軍のなかにも彼の姿は認められなかった。
彼らはそこで、一部の実力者を選抜。八体のエイリアンを派遣して宇宙全域を捜索させることにした。
英雄を発見し、少なくとも聖剣アゾノフだけでも回収し母星へと帰還する。それができなければ、永遠に広大な銀河を徘徊しつづけることになる。
こうして八体の探索者たちは、とある銀河の惑星――地球を発見した。
虹の聖剣を手にしたエイリアンは、任務を完了した真の英雄となる。
その体はまばゆいばかりの輝きに包まれ、虹色の全身は聖剣と一体となったかの如く透き通ってみえた。
光とも言えず、物質とも言えない。その中間、世界の境界に到達した超越者の威光を帯びたその存在は、しかし参太に頭を下げる。
ひとつの生命体として地球に降り、そして捕縛されてしまった経験から地球人の感謝の作法を学習していた。
「感謝スル。蛮族ノ英雄ヨ」
場違いなお辞儀を前にして参太は戸惑うばかりだったが、しかし状況は最悪だった。
(聖剣を手にした、か。持って帰るなんて言うんじゃないだろうな)
聖剣を盾伊から奪還したかと思えば、これだ。
もともとは管理人のものだが、それさえ、もとをたどればエイリアン世界のものという代物だ。
それを手にしたエイリアンが取るだろう行動は、母星に持ち帰るべくただちにワープする、それに限るだろう。
「コレデ我らハ、故郷ヲ救うコトがデキル」
英雄は頭を上げると、そのまま立ち去ろうとする。
参太はそのまま見送りたかった気持ちを抑えて、声をかけた。
「待てよ」
「ム?」
英雄はそこで路傍の石でも見るように参太を見た。動くはずのないものが突然しゃべりだして不思議がっているというような仕草だった。
圧倒的な力の差を感じさせる。
だが参太はやらねばならなかった。
「困るんだよ、それは。その聖剣がないとダメなんだよ、俺は」
「一体なにヲイッテイる? コレは、我ラノ聖剣ダ」
至極もっともなことだ。異星の剣を蛮族たる地球人がほしがる道理はない。野犬がダイヤモンドを欲しがるようなものだ。
だが、参太は主張する。
「それがないと俺は、俺の使命を果たせない。だから返してほしい、聖剣アゾノフを」
「ホウ……蛮族如キが、剣の価値ヲ見いダすか」
英雄は完全に参太と対峙する。
路傍の石を蹴飛ばすことに決めた巨人のように、虹のエイリアンは堂々と参太を見下した。
参太はしかし全身を銀色の鎧に変え、その手に彼女の残滓【宇宙剣・ゼロブレイド】を握る。
メゾン・アストロはまだ、盾伊が残した“間違った命令”を実行しつづけている。メゾン・アストロの住人たちを遠隔操作するためのプログラムだ。住民たちの動きを封じ、脳の機能を制限する。一度、それを解除しなければならない。
それにはこの船を操作する必要があり、認証キーとなっている聖剣が必要になる。
彼女を救えなかったにせよ、せめてメゾン・アストロは自由にしたい。それが参太ができる、贖罪だ。
(これで俺は、何かしたことなるのか)
過去は変えられない。彼女はもういない。
それでも……やはり、彼女のために。
参太は地球人の英雄として、虹の英雄に立ち向かう。
いまとなってはそれしかできないのだから。
「良かロウ。蛮族ノ英雄ヨ。聖剣ヲ賭けテ、いま聖戦ヲ始メん」
エイリアンはそして、取り返したばかりの聖剣を構えた。両手で柄を握り、切っ先をまっすぐ参太に向けてくる。
参太もまた青刀の刃を、エイリアンにさしむける。
虹の聖剣と青き刀。
銀河の英雄と、地球の英雄。
両者は互いに向き合い、ぶつかりあった。




