がむしゃら高校生
「いったいこれは、何のスキルだよ」
参太はさすがに戸惑っていた。
管理人から住民たちに与えられるスキルは、いずれも超常的な威力をもつ。盾伊がいうように、まさに世界の常識を塗り替えるものばかりだ。
だが。
「さすがにこれは、反則だろ」
思わず本音が漏れる。
殺したはずなのに、死んでいない。新たな個体が現れる。
いま、操縦室の床には人間状態だった盾伊と、エイリアン状態だった盾伊の二人分の死体が転がっている。いずれも頭を切り裂かれ血だまりをつくっているが、しかし操縦室の入り口に現れた青色のエイリアンもまた、盾伊その人。
「人を武器に変えるような奴に、言われたくはないな」
盾伊は肩をすくめてみせると、参太に斬りかかる。
「ぐっ」
青色のエイリアンとなった盾伊は、エイリアンセイバーを思い切り参太にぶつける。刀で受け止めるが、しかし衝撃波に吹き飛ばされた。
白い刃のエイリアンセイバーは、接触するだけで強烈な衝撃波を巻き起こす。
「いっ!」
壁に叩きつけられ、参太はうめく。
盾伊は自らの死体の胴体に片足を乗せると、口の端をつり上げて豪語した。
「私は死なない。侵略者をこの星から排除するまで」
それが彼の決意だった。言葉を違えることはない。宣言を言葉だけに終わらせずに現実のものとするだけの力が、彼にはあった。
(こいつは勝てない、か)
不意にそう思ってしまう参太だった。
いま目の前に立ちふさがるのは、まさしく死なない男。二対一の状況にもひるまず、劣勢になりもしない男。決意を堂々と宣言して実現してしまえそうな、自分とは比べものにならないほどの実力がある男。
責任を果たすだけの力量を隠し持つ、大人。
自分のような高校生とは違う。
勝てない。参太は直感した。
だが。
参太は全身の鎧を軋ませながらも立ち上がる。
以前なら逃げていたかも知れない。
けれど今は違う。
(やるしかないんだよな、まったく)
青い刀がうっすら輝いている。参太の心を励ますかのように明滅した。
参太は刀を構えると、もう反対の手で聖剣を握った。青い刃と虹の刃が同時に伸び、実体の刀と、光と物質の中間に位置する聖剣とが交差する。十字を描いて構えた参太は、言葉を返した。
「それなら、俺は、あんたを殺しつづけるよ。あんたがメゾン・アストロから消えるまで!」
「ほう」
盾伊は感心したように笑うと、この場にいるもう一人の大人である田代真が一度、手を叩く。
「よく言った。なら俺も、負けていられないな」
参太の構えに呼応して、田代もまた力場操作のスキルを発現させる。
「俺も盾伊さんのスキルは把握していない。そもそも、あの人は俺みたく住民としての潜入経験はないからな、本来スキルをもっているわけはないんだが……これも研究の成果ってやつなのかも知れん」
盾伊に聞こえるのも構わず、田代は参太に告げる。
「お前さんの攻撃に合わせる。援護は任せてもらおうか」
田代はニッと笑うと、しかし敵を睨む鋭い瞳を盾伊に向ける。
「はい!」
参太は腹の奥から声をしぼって返事をした。
(この人なら、頼れるか)
田代は盾伊とは違うタイプの男だが、しかし彼とは違う力があるように思えた。
そして参太は、どちらかといえば盾伊よりも田代に共感できた。
「行きます!」
「おうとも!」
参太は一歩踏み出し、聖剣を振り下ろす。
「どうする? 私は死なないぞ」
盾伊は虹の刃を白刃で受けた。
「死なないなら、殺し尽くす!」
実際、参太には打つ手がなかった。盾伊のスキルを見破る必要があるが、残念ながらそんな策略もなければ、知識もない。
なら。相手を殺すしかない。死なないなら、死ぬまで殺すしかない。
要はただ、がむしゃらにやるしかないのだ。
「俺が死ぬのが先か、あんたが死ぬのが先か……試してやるよ」
参太は青い刃を盾伊の腹に突き刺した。聖剣を受けている途中だった盾伊にこれを避けることはできない。
腹を一撃で貫かれた盾伊は、直後、頭に振られた虹の刃に叩ききられた。
頭をかち割られ、脳漿と血とを噴き出したまま即死した。
「瞬殺とは、さすがだな」
死体が倒れるよりも先に、もうひとりの盾伊が入室してくる。
同一人物の死体が三人広がっている光景を目の当たりにしながら、しかし盾伊は一切、臆する様子がなかった。
「じゃあまた、死にな!」
叫んだのは田代だった。
空中で何かを握りつぶしたかのように拳を閉じた瞬間、すでに盾伊の周囲に展開されていた不可視の壁が四方八方から閉ざされる。上下左右から殺到する見えない壁に挟まれ、盾伊の肉体は押しつぶされた。
肉が潰れて血が噴き出したが、それさえ力場の壁に阻まれ拡散しない。行き場を失った大量の血液はそのまま床に落ち、すでにできている血だまりを拡大した。
「これはまるであの日の再現だな……参太くん」
また新たな盾伊が、操縦室に入ってくる。
「あの日の、再現?」
「そうだ。君がいま武器にした彼女が殺されて、その恨みを晴らすべくエイリアンたちを残らず駆逐し、殺し尽くしたあの日だよ」
「どこでそれを、見ていた!」
参太は彼女だった青い刃を振り下ろす。盾伊はもうあえて避けないことにしたのか、その一撃を頭から受ける。
当然即死するが、血が噴き出している途中で新たな盾伊がまた入室してきた。
「君はあの日から、何も変わっていない。恨みで他人を殺し、しかし晴れることはない。あの日は神童の救いがあったからよかったが、今度の件については、どうやら神童は動かないらしいな。さあどうする、参太くん。俺をこのまま、気が済むまで殺し尽くすのか」
「黙ってな!」
田代が盾伊を今一度、不可視の壁で挟み込む。拳を閉ざして盾伊を握りつぶした。
血の池が、またひとつ。
「田代。私は参太くんに聞いているんだよ」
新たな盾伊がまた入室してくる。
参太は双剣を構えつつ、しかし切っ先は震えていた。
(あの日と、同じことをしているだと?)
思い出したくはないが、しかし言われて気づく。状況は同じだと。
結局、彼女を救うことができなかったあの日と、彼女を殺す代わりに武器にしてしまった今。
「また今日も救うことが叶わなかった。それが君の実力だよ、参太くん」
盾伊は、そうして新たなエイリアンの体となって現れる。
それはあの、虹色のエイリアンの体だった。
「その姿は……どうして!」
忘れもしない。最後に戦った、聖剣と同じ色をしたエイリアンの英雄だ。
「やはりこの姿には反応するか。正直だな、君は」
盾伊はまた頭だけ人間のものに戻すと、眼鏡の奥の瞳を見開いた。
「さて。これ以上殺されるのも癪だ。そろそろ、反撃といこうか」
舌なめずりして、そして盾伊は虹色の全身をくねらせ、参太に飛びかかる。
「止まれ!」
田代が盾伊の進路上に不可視の壁を展開するが、しかし盾伊は白刃を一振り。その衝撃波で壁を切り裂き、ブチ砕く。
「黙っていろ、田代」
盾伊は左手を宙で振り、田代の方に向ける。
直後、不可視の壁の残片が田代に降り注いだ。
「まずい!」
田代は新たな壁を生み出そうとするが、しかし全身を守り切ることはできなかった。足に壁の欠片が刺さり、動けなくなる。
「さあ、殺し合うとしようか。参太くん!」
飛びかかって急降下。落下とともに振り下ろされる白刃を、参太は虹の聖剣で防いだ。
四方八方に衝撃波が発生し、乱舞した。操縦室全体を揺らすその多大な力の波動は、虹の刃さえ激しく波打たせる。
参太は光と物質の中間に位置するその刃の向こうにある、盾伊の狂気ともいえる笑顔を前にして、歯を食いしばった。
(どうしてそんな風に、笑えるんだよ!)
戦場のなかでも笑う敵に対する恐怖と、しかし逃げたくない思い。
相反する二つの感情を断ち切るように、参太は青い刃を振り下ろす。




