幻獣、鳥人、高校生!
【TN-1 キラー】の近接専用武装“イレイザー・スラッシュ”が一閃した。
青い斬撃が空間を疾走。そのまま参太の首を切断するべく横なぎに振られる。
容赦のない攻撃は、しかし虹色の刃に受け止められる。
聖剣アゾノフは六千度に到達したイレイザー・スラッシュの超高温をいとも容易く受け、そのまま流した。
虹の上を蒼穹が滑り、キラーは体勢を崩す。
「くっ!」
「そこで!」
零華の苦悶と参太の快哉とが飛び交った。
参太の右足がキラーの腹部にぶち当たる。スキル“兵器化”で己を改造した参太の全身に武器でない部位は存在しない。その例に漏れず足先はダガーブレードになっていた。その状態でのキックはそれだけで装甲を貫ける。
キラーの白銀のボディに風穴が開いた。
しかしとっさに機体を上昇させたキラーは、参太のキックの狙いを腹から左腿に反らすことに成功する。
腿にダメージがいけば足全体が使えなくなるが、コクピットがある腹を撃ち抜かれるよりはマシだ。
「手加減なしね!」
「首を狙っておいて、よく言いますよ!」
「お互い様、ってところかな?」
反撃。
キラーはイレイザー・スラッシュを展開していない左手を虚空に伸ばすと、その先に魔方陣をうみだした。
零華のスキル“武器召喚”だ。
「私の心に応えて……お願い!」
異世界から武器だけを召喚できるスキルとされているが、実際には零華の強い願いが宇宙に放たれて世界を超えた結果、異世界の何者かがそれに応えて武器を送っている、という方が正しい。
零華が乗っているキラーも異世界から贈られてきたものだが、いま召喚しているのはキラー専用装備らしい。
魔方陣から純白の柄が伸び、キラーはそれを左手で握った。手前に引いて抜き取ると、先端には赤黒い刃が取り付けられている。薙刀か。
「召喚! 古槍サイオーキス!」
零華が武器名を叫ぶと同時、音声入力によってキラー内部のコンピュータに手にした武器が登録される。その際にサイオーキスから自動送信された兵装管制システムパックがキラーの管制コンピュータにインストールされる。
これによりサイオーキスを一度も使っていないにも関わらず、最適な運用方法がキラーに学習され、つまり零華は一瞬で薙刀の名手になれる。
キラーは熟練した薙刀使いの動きで、その赤黒い刃を振り上げた。下から上へ光の如く駆け上がる斬撃が参太の右の二の腕めがけて一閃する。
聖剣を手にした腕を切り落とす。そんな狙いが見え透いていた。
「さすがに!」
苦悶の声を上げる番になった参太は、そっと体を左に流して斬撃をやり過ごす。
が、古槍サイオーキスは単なる薙刀ではなかった。
直後、斬られていないはずの参太の右腕が切り落とされる。
「は?」
痛みも感じる間さえない。常識を越えた現象に対する驚愕だけが参太の感想だった。
「えええええ!」
驚愕の叫びとともに聖剣をもったままの右腕が目の前に漂う。
「サイオーキスの力、すごいでしょ!」
キラーは一度右手から噴出させていたイレイザー・スラッシュを収めつつ前進。右手を伸ばして聖剣を回収する。
古槍サイオーキスは一度振れば絶対に命中する最強の武器だった。たとえ刃先から逃れたとしても、斬られたという事実だけを相手に刻みつけることができる。
しかし代償として、一本につき一回しか使用できない。
サイオーキスの赤黒い刃が砕け散り、単なる柄だけになった。
それをキラーは放り投げると、両手で大事そうに聖剣を掴み上げる。全高十五メートルのキラーには聖剣もミニチュアの剣ほどのサイズ感しかないが、しかしそれは管理人の後継者を示す重要なアイテムだ。
聖剣を奪い取ることはすなわち、管理人にしかアクセスできないメゾン・アストロの内部システムに干渉する権利を得るということだ。
「よし、これで!」
零華はシャルロット・カイゼルから示された作戦プランの第一段階を完了し、思わずガッツポーズした。
だが。
「くそおおおおお!」
参太は遅れてきた痛みを堪えると、ふたたび己のスキル“兵器化”を起動させた。
全身を瞬時に変形させる。人型が大きく崩れ、それは機械の獣に成り果てた。
細い二本足がまず伸びると、頭部からはくちばしが生える。背部から短刀の羽根をもった翼が広がれば、幻獣グリフォンの姿をした機獣がいま、宇宙に再臨する。
かつて零華がエイリアンに殺されたとき、参太はその怒りで機獣に身を堕とした。それと同じ形になった彼を前にして、零華はその時のことを思い出さずにはいられない。
(私は参太くんに、救われたんだったね)
正確には世界が逆再生したことで救われたのだが、しかし零華は参太に恩を感じていた。
グリフォンに身を堕としてまで、彼は復讐を限りなく行ってくれた。その事実は零華自身にも参太の恐ろしさを感じさせたが、しかしそれと同じくらい深く感謝してもいる。
(私のために、あんなに戦ってくれたのに)
恩人の腕をいま、切り落としてしまった。一抹の罪悪感が零華の胸にわき起こる。
それはキラーに一瞬の硬直を与えることになる。
「その、一瞬!」
機獣が体当たりを繰り出した。キラーはそれを正面から受け、はね飛ばされる。同時に聖剣を取りこぼす。
「しまった!」
虹色に輝く一条の閃光が円を描いて宇宙に投げ出された。
それを掴んだのは、参太だった。
機獣は再び人型に戻る。足の形はそのままにして機獣は一度、直立した。胴体の左右が割れて腕になり、グリフォンの首がロボットアームのように後ろへ曲がって背中に回る。首の付け根には人の頭があり、それは勇者のような兜に覆われて表情が読めない。
瞳の位置にとりつけられたゴーグルからギン! と赤色の輝きが漏れると、人の形を得た機獣はその手を伸ばし聖剣を手にする。背中から広がる翼が大きく展開され、鋼の鳥人が宇宙に舞い降りた。
「決着を、つけます」
重く声を吐くと、鳥人となった参太はふわりと上昇するや急降下。
その速度はキラーの情報処理速度をもってしても解析不能だった。
一瞬で敵の懐にもぐった鳥人は聖剣をひとふり。
キラーの両足が切断される。
と同時に、目に見えない剣裁きで両手までもが切り落とされていた。
一秒にも満たない時間で胴体と首だけにされたキラーは、しかしまだ充分な戦闘能力を備えている。
キラーの胸部装甲と腹部装甲が展開され、内部機構がむき出しになった。そこには合計三門ものレーザーキャノンが内臓されている。
砲門を成す暗い穴に新緑の輝きが充ち満ちた。直後、あらゆる存在を無に帰するレーザー砲の一斉射撃が、なんと至近距離で放たれた。
これを避ける術はない。
参太はしかし背中の翼を長大に伸ばしきるとともに屈折させて前に出し、正面を覆う。
翼の盾にレーザー砲が直撃し、その熱量と衝撃力は完膚なきまでに鋼の翼をむしり取った。
しかし被害はそこまでだ。参太は背中から翼を切り離すと同時、三度スキルを発動、鳥人の姿から銀の鎧の戦士へと回帰する。
最初の形に戻った参太は聖剣を振り、キラーの頭部を刎ねた。
胴体部と腰部だけになったキラーに対し、参太は最後の一撃をさしむけた。
「終わりです」
虹の刃の切っ先が、白銀のコクピットブロックに向けられる。
「もう、降参してください」
勝利宣言を放つ参太を前にして、しかし零華は終始無言だった。
宇宙に静寂が訪れる。
「黙っているってことは、俺の言うとおりにしてくれるってことですね」
攻撃態勢をとったまま、かといってとどめを刺すこともできないまま、参太は言葉を放った。
直後。なんと背後から零華の声がした。
「黙っているからといって、好きなようにはならないわよ?」
振り向けば、赤色の鉄巨人がそこにいた。
【TN-2 セイヴァー】だ。零華の武器召喚に応じた、人型巨大兵器の二番機である。 キラーの色を赤くしただけの見た目をしているが、その性能は比べものにならない。
「いつから!」
「いまさっきよ」
セイヴァーは腕から大出力のレーザーソード“イレイザー・ブレイド”を噴出させ、それを参太の背中に振り下ろしていた。
瞬時、参太は虹の刃で受け止める。
第二幕が始まった。そうといわんばかりに、二人の戦いは再開される。




