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メゾン☆アストロVS空き巣高校生  作者: SAND BATH
空き巣高校生VS超宇宙住民
62/112

死と刀と高校生

 管理人はその一部始終を見ていた。

 蘇ったばかりの、思うように動けない体で。

「何故だ……何故、救われない」

 救ったはずなのに、救われていない。

 一〇〇年前に救った少女が、エイリアンになってしまった記憶が脳裏に横切った。

 武田零華が、死んだ。メゾン・アストロの住人となってしまったが為に。

「私が悪いというのか……私が、彼女を救ったが為に」

 銃弾に撃ち抜かれる零華の死体を見ながら、管理人は両膝を地面につけ、絶望した。



「なんだ、これ」

 両手についた鮮血は、OL風女子のものだった。

 参太はやけに鮮やかなその命の色彩に目を見開くばかりだった。

「やっと……やっと、自由になれた」

 足下でうずくまる彼女が呟いて、やっと参太は我にかえる。

「ちょっと!」

 参太は盾伊のことなど構わず、しゃがみこんで彼女の顔をのぞき込む。

「いま、手当を」

 言いながら包帯も消毒液も何もないことに気づく。参太はハンカチを取り出すが、しかしOL風女子の手がハンカチをもつ参太の手をおさえた。

「大丈夫。もう、助からない。だから、お願い。その聖剣で私を斬って」

「え?」

 思わず聞き返した。理解できない。

 OL風女子はそっと笑った。不安がる子どもをあやす旅立ち前の母親のように、その暖かな右手を参太の頬にあてて、

「苦しい。楽にして。痛いのは嫌だから。殺して」

 彼女の背中からは血が止めどなく流れて、血だまりができていた。

 参太はパニックに陥るが、しかし彼女が助からないだろうことは確かに理解してもいた。銃弾が肉にめり込んで抜くこともできず、ただ痛みを彼女に与えているだけだ。

 それでも笑っている彼女の精神力が強いのだ。しかし、もう限界なのだろう。

 限界を感じている人間を、痛みから解き放つには殺してあげるしかなかった。頭では理解していた。

「でも、俺は、俺は」

 あなたが好き。

 そう言いたかった。しかし言えなかった。そんな状況ではないと思って、ためらわれた。

「そう」

 OL風女子は手を伸ばし、床に落ちている漆黒の日本刀を掴もうとする。距離があって届かず、体をにじり寄らせた。

「痛ぃ」

 床に体を這わせるのさえ痛いのだろう、苦悶の声をもらしながら、彼女は自害の道具を必死に取りに行こうとする。

 参太は絶句した。

(死にたがってるなら……それが俺の、するべきこと、なのか)

 手当はできない。止血なんてできるはずもない。彼女を連れて逃げるのも手だが、しかし銃を構える盾伊が目の前にいる。

 盾伊はいつもと変わらない微笑を浮かべていた。

 冷静に銃をこちらに向けている。逃げれば撃たれる。いや、いまも狙いを定めているだろう。暗黒の銃口は、いまは参太に向けられている。

「次は君も、同じにしてやるさ」

 盾伊が宣告する。本当にいつもと変わらない、軽い口調で。

 参太のなかで、気持ちの糸が切れた。

 怒りが落ちた。

 参太はスキルを発現、全身を鎧に変える。直後、銃声が響いたが弾丸は跳ね返って壁に衝突、計器板をひとつ破壊したがそれだけだった。参太の鎧には傷一つついていない。

「化け物が」

 盾伊は侮蔑するように呟きつつ、弾丸を撃ち込みつづける。効かないとわかって発砲しつづけるのは、挑発か。あるいは、参太が化け物であることを重ねて主張しているつもりなのか。

「あんたにとっては、化け物でも」

 参太は弾丸がぶつかってくるのも構わず、何も動かず、ただ言い放つ。

「俺は、俺なんだよ」

 この局面を打開するには、盾伊を殺すしかない。その後、脱出して彼女を運び出す。

「お願いだから、保ってくれよ……」

 参太は彼女に告げると、彼女が取ろうとしていた漆黒の日本刀を拾って武器にする。

 そのまま日本刀で盾伊に斬りかかった。

 唯一の武器である銃が効かない以上、盾伊には為す術もない。

 弾切れになってむなしい空撃ちの音を響かせるまま、盾伊は目の前に迫る刃をじっとみつめた。

「止むを得まいな」

 ただそう呟くと、盾伊の頭は日本刀の刃を受けて切り裂かれた。

 血が噴き出し、操縦室を汚す。

 彼の死体は倒れ、血の海を新たにつくった。

 参太は日本刀を捨て、彼女を抱きかかえようとする。

(早く早く! ここから出て!)

 逸る気持ちを抑えてつとめて冷静であろうとし、苦悶の表情を浮かべる彼女を掴もうとした、その時。

 盾伊の死体から、奇妙な音が響く。

『P! P! P!』

 あのポケベルの音だ。

 旧世紀の遺物と言われた通信機がいま、鳴り響く。

「構ってられるかよ」

 参太はいまだ血が流れる彼女をそっと抱き寄せようとして、背後から重い一撃を喰らった。

「が!」

 鈍痛がする。

 振り返ってみれば、そこには盾伊がいた。

「!」

 盾伊の死体は、ある。頭が砕けて脳漿が飛び出ている。

 にもかかわらず。

「私も君を笑えない、ということだ」

 盾伊は自嘲気味に笑えば、その右手に握った一振りの剣――純白の刃に、異界の子竜が絡みついているエイリアン・セイバーを振り下ろしてくる。

「く!」

 その剣には見覚えがある。虹色のエイリアンがもっていたものと酷似していた。であれば、その刃は参太の鎧さえ切り裂く威力がある。

 参太はもう一度聖剣から虹の刃を引き出すと、白い刃を受け止める。

 虹の刃が波打った。対する白い刃はきらりと輝いて微塵も震えない。

 エイリアンの技術で鋳造された白い刃を握り込み、盾伊は静かにささやいた。

「この力を使った以上、私も化け物というわけだ」

 盾伊の体が、徐々に、肌色から灰色に変わっていく。

 口が割け、瞳が消える。肌はぬめりを帯び、人間というよりかは爬虫類のような質感に見えた。

 エイリアンだ。

 灰色のエイリアンが純白の剣で聖剣を払う。

 強大な力に押され、参太ははね飛ばされた。

 OL風女子の隣に転がった参太は、しかし彼女の顔をのぞき込んでうめく。

「死んで、る……」

 もう彼女の顔は目を開いたまま、動いていない。瞳に光が宿っていなかった。

「目を反らすな」

 盾伊が追撃の刃を向けてくる。

 立ち上がることさえできず、中腰のまま聖剣を構えて受け止めた。

「私をこの姿にさせたからな。生かしては帰さんよ」

 人でなくなったそのエイリアンは、しかし突如、その顔を変容させる。

 大きく口の裂けた形から、眼鏡をかけた人間の形へ。

 首から上だけを盾伊の顔に変えたエイリアンは、盾伊の目で参太を睨んだ。

「このような姿を晒すのは、私だけでいいのだから」

「ふざけんなよ」

 参太は歯を食いしばり、聖剣を握る。

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