高校生と決戦・破
虹のエイリアンが持つのは小さな宇宙怪獣の死骸が巻き付いた両刃の剣だった。
地球で言えば蛇にちかい見た目の小型宇宙怪獣が柄から生え、それが刃にまとわりついている。
柄は青く、刃は灰色に濁っていた。
「ハッ」
虹のエイリアンの所作は優雅だった。流れるように体を動かし、楽々と剣を振るう。
参太に加速のついた斬撃が迫る。振るったと思えばすでに衝突していた、光の速度のような鮮やかな剣戟。
地球文明では視界に捉えることができないはずのその一撃を、しかし参太ははっきりと見切っていた。
全身を兵器化した彼の瞳は肉眼ではなく、高解像瞬視スコープに変わっている。眼の形すらないゴーグル状の装置は銃弾の動きすら完璧に捉えることができた。
エイリアンの斬撃を見切ることは容易い。
「くッ!」
参太は神剣の刃で防ぐ。瞬間、その一撃の重さにうめく。
神剣は高熱度レーザーによる光刃でできているが、敵の剣は実体剣にも関わらず溶けることはなかった。
エイリアンの鋳造技術で鍛え抜かれた白刃が神剣と渡り合う。
「それでも、俺は!」
参太は歯を食いしばってしびれる腕に力を送り、柄から手を離さないようにする。
神剣を握って押し込み、力の拮抗する両刃がじりじりと震えて接し合う。つばぜり合いだ。
「それでも、どうした? それでも、何だ!」
虹のエイリアンはワニのような口を大きく開くと嘲笑する。
「貴様らの事情がいったい、何だというのだ。母なる星を護る必要もなく、その努力も必要ない温室育ちの貴様らが、いったいどんな言葉をこの宇宙に吐き出せるというのか!」
強い口調とともに押し返される白刃が参太の目の前に迫る。力負けしている。
「わけわかんねえこと! そんなもん、知るか!」
参太は叫び返し、神剣を押したまま体を相手の左に回り込ませる。互いに正面から接していた刃の向きにずれが生じて宙に浮く。
それまで強い力で押していた虹のエイリアンは前につんのめる形なった。
そこでうまれた一瞬の隙を参太が突く。神剣を思い切り振り下ろした。
反発し合う力場が込められた参太の全身の関節は、軟骨で動く通常の生命体とはかけ離れた速度で動くことができる。
ただ、相手は地球のシステムとは異なる規格外の生命体だった。その英雄である彼は、生命体でありながら機械化した参太の速度に追いついている。
「喰らえ!」
「フッ!」
エイリアンの背中に向かって振り下ろされた神剣が一瞬で迫る刹那、エイリアンはぶるんと回転、背中をさらしていた状況から向き直って正面から神剣を自身の刃で受け止めた。
普段地に足をつけて動いている地球生命体からみれば常識外の挙動だが、エイリアンにとってはこれが普通の動きだ。
「クソ!」
「この程度で!」
渡り合えると思ったか。
そう豪語するかのように参太の一撃を容易くうけとめたエイリアンは、聖剣でも何でもない一般兵士の扱う武器で神剣を払いのける。
「死ね、蛮族ヨ!」
光速の突きが繰り出された。光に貫かれるような一瞬の攻撃。
が、参太はそれを切り払う。神剣を下から上にはねあげて急場をしのいだ。
「着いてくるか」
エイリアンはにやりと口の端をつり上げる。
「そうでなくてはな」
「俺は!」
参太はいま一度声を張り上げる。全身を声にして叫んだ。
「救うために、ここにいる!」
参太の意志に応じるかのように神剣がひとりでに出力をあげ、刃の大きさを変えた。より太く、より厚く、より強靱に。使い手の力を現実に作用させるべく神剣もまた叫んでいるのか。
「俺を救ってくれた人を、いま、俺が!」
何のために現在から過去へとやり直したのか。やり直しの際になぜこの時間軸を選択したのか。
すべてはあのOL風女子に、今度こそは背中を見せたくなかったからだ。見殺しにしたくなかったからだ。
そして己の無力と向き合うことからも逃げたくなかったからだ。
だから参太は叫び、立ち向かう。己がくそったれと規定し、実際そうだったこの現実に。
「喰らえ!」
神剣を振り下ろす。
白刃で防がれることはすでにわかっていた。
事実、敵は笑みを崩すことなく応戦してくる。
「ハッ!」
剣の一振りで簡単に神剣がはね除けられる。直後、エイリアンの突きがほとばしる。
「ッ!」
反射神経で避け、神剣を横なぎに振るった。
エイリアンはそれを垂直に構えた剣で防いだ。
再び、つばぜり合い。黄金の神剣と灰色に濁った剣とがにじり寄り、ぎりぎりと震え合う。
刃と刃を押し付け合いながら、参太は敵の言葉をきいた。
「他者の為、か。フ、見損なったぞ、蛮族の英雄ヨ!」
エイリアンは笑みを崩し、ふと真顔になる。笑みは失せてうなり声をあげた。
声は放射線となって参太の全身を焼いていく。
黄金に輝く装甲を身に纏う参太は何の痛みも感じないが、しかし放射線による傷がわずかに表面に線となって刻まれた。
「己の為。ただそれだけの為でいい。それが生命の進化を誘う。強き己さえ残れば、それでいい!」
エイリアンは剣を握る手に力を込めると、それだけで参太は吹き飛ばされた。
「くっ!」
力負けしてしまった事実を認めながら、しかし参太は瞬時に姿勢を整え、神剣を構えた。
「もう俺は、化け物にはならない!」
己の為の力。それを求めたが故に生き残れた記憶と、しかしそれでは何も救えなかった記憶とが同時に蘇る。
戦士か、幻獣か。いま勇者となった参太は、目の前で白銀の巨人――あのOL風女子が消滅した記憶を脳裏に再生する。
「あの現実にはもう、戻らない!」
力を得てもなお無力を感じたのは何故か?
あのOL風女子を救うことができなかったからだ。
参太はすでに、答えを得ている。
「そんな進化は、要らない!」
叫び、自ら突進した。
神剣の突きがエイリアンに差し向けられ、それを白刃が防ぐ。
攻撃しても防がれる。互いにその繰り返しだ。
終わりのない剣と剣の応酬に、参太とエイリアンは一歩も退かなかった。
「愚かな者だ。しかし、それも答えか」
エイリアンは再びその口で笑みをつくった。
その時。両者の頭上に虹の輝きを放つワームホールが花開く。
赤、紫、青……一瞬ごとに色を変えていく光の輪の中はまったく別の宇宙空間が広がっていた。その中心に、虹色の球体が浮かんでいる。
それは星だった。一定の色を持たず、たえず変転することを選んだ異次元の天体だった。




