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メゾン☆アストロVS空き巣高校生  作者: SAND BATH
空き巣高校生VS超宇宙住民
49/112

退職と高校生

 あのOL風女子に殺されかけるとは。

 まったく予想もしていなかった。

 自分が護りたいと思っていた人に、まさか刃を向けられるだなんて……。

 心が折れるには充分だった。


 参太は神童に救われてなお、目の前の現実を受け入れられなかった。

「もう、やってられるかよ」

 向かい合い、互いの出方をうかがっている住民同士の対称図をひととおり眺めて。

 参太は透に告げた。

「俺、帰るよ」

「ん?」

 透が眉をひそめたが、参太の宣告は一方的だった。

「そうだよね」

 司が同情するように呟いたとき、参太は宇宙空間から消えた。


 参太はドーム状の施設の、ドアの前に立っていた。

 光の街の中にある、メゾン・アストロの宇宙空間に潜入することができる設備だ。

 巨大なドームのなかにはドアがひとつしかない。その他の内部機構はどうなっているのか興味がないわけでもないが、参太はまっすぐ自宅に帰るべく背を向けた。

 透と司は依然として闘っているのだろうか。

「くそったれ」

 もう何もかもがどうでもよく感じる。

 エイリアン化の現象からあの人を護りたいと思った。だからがんばろうとした。それなのに、傷つけられるどころか殺されかけた。まったくもって馬鹿馬鹿しかった。

「ふざけんなよ、ほんと」

 やはりこの現実は、くそったれなのか。

 参太は石ころひとつ落ちていない光の街の整備され尽くした歩道にイラつきつつ、しかし家に帰るのを諦める。

 しばらく歩いていると眼鏡をかけた研究員――盾伊が微笑を浮かべながら立っていたからだ。

 参太は盛大にため息をはいた。

「参太くん、ひとまずお疲れさま。途中で抜けたからバイト代は払えないが……しかし、タダ働きをさせるのも申し訳ない。コーヒーでもおごるよ」

 言うなり盾伊はくるりと踵を返し、ひとりでに歩き出す。その背中が『お前に選択肢はない』と語っていた。

「はあ」

 もう一度ため息をつくと、参太はだまってついて歩くことにした。それこそ子犬のように。


 連れられたのはファミリーレストランだった。

 ビルや研究施設ばかりの光の街のなかで、そのファミレスは場違いなほど普通のファミレスだった。

 白い壁面ばかりのビル群にかこまれたそのファミレスは、レンガを模した塗装に彩られ、屋根も赤いペイントがされていた。建物の周囲には植え込みが設置され、なかに入れば店員が「お好きな席にどうぞ」と笑顔で通してくれた。

「ファミレスや」

 参太は当然のことを呟いてみた。

 禁煙席と喫煙席に分けられていたが、盾伊は喫煙席にこしかけた。

 座るなり灰皿を手元にたぐりよせた盾伊は、懐から1カートンの箱を取り出すと1本取り出し、流れるように口にくわえる。そのままライターで着火すると、

「住民には一人もまともな人間はいない。まず君はそれを認めておくべきだったな」

 盾伊は紫煙を口から吐き出す。向かいに座って、参太はとりあえずメニューをぱらぱらとめくりながら、

「俺がバカでした」

 吐き捨てるように言った。

「そうだ。君は、バカだ」

 言われてムカついた。参太は眉根を寄せるが、盾伊は鮮やかに笑っていた。

「だが、君にはすでに力がある。もう逃げられない」

 灰皿の縁にタバコを接し、ノックするように灰を落とす。燃え尽きた薬草の残滓がひらひらと砕け散り、灰となって落ちていく。

「辞めます」

 参太はにべもなく答えた。

「もうばかばかしい。もう、がんばりたくない」

 参太は注文ボタンを押してドリンクバーとチョリソーを頼む。

 店員の慇懃な礼が通り過ぎるのを待ってから、盾伊は笑顔のまま言った。

「ならばその聖剣を、こちらに渡していただく」

 タバコの先端をぐりぐりと押しつけて潰し、灰皿に捨てる。

「虹の聖剣。メゾン・アストロのシステムのあらゆる認証先に、君の持っているその小さな道具が設定されている。聖剣なしでは、我々はあのアパートに対して何一つ干渉できないのだ」

 参太は内ポケットから、盗んできたものを取り出して見せた。

 虹の光を放つ、透き通ったボディのペン。一見すると金属光沢のような輝きだが、空を渡る虹の一部をそのまま切り取ってきたかのようだ。澄んだ光がペンの形を成している。

 光を限りなく物質に近づけた。そんな未知の材質で造られたペンは、参太がメゾン・アストロで得た戦利品である。

 と同時に、参太とメゾン・アストロとをつなぐ架け橋であり、鎖だった。

「これを、渡さなければ……辞められないんですね」

「その通り」

 即答だった。

 盾伊は最初から、この取引をするために声をかけたに違いない。

 ここまで連れてこられたのに選択肢がなかったように、聖剣を渡すかどうかも選択肢がないのだろう。

「はあっ」

 参太はため息をつくと同時に、聖剣と言われたその単なるペンを灰皿の隣に置いた。

「家に、帰ります」

 参太は宣言し、店員がもってきたチョリソーを平らげる。

「そうか。まあ、お疲れさまでした、と言っておこう」

 盾伊は曖昧な笑みをうかべたまま、参太が容易く差し出した虹の結晶体を掴み、タバコのケースのなかに入れて見せた。

「出るころになったらまた、私の部屋を訪ねて欲しい。私から君の親御さんに身元を引き渡す旨、連絡をまわしてあげるから」

「ありがとうございます」

 参太はドリンクバーのコーラを一気飲みすると、そそくさと立ち上がった。

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