家族博物館と高校生
期待するのも、見損なうのも、離れていくのも。すべて勝手なものだ。
こっちからお願いしたわけでもないのに、実績で縛り上げてくる。
(俺が悪いのか? 本当に?)
団地のコンクリート路面を歩きながら、参太はそればかり考えていた。
高校に通いながら空き巣をやって、それでメゾン・アストロと関わってしまって。
高校も変えられ、出会わなくて良かった人間たちと出会った。終始戦うことしか考えていないような住民たちなど、どう考えても出会わなくて良かった人間たちだろう。
(考えるの、やめだ。もう)
参太は道につばを吐き捨て、ちょうどよさそうな民家を視界におさめた。
木造の一軒家で、団地の隅にひっそりと佇んでいるような静かな家屋だった。玄関の前には駐車場らしい広い砂利のスペースがあり、向かって右側には庭がある。庭の雑草は伸び放題になっていた。
車が停まっていないため家主はいないと推測できる。
(ここにするか)
長らく空き巣をやっていなかったから、感覚を取り戻すにはちょうどいい難易度の場所かも知れない。そう思って、参太は息をひそめて玄関のガラス引き戸に手をかける。ガラスはスモーク加工が施されているので中を覗くことはできない。
だが。
(経験上、ドンピシャだ)
ひっそりとした空気が漂っている。物音ひとつしない。話し声もテレビの音もしないのであれば、ここには誰もいない。数十と空き巣を繰り返してきたからこそ判断できる、空き巣高校生の勘というやつだ。
引き戸には鍵がかけられていなかった。その点だけ、少し気になったが。参太はしかし空き巣がしたくてたまらなかった。たまったストレスは趣味で発散しなければならない。
「お邪魔しまーす」
誰もいないのは確信しているが、とりあえず礼儀にのっとり挨拶すると靴を脱ぐ。脱いだ靴のつま先を玄関に向けて整えると、しのび足で廊下に足を踏み入れた。
正面には階段が見え、右には客間、左には更なる廊下が続いている。客間には引き戸がついているが今は開け放たれており、仏壇が壁際についていた。
空気は張り詰めている。物音ひとつしない。やはり、誰もいないようだ。
「不用心だよ、まったく」
ぼそり、と呟いた声が通路を通り過ぎていくかのようだった。ただただ静かな家の中、左の方に足を向ける。通路を歩けば、台所につづいていた。
消えたテレビ、電子レンジがまず見える。その隣に流し台があり、向かいにダイニングテーブルが置かれていた。椅子が五脚あり、クッションはすでにぼろぼろになっている。
柱には駄菓子のおまけのシールがたくさん貼られていた。子どもが貼りたくて仕方なくて、親もそれを黙認していたのか。
テーブルの上にはきれいな茶碗が重ねて置いてあり、中央には箸置きがそそり立っている。
「なんか、きれい過ぎるな。この家は」
家族の思い出がそのまま置きざりにされたかのような、まるで博物館のような家だった。家族団らんとはこんなものです、と。そんな情景が保存されていて見世物にされているかのようだった。それほどまでに、その台所はきれいに整っていた。食べかすがどこかに落ちているわけでもなく、流し台に汚れのこびりついた食器が残っているわけでもない。
家の中の様子を見られるのが恥ずかしいのは、たいてい家の中が整っていないからだろう。しかしこの家は違う。むしろ見せるためにこうしてきれいに保存してあるのではないかと疑いたくなるほど、きれいな家だった。
「珍しすぎるだろ、これ」
参太にはむしろ怖かった。多くの家を空き巣訪問してきたから、この家が普通でないのがわかってしまう。
「とっとと、出るか」
参太はテーブルの上に鎮座している箸置きから一本、何の変哲もない木製の黒い箸を拝借すると内ポケットにしまい、台所に背を向ける。
そのまま足早に靴を履き、玄関の引き戸を開けて外に出る。
誰もいない。
誰にも見られることなく家から出た。
そのはず、だった。
「また、来んさい」
閉めたはずの引き戸から声がする。
「え?」
思わず振りかえると、白髪の老婆がそこに立っていた。
口は大きく裂けていた。体表にはぬめりがある。それはエイリアンに他ならない。
「はあああああ!」
参太は思わず、叫んでしまった。




