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メゾン☆アストロVS空き巣高校生  作者: SAND BATH
空き巣高校生VS超宇宙住民
51/112

エイリアンと世界に高校生

 部室といっても何の部活なのか。

 プレハブ小屋に足を踏み入れた参太は違和感しかおぼえなかった。

 冷房がついている上に扇風機も回っており、環境は快適だ。整理整頓も徹底されており、床にはちり紙ひとつ落ちてない。しかし窓にはブラインドがさがっており、室外の様子は一切わからない。外界と隔離された世界を構築しようとしているのか。

 部室というよりかは研究室といった風情だ。

 右の壁面には本棚が設置されており、『ダークマターの正体に迫る!』『想像を絶する太陽系外惑星』といった科学方面の書籍が並んでいる。

 対する左の壁面にはデスクが置かれ、そこで参太は目を見開いた。

「これ……」

 デスクの上には地球儀が置かれており、たくさんのピンが刺さっている。光の街の主任研究室――盾伊の居室にも似たようなものがあった。似ているどころではない、ほとんど同じものだ。

「どうやら盾伊さんのこともご存じのようね」

 美人教師はプレハブ小屋のドアを閉めつつ参太の背後でつぶやいた。口の端は笑みの形を成していて、瞳もしっかり爛々と輝いている。

 その瞳はシャルロット・カイゼルと似ていた。彼女もまた常に笑顔で、瞳もしっかり笑っている。しかしその奥には膨大な計略が秘められているに違いない。参太は天真爛漫な笑顔を見る度、そう勘ぐってしまう癖がある。人間不信なのかも知れないが、その勘ぐりに基づく嫌な予感は外れた試しがないのも事実だった。

「あなたはいったい、何者なんですか。そもそも先生、ですか」

 とりあえず参太は質問をぶつけてみる。部屋の中央に置かれた、高さ二メートルほどはある鉄製の檻を見ながら。

「先生ってのは嘘じゃないわよ。教員免許もちゃんと持ってるわ。ただまあお察しの通り、副業があるわね」

「公務員って副業できるんですか」

「へぇ、高校生のくせに鋭いというか、物知りなんだね」

「いや誰でも知ってるでしょ、それくらい」

 美人教師は鉄壁の笑顔を盾に、参太の質問をひらりとかわす。

「私の身の上はどうでもいいとして。奥津参太くん、貴方に頼み事があります」

 強引に話題を変え、彼女は眼鏡の奥の瞳を一度伏せると。

「一〇〇年前、一体のエイリアンがこの地球に来訪したことは、ご存じ?」

 歴史の闇、不都合な真実を語るかのように苦しげな表情で繰り出した。

「いや、知りませんけど」

 参太の脳裏にメゾン・アストロの管理人が浮かんだが、いったん知らない振りをする。管理人がエイリアンだということはよく知っているが、それがいつこの星に住み着いたかは参太にもわからなかった。

「そう。じゃあそこからまず、説明します」

 美人教師は伏せていた瞳を前に向けると、参太の瞳の奥に視線を差しこんできた。

 参太は一瞬目をそらしたが、しかし彼女の瞳は動かない。

(いったい何なんだ、これ)

 学校の授業よりも重大な説明がこれから始まる。席を立つことも考えたが、彼女のまっすぐな視線に射ぬかれているいま、煙にまくこともできなかった。

 参太は黙って首を縦にふると、彼女は「よろしい」と嬉しそうに言って、説明をはじめた。

「少しややこしいけど、このエイリアンの最初の目撃報告は五〇年前。しかし研究が進むにつれて、一〇〇年前から地球に住んでいたことがわかったの」

 いまからおよそ五〇年前。

 最初の目撃証言はアメリカ。真夜中、自由の女神像の前に緑色のエイリアンが立っていたという。

 次の目撃証言は中国。その次はロシア。それから各国の主要都市で目撃が報告された。

 最後に確認されたのが日本だった。

 社会の表ではオカルト話、都市伝説として扱われ、エンターテイメントとして消費される話題のひとつに過ぎなかった。

「このエイリアンは未知の技術を持ち、空間を自在に操ることができた。現実世界の裏側に、異世界を作り上げることも」

 地球人類が物理学を研究し、その成果をたてつづけに発表。宇宙の神秘と時空間の謎をすこしずつ解き明かし、神の領域をも照らし出す。

 エイリアンはそんな人類の進歩をあざ笑うかのように、人智を超えた建物をいつのまにか造りだしていた。

「日本で、一〇〇年前から存在していた建物があるわ。それは時代によって形を変えているけど、常に同じ場所に建っていた。いまはメゾン・アストロと呼ばれているの」

 参太は思わず下を向いた。またその建物の名前を聞くことになろうとは。

 まるで人生の壁だ。一度関わってしまったがために、行く先々でそれが立ちふさがってくる。

「最初はさびれた旅館からはじまったらしいけど、創業当時の資料にうつる一人の男が、“不老不死”と言われている……そんな噂が研究員の耳に入ったみたい。当時エイリアンの目撃証言がはたと途切れていたから、藁をも掴む思いだったらしくて。調査したんだって、そのバカみたいな噂話を。そうしたら、ドンピシャ」

 不老不死の男と、彼が経営する歴史ある宿泊施設。目撃証言が尽きて手詰まりだった研究員は、暇つぶしにそんな噂話を調査した。

 結果、宿泊施設の周囲に異様な時空間が展開されていることを暴いてしまった。

「旅館の中心部分から、放射線が観測されたの。人体には無害なように調整された、未知の放射線がね。宿泊客を装っての内部調査をしても、放射線を発振するような装置はどこにもなかった。だから研究員は推論したの。この現実に装置がないのなら、四次元にあるのではないか、と」

 研究員は己の推論のもと、放射線について徹底的に調査した。

 研究は彼の部下に引き継がれ、しだいに国家が介入、支援を表明。一大プロジェクトとなった。

 ただ四次元空間に関する研究は世界的にもまだ途上である。四次元空間から発振される放射線に関する研究は、ほどなく暗礁に乗り上げた。

「四次元空間に存在する装置なんて調べようがなかったからね。研究は頓挫したわ。一応、放射線については解明が進んで、五十通りの異なるパターンが存在することを解き明かしたわ。でも、それから研究は手詰まりになって。国からの支援も打ち切られる、なんて話さえ出たみたい。盾伊っていうひとりの研究員が、状況を打開するまでは」

 時代が高度情報化社会に遷移し、インターネット技術が発達したとき。若き研究員のひとりだった盾伊が、その時にはメゾン・アストロと名をかえていた居住施設を、巨大な電脳空間として捉え直す、という発想の転換を試みた。

 四次元空間の探索が無理なのであれば、サイバー空間として調査してみるのはどうか。

 盾伊のその研究は、大きな実を結ぶことになる。

「途切れることなく発振される放射線を探し求めて、あらゆるネットを調査して。あらゆる情報にアクセスした彼は、ついに見つけたの。探し求めていた放射線とまったく同じ波長の信号を発する、巨大な電脳空間を」

 その電脳空間は、研究施設のメインコンピューターでも解析できないほどの膨大な情報量を備えていた。盾伊は政府にスーパーコンピューターの開発を依頼し、巨大な電脳空間の解明を試みる。

 結果。それは四十九個の小宇宙を構成するデータであることが判明する。そのデータからは微量の放射線が発振されていることも明らかになった。

 そして四十九という数字は、メゾン・アストロの部屋の数と同じだった。

 すでにメゾン・アストロから発振される放射線のパターンが五十通り存在していることは明らかにされていた。そのうちの四十九のパターンが、電脳空間上に存在する小宇宙からそれぞれ発振される放射線の波長と一致した。

 残りひとつだけ一致しないものは、“管理人室”と呼ばれる部屋から発振される放射線のみ。管理人室の情報が隠された電脳空間だけは発見することができなかった。

 だが、それ以外のすべての部屋の情報をもつ電脳空間の掌握には成功した。

「盾伊のこの成果によって、人類はエイリアンの生み出した異空間を本格的に調査できるようになったの。ネットをハッキングして、エイリアンの造った宇宙空間を解析してね」

 いままで手の届かなかったエイリアンの技術を、人類は手元にたぐり寄せることに成功した。

 エイリアンの技術が次々と解明され、模倣されていった。

 猿まねだったが、しかしそれは文明を塗り替える超技術の顕現を意味する。

 かくしてエイリアンの造りだした宇宙空間を真似た異空間形成技術によって光の街を生み出し、そこを拠点にして今もなおメゾン・アストロに関する技術を解明しつづけている。

「さて。そんな多大な成果をもたらした盾伊だったけど。彼はエイリアンを良く思っていなかったの。侵略者として捉えていた」

 研究が進む傍ら、それまで結束していた研究員たちが二つに分かれることになる。

 エイリアンを殺すことを目的とする盾伊に対し、エイリアンを保護したいと思う者もいた。

 エイリアンを敵とみなす者と、同じ生命体とみなす者。彼らは道を同じくすることを諦め、ついに袂を分かつ。

「参太くん。私は盾伊を止めたいの。そのために、エイリアンを撃退してみせた貴方の力を借りたい」

 美人教師はそこで参太に課題を突きつける。

 彼女が何者なのかは、だいたい察しがついた。ただ国家プロジェクトともなる巨大な研究に参加していた人間が、なぜ高校教師として公務員になれるのかはわからない。

 ただ参太は、これまでの経験でいやというほどわかっていた。利用されることのむなしさを。

「すみません」

 救いたいと思っていた人に、殺されかけた痛みがうずく。

 がんばっても無駄だという腐った現実を突きつけられた記憶が、参太の道を決定する。

「もう勘弁してください。俺を、道具にするのだけは」

 参太は偽りない思いを、教師に語った。

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