不死の男と高校生
新たに得た一振りの宇宙剣は青空のように澄んだサファイアの輝きを帯びていた。
片刃で日本刀の形状をしている。
彼女を殺したくはない。その想いが、参太に苦肉の策を取らせた。
兵器化してしまえば殺したことにはならない。
「人を兵器にした、か。化け物が」
盾伊は不可視の檻に包囲されながら、参太を嘲笑する。
「しかしそれで、いったい何を切り裂くというのだ? その鋭利な刃で」
割れて床に落ちたモニターが小さく爆ぜてスパーク光をかすかに放った。一瞬の輝きが、盾伊の顔を照らして影をつくる。
影のなかで、盾伊の笑みは深くなっていく。
「君にとって、敵は誰だ? 私か? それとも、あの管理人か?」
盾伊は剣を構えながら問いを放った。
現状、参太にとっての敵は盾伊にほかならない。本来ならこのまま離脱してもいいが、彼女を撃ち殺したことは許せなかった。
復讐。それがいま、参太の胸にある使命だ。
「あんたを、斬る。それが、今の俺にできることだから」
参太は彼女だった青剣の柄を握りしめる。青剣はきゅっと震えた。参太はまるで彼女と手をつないでいるかのような錯覚を覚える。
「メゾン・アストロをあんたの好きにはさせない」
宣告し、青剣を構える。
直後、参太はスキルを発現させた。
「俺は、俺のために、あんたを斬るよ」
全身を兵器化――黄金のパワードスーツに変える。金色の鎧の勇者がいま、青い刀をもって現実に降臨する。
「なら、俺も手伝わせてもらおうか」
田代真もまたスキルを発現、不可視の壁をさらに厚くした。
「復讐ってわけじゃないが、盾伊さん。俺もお前さんをどうにかしなくてはならんでね」
空間内部の力を操作する田代は、盾伊を観察する眼を反らさず告げた。盾伊はもう不可視の力場による檻から出ることはできない。
盾伊はもう剣を振ることさえできなかった。それどころか一切、動くことができないでいる。それほどまでに不可視の檻は強固であり、狭い。
「どいつも、こいつも」
盾伊はしかし、呆れたように微笑を浮かべるだけだった。
絶望的状況にも関わらず、余裕の態度に変化は見られない。
「馬鹿ばかりだよな、この世界は」
ため息がひとつ、漏れた。
瞬間、盾伊の顔は人間のものから、エイリアンのものに変貌する。
それは奇しくも管理人と同じ緑色の表皮だった。
「私を排除しても、世界は何も変わらない」
不可視の檻の内側にスパーク光が爆ぜた。薄紫色の輝きだ。
「ワームホールか!」
田代はその現象の名を口にする。エイリアン化しているからこそわかった。
エイリアンはワームホールを操り、自由自在に空間を転移することができる。
薄紫色の輝きに盾伊が包まれたとき、その姿が消え去る。
現実から消失し、時空世界に移動したのだ。
「田代。まずはお前からだ」
時空世界から、現実世界へ舞い戻る。
姿を消した盾伊は、田代の背後にいた。
「私の何が不満だった?」
剣を振り下ろし、言葉をぶつける。それは盾伊の本心の叫びだった。
「ハッ、いまさら発表しろと?」
田代は盾伊に応じるように全身をエイリアンの姿にする。黄色の表皮の個体だ。目の前の力場を操作し、不可視のバリアを形作る。
それはまるで空間そのものが田代を守護しているかのようだった。
見えないバリアに白刃が衝突し、盾伊の動きが止まる。
刃を目の前にして、田代は嗤う。
「ただ単に、パワハラが過ぎたって話さ」
田代は腕を払った。うるさい虫を除けるような仕草だった。
瞬間、目の前の力場の壁が砕け散る。破片が衝撃波となって盾伊に殺到した。
「私は私の仕事をしているだけだがな」
盾伊はワームホールを生み出して逃げ、ふたたび田代の背後に転移する。
「そもそも、部下は上司に尽くすものだ」
白刃が一閃。田代の背中を切り裂く。
だが。
「ふざけるな!」
参太の青剣が白刃をはね上げた。
「子どもか!」
盾伊ははね上げられた白刃を構え直し、同時に田代の背中に蹴りを入れてぶっ飛ばす。直後、振り下ろされた青剣を白刃で受け止めた。
二対一。しかし盾伊は一切、動じない。
「何も知らない子どもは、黙っていろ!」
盾伊は力を込めて青剣をはじき返し、一撃、突きを繰り出した。
目にもとまらぬ速度の反撃は、しかし参太の高解像スコープにはしっかりと補足されている。
胸に向かって突き出された一突きを、上半身をひねってかわした参太は、反発力関節による超常的な速度で機動する。かわしたと同時に青剣を振り下ろした参太は、すでにエイリアンにしか見えない盾伊の頭を切り裂いた。
青剣が輝き、盾伊の命を奪う。
頭に刃が入り、そのまま胴体に到達。紫色の血を噴き出させながら、彼はあっけなく死んだ。
『まだ』
不意に、参太の心に彼女の声が響いた。
「ああ、そうみたいだ」
参太は一応彼女に返事をしつつ、新たに出現したもうひとりの盾伊を視界に収めた。
「見事なものだな、馬鹿どもが」
パンパン、と乾いた拍手の音がなる。
眼鏡をかけた人間の姿で再登場した盾伊は、操縦室の入り口に立っていた。自らの死体を瞳に映し、にやりと笑う。
「スキルというやつは実にすさまじいものだ。こうも簡単に、世界の常識を塗り替えられるのだからな」
盾伊はそして、ふたたびエイリアンの姿になる。
それは先ほどの緑色ではなく、青色をしていた。
「やはりエイリアンどもは、排除せなばならない存在だ」
決意を瞳に宿し、盾伊は再びその手に白刃を握る。




