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メゾン☆アストロVS空き巣高校生  作者: SAND BATH
空き巣高校生VS管理人
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高校生、JD部屋に潜入する

 メゾン・アストロの二階、東側の角部屋「2-A」では“世界創世の儀式”と称する新世界の作成行為が順調に行われていた。

 かつて17歳の少女、冬木春枝のものだったその空間に、いまは22歳の女子大生、シャルロッテ・カイザルが儀式における正統な衣装を身にまとい、儀式を執り行っていた。 儀式においては不純物を取り除くため服装は可能な限り簡素なものがいいと言われており、必要最低限度の部分のみを覆う羽衣――世間一般的には肌着にしか見えない衣装のみを着用して執り行われる。


“誰がもっとも優良な世界を生み出すことができるのか”


 それが部屋を与えられた住民ひとりひとりに与えられた使命であり、住民同士の競争理由でもある。

 シャルロッテは金髪が太陽の熱波に煽られてそよぐのも構わず、人工的に生み出された宇宙空間のなか、二つ存在していた太陽を接合、ただひとつの巨大な恒星を作り上げた。

 四つあった太陽はこれですべて結合を果たしたことになる。

「ふふ。さすがはハルちゃんデース! ワタシはただ、くっつけるだけで良いなんて!」

 ライバルである春枝の成果を横取りしたことで、シャルロッテは住民間での競争で突如、圧倒的優位に立つことになる。

「さあて! ここからはワタシの時代デース!」

 シャルロッテはこれからのことを思うと興奮した。競争で優位に立ち、もっとも優れた世界を作り上げる……それがいま、目の前にある!

 だからシャルロッテは気づかなかった。

 春枝の指示の下に参太がドアをあけ、参太の口を通じて春枝が情報を得たことに。



 放課後。

「あいつがシャルロッテ・カイザルよ。覚えなさい」

 ハルと参太は二人で草むらのなかに身を潜めていた。匍匐前進の姿勢でひとつしかない双眼鏡をかわりばんこにつかっている。

 メゾン・アストロから一キロ離れた茂みで、二人は部屋のなかに入ろうとするハルを双眼鏡で目視するという端から見ればストーカー行為も甚だしい行いを実践していた。

 シャルロッテに気づかれないよう情報収集するにはこれしかないと、ハルは何の迷いもなく参太に告げたのだが。

(この女、マジでいかれてやがる)

 いまどき刑事ドラマでもこんなばかげた調査活動はしない。それを現実で実行する狂気を感じ取りながら、しかし参太は従わざるを得なかった。狂気以上の馬鹿力がハルに宿っていることを参太は知っている。

「へえ。でも美人さんなんだな」

「変態!」

「痛ってえ! 事実を言っただけだろ!」

「ふん。外面だけで判断しちゃって。あいつは読モをバイトにしてる今をときめく女子大生、JDなのよ! その上理系女子として注目されテレビの取材を受けたこともあったわ。朝のニュースで見たし、実際!」

「はあ。お前それ、褒めてねえか」

「それだけじゃないの! ボランティア活動も実践していて、去年なんか内戦で苦しんでる子供たちのために村一帯を軍から解放する作戦を手伝って成功に導いたらしいわ」

「それもうボランティアじゃねえだろ!」

「さらにさらに、読モバイトでもらってる高額のお給料の半分は必ず募金に遣ってるらしいわ」

「外面も内面も完璧な女じゃねえか!」

「この変態!」

「だから痛ってえって! まったく。でもまあ、人様の研究成果横取りするような奴がまともなわけはねえか」

 参太は双眼鏡でシャルロッテの顔を拡大して眺める。メゾン・アストロの小汚い通路とは対照的な美しく高貴な雰囲気を漂わせる女性で、ハミングでもしているのが丸わかりなほど上機嫌な笑顔を浮かべている。

(JDねえ)

 ハルのことは美人だとは思っていたが、こうして美人女子大生と比べると子供っぽさが現れてしまう。シャルロッテは今日のテーマはOL風、といわんばかりに形のいいジャケットを着ており、上下ともにダークブラウンのセットアップ、ピンクがかった白味のブラウスは輝きを放つかのように映えている。バックも黒い牛革製で落ち着いている。JKとは比べものにならない大人の雰囲気だ。

 だが参太はそれが美しいと思っても、やはり欲情したりはしなかった。彼女の笑顔もそうだが、全身から鼻持ちならない堂々としすぎた態度が現れていたからだ。

(これは強敵だろうな)

 いったいハルはどうやってこの女から部屋を奪還しようというのだろう。参太はため息をついて絶望していたが、一方ハルの表情に曇りはない。

「ああ、あたしの部屋に入っていく……必ず取り返すわよ」

「でもどうする? 見た感じ管理人さんも仕事してねえみたいだし、あの女子大生も頭いいんだろ、俺たちより。ってなると、正攻法じゃ勝てないぜ」

「そ、こ、で。あんたのくだらない趣味が使えるってわけよ」

「趣味? 空き巣のことか」

「うん!」

 にんまりと、鋭利な刃物のような決然とした笑顔を浮かべてハルは頷いた。

 太陽を奪還するための作戦がはじまる。



 最初の行動はハルがはじめた。

 メゾン・アストロの「2-A」号室の呼び鈴ボタンを押す。インターホンなどという上等な装置が施されているはずもなく、ただベルを鳴らすだけの簡素なものだ。

 だから音が鳴れば一応はその姿を確認するべく外に出る必要がある。

「ハァイ」

 西洋訛りのゆるい返事がきこえドアがわずかに開いた瞬間、ハルはドアの内側に思い切りつま先をぶち入れた。ドアストッパーの代わりだ。

「ごきげんよう、シャルちゃん!」

「オー! ハルちゃん、ご無沙汰デース!」

 二人はまるで親友のような自然さで仲良しの挨拶を交わし合う。あるいは心通じ合った姉と妹が再会したような場面にも見えた。

「今日はいかがご用事ですかぁ、ハルちゃん」

「シャルちゃん、あたしちょっとバイト始めようと思うんだけど!」

「そうなんでーすかぁ」

 互いに言葉を交わし合ってはいるが、二人だけがその意味を正確に翻訳できる。

 先ほどの会話は二人が翻訳した場合、以下のようになる。

『どの面さげてここまで来れるんですかぁ、高校生』

『おばさん、昨日の腹いせに邪魔しにきたよ』

『暇なのですか? ワタシと違って』

 互いの腹の底を見透かしながらも笑みを崩さないのは、互いが互いをより美しい存在だと信じて譲らないからだ。

「ハルちゃん、そもそもバイトは考えた方がいいかもデース。受験もあることですし、お金なら最悪、ワタシが貸してあげマース」

「ありがとう! でもシャルちゃんを見てたらさ、あたしもがんばらなきゃって思って。シャルちゃんにはいつも助けてもらってるから。あたしがやらなきゃって」

「それは殊勝なこころがけデース。なら、ちょっとワタシの知り合いに連絡とりましょうか」

「うん……実は今日、それをお願いしにきたんだ」

 終わらない会話をハルが仕掛け、シャルロットはドアも閉められず押し返すこともできない。ここで力尽くで押し返したりすればこれまできれいに作り込んできたレディーの表面が台無しになってしまう。

 ハルは作戦がうまく行っている感触をえつつ、仕事を任せた参太がうまくやるのを信じていた。


 同時刻。

 参太はメゾン・アストロの最上階――七階の西の角部屋「7-G」のプレートを見ていた。

 そこは扉がひどく傷ついており、塗装がはがれている上に縁も見事にさび付いていた。「2-A」は全室中一番きれいな扉だったが、ここ「7-G」はその逆だろう。

「じゃ、やるか!」

 参太はいつも通り内ポケットから針金を取り出しピッキング作業にとりかかる。住人は「2-A」でハルと話し込んでいる最中なので、侵入がばれることはない。

 シャルロット・カイザルの部屋に忍び込み、その宇宙空間のコアとなる置物を盗み出す。

 それが参太に課せられた使命だった。

 針金を鍵穴に差し込んでその構造にアクセス、いとも容易く解錠するとドアノブを握り込み、慎重に手前に引いていく。

 ぎい、と音がすれば玄関が見え、普通のアパートの内装が視界に映った。


 ハルいわく、

『アパート各室は空間が二重に貼り付けられた特殊な構造をしているの。そしてスイッチの役割をする事象を部屋で起こしたとき、アパートは姿を変えて宇宙空間に切り替わるようになってるわ』

 

「おじゃましまーす」

 参太はいつも通り挨拶をすると、靴を脱いで一歩、一歩、すり足で前進する。


『あたしの場合、スイッチ事象はめんどくさいから正面ドアをあけた瞬間切り替わるようになってるけど、自意識過剰なあのJDおばさん、のぞき魔を警戒して“シャワーが起動している間に風呂場のドアが開いたとき”っていうわけのわからないスイッチ事象設定しているから、それさえ気をつけてもらえれば大丈夫よ』


 壁紙はピンクの地に水玉もようがあしらわれたかわいらしいもの。

 通路を過ぎリビングに辿り着けば、ピンク色の家具の数々が見事に配列されていた。イス、テーブル、ドレッサーに本棚まですべてが薄い桃色の塗装が施され、そのすべてに熊のぬいぐるみが乗っけられていた。

 ぬいぐるみはそれぞれ色が違っており、全部あつめると虹色になりそうな気配だ。


『宇宙空間を普通の生活空間に貼り付けておく為に、特殊な細工を施した装置が必要になるの。あたしの場合は枕だけど、あのJDおばさんは年甲斐もなく熊のぬいぐるみを媒介にしているわ。一番信頼する色……ピンクの熊のぬいぐるみが正解よ。それを一〇分以内意に持ち出して。連絡をとりあったりしないから、時間だけがすべてよ。いい?』


 赤、青、黄色、緑色と狂気のように収集されたぬいぐるみを眺めながら部屋をうろつく。

「あった」

 それは鏡台の上、化粧道具のすぐそばに置かれていた。

 毎朝をそれを眺めてメイクでもしているのだろうか。

 参太はそれを何気なくとると、そのまま部屋を出ようとして。

「おい」

 声をかけられた。

「ん?」

 首をかしげる。ドアは開いていない。ほかに人もいない。

「おいっつてんだろ!」

 大きめの声が、手元から流れてくる。

「え」

 参太は目を見開いた。

 手元のぬいぐるみがもごもごと動いて、「よう」と声を発しながら手を振っていたからだ。

「俺の持ち出しは、皇女さまの許可あってのことかい?」

 ピンクの熊のぬいぐるみは、やけにさわやかな声でそう言った。

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