救いのエイリアンと高校生
彼女が死んだ。
にもかかわらず、戦わなければならなかった。
エイリアン化した盾伊と、エイリアン・セイバー。あの虹のエイリアンと戦った過去が脳裏をよぎる。
しかし。
「私は人類を救済するなどとうそぶくエイリアンを、裁く」
エイリアンの体に、人間の頭。
吐き気がするほどアンバランスな見た目だったが、そんなことは気にしてもいられなかった。
「あんたも、メゾン・アストロの住人なのか」
参太は思い出す。メゾン・アストロの住人が現実世界でスキルを使えば、エイリアンになるということを。
盾伊がエイリアンになっているのだとすれば、つまり盾伊は住民だったということになる。
「違うな」
眼鏡で光を反射して、盾伊は嗤ったように言葉を返した。
「私は自ら、この忌むべき力を取り入れた。侵略者たちを直接、裁くためにね」
「取り入れた?」
「そう、取り入れたんだよ。研究していればわかる、メゾン・アストロは実に見事な、人間をエイリアンに変えるための装置だった」
スキルを与えられ、宇宙空間を支配する力をも与えられた住民たち。その果てに、エイリアン化現象が発生する。
確かに、エイリアン化現象が結果だとすれば、メゾン・アストロは人をエイリアンに変えるためにある、という見方は間違っていない。
参太は目を細める。
(否定はできない、か)
しかし肯定もしたくはなかった。管理人の顔を知っているからだ。彼の願いが、人類救済だということも参太は知っている。
救いたくて、でも、まだ不完全なのだろう、このメゾン・アストロという装置は。だからまだ誰も救えない。
「私はスキルをもたない一般人だ。だから戦う力を求めた。もっとも簡単で効率の良い方法が……エイリアンの亡骸に私の魂を移すことだった」
盾伊は己の体をいま一度、見つめ直す。そしてあざけるように小首をかしげた。
「無様だろう? 私もそう思う。だが、私で最後だ。侵略者を裁き、排除し、エイリアンたちの技術を解析してよりよい社会をつくる。研究成果は即座にイノベーションにつながるだろう。幸い、エイリアンの技術力はすばらしい。一生をかけて研究していく価値がある」
盾伊は瞳を輝かせて語った。根っからの研究者なのだろう、研究という言葉を口にする度、口調に熱が入った。
参太はそれを聞くしかなかった、遮ることができなかった。
「だが。その影で、メゾン・アストロなどという装置が建ち、住民たちが人知れずエイリアンにされているとわかれば、これは阻止せねばならない」
盾伊はいま一度、剣を振り下ろす。
参太は聖剣で受ける。
ギン、と衝突音が鳴り響き、虹の刃が波打った。衝撃波が発生し参太は倒れそうになるが、踏ん張る。両手に体重を預け、両足の指に力をこめる。
一振りするだけで衝撃波を巻き起こすその剣もまた、エイリアンの技術のたまものだった。
「エイリアンの力は凄まじい。我々人類ではまだ、太刀打ちできない。だが、打倒せねばならないのだ。実際、いまもまた一人、住民がエイリアンにさえているかも知れないのだから。故に、私はエイリアンの力を取り入れるしか、なかった!」
体をエイリアンとしたことで盾伊の力は常人を圧倒的に凌駕している。
衝撃波に倒れまいとしている参太の腹に、盾伊はキックをぶちかます。
瞬間、参太の体が宙に浮く。
「なっ」
うめいた直後、参太は反対の壁に衝突していた。
「っ!」
外を映すモニターが割れた。
参太は立ち上がり、しかし目の前にいる盾伊の刃をその瞳に映す。
「凄まじい力だよ、これは」
「そうだな!」
言い返し、参太はふたたび聖剣をふる。
受けるだけでは衝撃波がくる。ならば、切り払うしかない。
空間を疾走する虹の刃が、振り下ろされた白刃を打ち払った。
今度は衝撃波は発生せず、互いの斬撃は無力化される。
腕にじん、と負担を感じたが、しかし盾伊の反撃は速かった。
即座に切っ先の向きを変え、もう一度白刃を振り下ろしてくる。
「油断も隙も、ない!」
参太は応戦して、ふたたび聖剣を振る。
ふたたび虹の刃が白刃を振り払う。
「君の体も、そこにいる彼女の体も、すでにエイリアンになっているんだよ。ただ見た目だけ、変わらないようにしているだけでな」
考えないようにしていたが。
参太はその盾伊の言葉に反論できなかった。
(やっぱり、そうなのか)
その戸惑いが、剣技の乱れになる。
盾伊は突如、突きを繰り出してきた。
その一撃を参太は防ごうとしたが、一瞬、動きが遅れていた。虹の刃は白刃を打ち払おうとして、空を切る。
「しまっ」
白刃の切っ先が参太の胸に差し出される。
死を覚悟し、目を閉じようとしたが高解像スコープにまぶたはない。視界をシャットアウトできないまま、参太は迫り来る刃が胸を貫くのを、ただ見ることしかできず。
刃は、寸でのところで止まっていた。
「こいつ……化け物が」
盾伊が情に戸惑った、からではない。
盾伊の体が、あのOL風女子の体に止められていたからだった。
背中から血を流しながら。
もうすでに致命傷を刻まれているにも関わらず……彼女は両足を震わせて、それでもなお盾伊の腰に抱きついていた。
「参太くん、お願い。もう逃げてよ」
彼女は顔を下に向けていて、参太からその表情を確認することはできなかった。
「ここは私が、何とかするから」
途切れながらも、彼女はそう言った。
相変わらず助けを求めるでもなく、むしろ助けようとする。
「そんなこと!」
参太は叫ぶと、目の前の白刃を払って盾伊に斬りかかる。
盾伊はうんざりしたように彼女の体を突き飛ばして身軽になると、白刃で聖剣を受け止める。
参太は右足を滑り込ませて盾伊の足を払った。
「小癪な!」
盾伊は一歩ひいて参太のつま先を避けると、剣を構え直す。
参太も聖剣をいま一度握り、構えをとる。
「あなたの言ってることは、間違ってる」
二人がぶつかり合う直前の緊迫した空気を放つなか、ただ彼女が息をきらしながら言い出した。
二人の視線が同時に彼女に向けられる。
「もういい、もう、黙ってて!」
たまらず参太は叫ぶが、彼女は首を横に振った後、あの笑顔をもう一度参太に向けた。
「私は大丈夫。だから、言わせて。メゾン・アストロは、人をエイリアンにする装置なんかじゃ、ない」
自分の命より大事な言葉がある。血を流しながら、息を切らしながら、彼女は言葉を継いだ。
「私は自殺しようとして、管理人さんに止められて、それで住民になった。私は一度、確かに救われたの」
彼女はそうして、語り始める。彼女の過去、人生を。
盾伊は虫ずが走るというように顔を嫌悪で歪めたが、彼女を黙らせようとはしなかった。
参太は彼女の声を、ただ聞いた。
そう語る彼女はすでにエイリアンの姿になっていたが、そんなことはもうどうだってよかった。




