強制退場、高校生
「テレポートできないなんて」
ハルは絶望に顔を青ざめさせながら、現実を見る。
透の容赦ない拳がハルの頬にぶち当てられる。女の子の顔が醜く歪んだ。
「そんな、馬鹿な!」
絶望してもなおハルは叫びつづけた。現実に屈しない意志が声になってほとばしっている。
だがスキルはもう使えない。無能力者と同然のものに成り下がったハルはもはや翼をもぎ取られた孔雀も同然。透の強靱な身体能力からは逃れられない。
「俺を無能力者とあざけった分、返させてもらう」
透はそのとき、はじめて笑った。弱者を見下す圧制者の加虐的な微笑だった。
「く!」
ハルは透の拳を受け続ける。重力のない状態で拳を受ければ吹き飛ぶが、透はハルの手をしっかりと掴んで離さない。吹っ飛んでいくはずの体は止められ、また次の一撃を当てられる的になる。
サンドバッグだ。
(俺はどうする)
参太は聖剣をぐっと握り込む。自問するまでもなかった。
「もう、やめろ!」
意を決して前にでる。兵器化した聖剣アゾノフから虹の刃が放出され、それを一振りした。斬撃の波がほとばしり宇宙を駆ける。
「な!」
「!」
参太の挙動は透とハル、双方にとって予想外だったらしい。両者とも驚愕に目を見開いたが、透は反射的にハルの手を離して後ろに下がり、ハルもまた身を翻して斬撃波をかわした。
「俺を殺す気か、奥津くん!」
怒りの眼差しを向ける透に、参太は叫び返す。
「もう勝負はついた。これ以上痛めつける理由はあるのか」
「そういう感傷は、この世界では不要だ」
透は参太を無視してハルに殴りかかる。
だがハルの力はもとに戻っていた。
透の拳は命中の直前に空を切る。
「ち!」
舌打ちしたが、ハルは透の背後にいた。
「さっきのお返し!」
ハルのキックが透の背を打つ。
「当たるわけには!」
強制テレポートが待っている。透は体を駒のように回転させると、ハルのつま先をぎりぎりの位置でかわした。
「やめろって、言ってるだろ」
参太は今度はハルに聖剣を向ける。
「あんた、相変わらずバカみたいね。ここはそういう場所じゃないんだよ!」
再びテレポート。ハルは参太の真正面にいた。
「ハル!」
「名前、気安く呼ばないでよ。汚らわしい」
冷たい返事だった。心の底から侮蔑し、突き放したい人間にだけ放つ声音だった。
(何だよ、これ)
参太は絶望を見る。
(助けてやったのに……)
ハルの瞳にはすでに迷いがない。参太はその瞳の色をみて、兵器化した瞳、高解像スコープの輝きを鈍らせる。
直後、ハルの拳が参太の胸を打つ。
「じゃあね、空き巣野郎!」
参太は異空間に弾き飛ばされる。
あっけない退場。
宇宙空間にはハルと透、司だけになった。
「それじゃあ、続きをやりましょうか」
ハルは唇から漏れる血をハンカチで拭き取ると透と司を交互に睨む。
「司。奥津くんを頼めるか」
「うん、そういうと思ってたよ」
司は返事はしつつ心配そうに透をみていた。涙目でさえある。
「俺は大丈夫だよ。頼む」
「うん」
透と司は視線を絡め合わせる。
次には司が宇宙空間から消失していた。現実世界に戻ったのだろう。
「ほら!」
直後、透の背後にハルが体を滑り込ませる。
「空き巣野郎の次は」
ハルの拳が透を狙う。
「無能力者!」
透は体を半回転させハルと向き合う。
「もう一度、懲らしめる必要がありそうだな」
体をわずかにずらしてハルの拳をかわし、透は秘められた己のスキルをもう一度、起動する。
それは外目には何も発動していないように見える、隠されたスキルだった。
☆
目を開ける。
参太はベッドに寝ていた。
家に戻った、わけではない。
天井には蛍光灯が白い光を放っており、壁は美しいベージュ一色。窓はなく、テレビも見当たらない。
病院のようだ。
「気づいたようだな」
参太は声の方に目を移した。
一人の男が椅子に腰掛けている。
三十代半ばほどの長髪の男だった。低く落ち着いた声には聞き覚えがある。
「か、管理人さん?」
参太は目をこすったが、見間違えではない。
それは人間に擬態した状態の、メゾン・アストロの管理人だった。
「覚えていてくれて何より。また会えて嬉しい、参太くん」
その手で殺した相手を前にして参太は一度、目を反らした。




