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メゾン☆アストロVS空き巣高校生  作者: SAND BATH
空き巣高校生VS超宇宙住民
65/112

命を兵器に、高校生

「奴らは二度死ぬ。心と体が、別個の魂を有しているからな」

 盾伊は双剣を構えたエイリアンを前にして、冷静だった。

 それまで参太に向いていたエイリアンの視線が、盾伊に向く。

「二つの魂を同時に起動させることで、最大の力を発揮する。その術を身につけた者が英雄と呼ばれ、あの管理人もそれに該当する」

 盾伊が蛇型宇宙怪獣の巻き付いた純白の剣を構えると、エイリアンは異世界から召喚した双剣を構えた。

いま目の前にいる個体は、つまり凡俗な一般兵というわけだ。心を担っていた彼女が死んだ今、肉体に宿るもうひとつの魂が目覚めた。英雄でない以上、倒すのは簡単だ。そうだろう、参太くん」

「簡単?」

「そうだとも。何せあの日。君が管理人を含めた七体のエイリアンを倒し、そして最後に現れた虹のエイリアンすら撃退してみせたあの日……登場したエイリアンはすべて魂の二重起動を行う英雄レベルの個体だった。彼らのすべてを殺し尽くした君なら、この個体など雑魚も同然だろう」

「グガァ!」

 エイリアンが双剣を振り下ろす。

「説明の、途中だ!」

 盾伊は白刃を一閃。衝撃波を生み出し双剣を一蹴した。

 エイリアンは壁にぶつかり、またモニターが割れる。

「グ……貴様ァ!」

 瞬時に立ち上がるエイリアンは、しかし盾伊が剣を宙で振ったことでもう一度、衝撃波を浴びることになる。

 それを双剣で防御しつつ、エイリアンは足で床を蹴って加速。宙に浮いて体を回転、ドリルのように突進してくる。双剣の切っ先が先端に向けられたそれは巨大ミンチドリルだ。

「別個の魂――二つの命をもつことは、我々地球人からしてみれば凄まじい能力だが、残念だとは思わないか、参太くん」

 盾伊は臆することなく、むしろ参太に説明する余裕さえ漂わせてエイリアンと向かい合う。

 ドリル回転するエイリアンの突進を、盾伊は真正面から受けた。

 盾伊は淡々と白刃を振り抜いた。

 白刃は双剣を切り砕いて、エイリアンの両腕を切断する。

「アアアアア!」

 エイリアンの悲鳴が室内に響き、たまらず後ろに退いた。

 エイリアンとはいえ、声は彼女のものだった。

「もう、やめてくれ!」

 参太は叫ぶが、しかし盾伊はけして構えを解かない。

 両腕を失い傷口から血を垂れ流しているエイリアンに、盾伊は剣の切っ先を向けたまま、一歩ずつ近づいていく。

「やめる? この個体は、俺が何もしなければ君に襲いかかろうとしていたんだよ。君は彼女だったこの個体を殺せないだろうから、俺が手を下してやっているんだ」

 腕を切断された痛みからか、エイリアンはすでに虫の息だった。いっそ殺してやった方が楽なのではないかというほど、肩から息をしてその場にくずおれているエイリアンは苦しそうだった。

 そんなエイリアンの頭上に、影が落ちる。

 盾伊が白刃を構え、振り下ろそうとしていた。

「まずは、一人目」

 エイリアンとなってしまった、その姿を変えられてしまった哀れな人間たち。殺処分対象者第一号となる彼女がいま、切り裂かれる。

 参太は動くことができなかった。エイリアンを護る道理はないからだ。それが彼女だったとわかっていても、止めに行く気力が起きなかった。

 しかし、殺されて欲しくもなかった。

 矛盾した感情に戸惑っているうちに、参太は盾伊が刃を振り下ろす瞬間を見てしまう。


「盾伊さん、そりゃないぜ」


 不意に、男性の声が響く。

「!」

 盾伊は振り下ろした剣の先に、違和感を感じる。まるで空気の壁だった。確かにエイリアンを切り裂いているはずの刃が、中空で止まってしまう。

 盾伊の背後に、別のエイリアンが立っていた。

「田代か」

 別のエイリアン――かつてメゾン・アストロに住民として潜入していた研究員・田代真は、己のスキル、“力場フィールド”によって盾伊と彼女の間に防御フィールドを形成、まさに不可視の壁を生み出して白刃を防御する。

「まったく。俺は逃げて正解だったな」

 田代はエイリアンの姿から人の姿に戻ると、腰に手を当て呆れたため息をはき出した。

「なあ、少年」

 さらに参太に問いかける。状況の変化がいまいち飲み込めない参太だったが、しかし彼女の死が回避されたことに安堵する。

「は、はあ」

 参太が曖昧な返事をしている間に、田代は両手を宙で動かしてさらにフィールドを形成する。

 スキル“力場”は空間に働く力を操作することができる。物体の進行を止めることも、加速させることもできる。

 いま田代は盾伊の空間の周囲に停止の力場を張り巡らせる。さきほど剣を防御した力場をくまなく展開したのだ。いわば全周囲に見えない壁があるようなものであり、まさに不可視の檻である。

 文字通り一歩も動けなくなった盾伊に、田代は語る。

「あんたに言われた通り、現実世界でスキルを発現させたら、やはりあんたの仮説の通り、俺はエイリアンになった。そしたらもうお払い箱だよ。俺は使い捨ての実験動物だったってわけだ、盾伊さん。エイリアンになっちまった人間には、人権などないと?」

 参太は盾伊が動けないいま、彼女に視線を向ける。肩で息をしているのは変わらず、いまにも瀕死の状態だった。

 参太は彼女の方へ距離を詰めていく。

「お前さんはやはり、行きすぎてる。生きる価値がない人間などいないように、エイリアンにもまた、生きる意味があるはずだ。エイリアンになったからこそ、俺にはそれがよくわかる」

 参太は彼女のもとへ辿り着いた。


「近づくナ、蛮族ヨ!」

 腕を失ってさえ、そのエイリアンは戦う意志を見せていた。

 その足で参太の足を払おうとする。

 参太は一度跳躍してそれを避け、直後、全身の変身を解除する。

 英雄から高校生へ。参太は本来の自分の姿で、エイリアンと向き合った。

「何ノつもりカ」

 なおも彼女の声で話すエイリアンに、参太は手を伸ばした。

「俺はあんたを、殺したくない」

「ありえなイ」

「本当だよ」

 訝しむエイリアンに、参太は手を触れようとする。

 このエイリアンをどうするべきか、参太は迷っていた。

 もともと彼女だったから、やはり殺したくはない。でもいまはもう彼女ではなくなっていて完全なエイリアンと成り果てている以上、現状維持もしたくない。それでも殺したくない。しかし時間が戻ることは、ない。

 死んだ彼女の魂を蘇らせる方法など参太は知らないし、考えつかない。自分の頭の悪さを呪っても、それで現状を打開できるわけではない。

 参太は、いま自分ができることをしようと思った。

「いまのあんたの姿が、本当のものだとは思えない」

 参太は彼女が、人間の姿をしていた時のことを脳裏に思い起こす。思い起こせば胸が締め付けられた。

「やっぱり俺は、人間なんだ。そして、人間が好きなんだ」

 参太がエイリアンに手を触れる。

 死を待つばかり、殺される運命にあったエイリアン。

 エイリアンは抵抗すべくキックを繰り出そうとするが、参太は全身全霊をこめて床を蹴る。

「あああああ!」

 エイリアンのつま先が参太の心臓めがけて繰り出された。

 参太は体をひねってつま先を紙一重で避けると、エイリアンに手を触れた。そしてスキルを発現させる。

 兵器化――あらゆる物質を兵器に変えるその力で、参太は生きたままのエイリアンを造り替える。

 エイリアンの全身が光に包まれると、それは一振りの剣となる。

 参太はその柄を握ると、一部始終を見守っていた盾伊に視線を合わせた。

 盾伊はあくまで、参太を嘲笑するかのように笑顔をつくっていた。

「それがお前の答えか、少年」

 一方、盾伊を封じ込めてくれていた田代は、満足したような笑顔を浮かべていた。

 参太は田代に視線を向けず、しかし言葉を返した。

「俺はただ、殺したくなかっただけです」

 参太は柄を今一度握り込む。

 新たに得た武器――宇宙剣“ゼロブレイド”はかすかに震えると、参太の心に声を響かせた。

『ありがとう。参太くん』

 それは紛れもない、彼女の声だった。

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