神に救われた高校生
司は現在、“逆流”の神を宿している。
スキル“世界改変”は、正確にはその身に異世界の神を憑依させる特殊なスキルだった。
世界の数だけ存在する神々はそれぞれ固有の特性をもっており、世界をやり直させる神もいれば世界を破壊する神もいた。
現在、司は五つの神を選択できるまでに習熟している。
逆流の神は男の神格をもっており、したがって憑依する司の声や仕草も男のようになってしまうのだ。
ちなみに神が憑依している間も司の意識ははっきりとしている。ただ体のコントロールは神のものになっているので、意識はあっても体は動かせない、というある種の絶叫マシーンに乗っている状態に似ていた。
神が宇宙空間に降臨するまでには長時間を有するため、時間稼ぎをする仲間は必要不可欠となる。
司が透とコンビを組んだのはそんな必要性からだった。
しかし。
(ごめん、透。ボク……)
司は参太を、見つけてしまった。
世界が逆再生された。
死を免れた参太は、司と目を合わせる。
彼女の瞳はいま、青く輝いていた。まるで地球のような暖かなブルーの瞳は、まっすぐに参太を見ている。強気に口元を歪めた彼女からは何事にも動じない力を感じた。
世界を操る力をもつ少女は参太から視線を外し、ゆっくりと正面に目を向ける。
鮮やかな赤色の機体はイレイザー・ブレイドをもう一度、伸ばし直した。
「どうしてあなたが来るの、神童!」
零華は威嚇する。宇宙世界を支配する最強の能力者がスキルを発動させることはそれだけで脅威だった。もしあのスキルをいま使われて、宇宙のすべてを握りつぶされたら? 勝ち目がまるでない。
(ふう……どうやらあの人、ボクのスキルの弱点わかってないな)
司はそんな相手の様子に人知れず胸をなで下ろしていた。神々はそろって敗北を知らず堂々とした態度をとるので、そのあたりのポーカーフェイスにはうってつけだ。
(弱点が見つからないうちに、逃げるとするか)
そう思った、矢先だった。
「神童、死んでよ、ねえ!」
きれいに弾んだ声が星々の間から聞こえた。
右側面からハルがテレポートしてきた。
スキルを再使用される前に迅速に処理しようという魂胆だろう。
(だから、再使用できないんだって!)
「ふ、人間。我に戦いを挑むとはな!」
司はそう思いつつ、憑依した逆流の神が強気な発言を繰り出すのに内心、びっくりした。
(ちょ、神様! 待ってよ)
この神はハルのテレポートの怖さがいまいちわかっていないらしい。触れるだけで別の時空に転送されてしまう恐怖を知らないのだ。
それに司は運動が苦手で殴り合いなんてうまれてこの方、一度もしたことがない。全力でパンチしようとしてもへなっとした弱攻撃をするだけだ。この神はそれさえもわかっていない。
司の体が勢いよく肘をため、渾身のパンチを繰り出そうとする。
瞬間、ハルが口が裂けんばかりに顔を歓喜に歪めた。
「そっちから来てくれるだなんて!」
仇敵を葬り去ることが極上の喜び。ハルはそう思っているからこそ住民間闘争を楽しんでいる。いまその喜びをひとつ、また重ねることができる。心躍る瞬間だった。
「んじゃあ、消えな!」
「ふ、人間如きが!」
司の拳とハルの拳とが衝突しようとする。
(ダメー、いますぐ、退いて神様ー!)
心の底から神に願う司だったが。
「やらせんさ!」
司とハルの間に割って入る人影がひとり。
「どうやらまた殺されたいようだな。冬木!」
「無能力者!」
透はハルと司のお腹に同時にそれぞれ手を当てると、思い切り腕を伸ばして両者を突き放す。
直後、透の回し蹴りがハルに炸裂した。
「セクハラ!」
蹴りを防いだと同時、ハルがテレポートして消える。
透が司をかばうため前に出ると、ハルはまるで妖精のようにセイヴァーの肩に乗った。
司はそのときには瞳の色を黒に戻していた。神の憑依を解除したのだ。
「ありがと」
「どんな時も、俺が護るさ」
司が控えめに礼をいえば、透はサムズアップで返した。
「何よあれ、カップルかよ」
「ハルちゃん、心の声漏れてるわ」
住民間闘争。
参太はその光景を眺め、聖剣からペンに戻った虹色の得物を見る。
視線を管理人がいるエイリアンシップに移した。
参太は目を細める。甲板に人影はいなかった。もう管理人は船のなかに帰ってしまったのか。それとも、再会したのは夢だったのか。
超絶的なスキルをもった者同士の争いに明け暮れるメゾン・アストロの日常を前にして参太は思う。
(なんだよ、これ)
逃げ出したい。
参太は強く、そう願った。
このままでは殺される。本能的に察知した。




