武装解除して死んだ、高校生
「違う、機体!?」
「プランにはなかったけど、乗り換えるしかなかったの」
刃と刃をぶつける二人は、武器越しに互いを見つめ合う。
「どうして、そこまで立ち向かうんですか」
「ごめん。でも守らなきゃいけないの、みんなを!」
「守る?」
「だから参太くん、いまは帰って! お願いだから」
鮮やかなワインレッドの装甲を纏う人型兵器【TN-2 セイヴァー】が瞳の位置にあるスコープから金色の輝きを瞬かせる。
「俺には、やらなきゃいけないことが!」
正直、もどかしかった。こんなことをしている暇はない。
そもそも。
「俺は、あなたを倒したいわけじゃないんだ……」
つばぜり合いは両者、一歩もひかない。
ひいた瞬間、相手に殺されるのはもうわかっている。
しかし、退きたい。参太にその気持ちが強くわき上がった。
「私もそうなんだけど。でも、キミがどかないから!」
「くそっ!」
参太は刃を前に押さず、下方にずらした。
虹の刃がレールのように下に位置し、零華の青い刃がその上を滑った。
セイヴァーの体勢が前につんのめる。
そこを狙って攻撃をかけることもできたが、参太は何もしなかった。
それどころか、後ろへ下がる。下がって、下がって、刃の間合いから逃れていく。
「何のつもり?」
「もうやめましょうって、言ってるつもりだけど」
「そう」
もういいだろう。もう無意味な争いの決着を付ける必要はない。
「互いにやるべきことがあるなら、それでいいじゃないですか。俺は、ここですることがあるんです」
「私も同じよ」
「じゃあそれでいい。一緒にやればいい」
「そう」
零華は大きく息をはいた。笑ったのかどうかは表情が読めないからわからない。
ただ参太が確かに見えるのは、セイヴァーが腕からイレイザー・ブレイドを噴出するのをやめたことだけだ。
全高十五メートルの巨人機と全身を兵器に変えた英雄が向かい合う。
互いに実力を試し合った末、その決着は凄惨なものになるだろう。相手を殺さなければ、命を奪い尽くさなければ、その逆をされる。持っている力が強大すぎるがために、そのすべてを奪わなければ、完全に動かない状態にしなければけして安心できなかった。
とはいえ。
本当にそれが目的か? 零華の命を奪うことが、いま自分がするべきことなのか。
違う。むしろ、逆だ。零華には幸せに生きて欲しいと、そう参太は思ってさえいる。
「もう俺は、戦えない。あなたとは」
もうどうでもいい。敵だの味方だの、心底どうでもいい。
(こうしている間にも、エイリアンになっている人がいるかも知れない)
もどかしかった。エイリアン化現象が表面化する前に。その侵食が零華に及ぶ前に、自分がやらなければならないことがある。
参太は己の意志を伝えるべく、スキルを解除する。鎧を着た英雄は、ひとりの高校生に戻っていく。
一方、零華はセイヴァーに乗ったままだった。
「なら。仕方ない、ね」
零華は天使のような声で、笑顔になったに違いないと思えるほどやわらかな声で。
セイヴァーが右腕からイレイザー・ブレイドを噴出させた。
「死んで」
冷たい声音。
「そんな」
あっけない終わり。
セイヴァーが零華の指示のもと、イレイザー・ブレイドを突き出した。
参太の視界に青い刃が、まるで巨大な滝のように映る。人間を蒸発させることなど容易いレーザーの飛沫が視界のすべてを支配した。花火のようでさえある。
スキルを使おうとしたが、遅かった。一度人間の体に戻った参太には高解像スコープで状況を瞬時に把握することもできなかったし、反発エネルギー関節による俊敏な動きもできなかった。
何もできない高校生がただ、死んでいく。
(お笑いだよな)
まったくもって間抜けだった、と思う一方、相手を殺すくらいだったらこれでいい、とも思えた。
(もとからろくな人生じゃ、なかったからな)
空き巣をして自己満足していた歪んだ人生だった。
「まったくもって貴様は、見ていられないやつだ」
瞬間、静かな男の声が響いた。
夢のような景色が宇宙で発生する。
参太は見る。目の前に迫った光の滝がひとりでに縮んでいく。伸展したはずの武器が勝手に収納されていく。
まるでビデオの逆再生でも見ているような、現実を超越した景色だった。
「神童か」
零華が呟く。
内側で世界が巻き戻るのは参太には初めての経験だが、零華にとってそれは二度目の救済だった。
スキル“世界改変”。
宇宙空間のなかで起こったあらゆる事象を、好きなように操作することができる。
いまは巻き戻しているが、握りつぶすことだってできるし、未来に早送りすることもできた。
実際零華は、そのスキルによって破壊された部屋があることを知っている。
「正直、気にくわないわ」
救われたにせよ、零華には恐ろしかった。自分の命がいつでも握られているのだと、そう言われているような気がする。
一方参太は、目の前に現れた少女――神居司の背中を見ていた。
参太は確かにきいた。女の子であるはずの司の口から、男性の声が出ているのを。
司は参太の死を回避したのを確認すると、振り向いてにこやかにほほえみかける。
「貴様は面白い奴だが、少々、世話の焼けるやつだよ」
やはり男の声が、ショートヘアの彼女から聞こえる。
参太は一度、首をかしげた。




