高校生、宇宙とともに
冬木春枝――ハルはシャルロットの言葉に従い、管理人室の宇宙空間に飛んだ。
『計画は順調に進行していまーす。過程はどうであれ、魔獣とエイリアンの両方がいない状態ができあがっているのですから』
参太を零華に支援してもらい、魔獣とエイリアンを撃退する。これがシャルロットが天啓によって作成した作戦の第一段階だ。
「さすが我らが皇女様。作戦は完璧だ」
ハルの肩にはちょこんと青いクマ型スマートスピーカが乗っていた。シャルロットの鍵の役割を内包し魔術で駆動するサポートロボットだ。
「皇女様って、ほんと気持ち悪いわ。あんた」
「主を賛美して何が悪いというのだ」
「はいはいごめんなさいね、まったく」
ハルは舌打ちすると、目の前で繰り広げられている虐殺を一度視界にいれた。
グリフォンが、参太だったものがワームホールにくちばしを突っ込み、まるで小鳥の巣を襲撃する大鷲のようにエイリアンを捕食していた。
ワームホールの周囲には食い散らかしたエイリアンの死骸と血液が漂流しており、臓物のたぐいもそのまま放置されているありさまだ。
それを片付けもせず、当然悼みもせず……グリフォンはひたすらエイリアンを惨殺することに余念がない。
「醜いね、ほんと」
参太の顔も心も汚い奴だと思っていたが、ついにその本性が出たのだろう。ただ認めたくないのは、彼がそうなったのは零華が死んだときからだということだ。
「バカ」
グリフォンにそう呟くと、ハルは仕事にとりかかる。
計画の第二段階は、エイリアンのいなくなった安全な宇宙空間のなかで、鍵である聖剣を破壊することだった。
ハルは青いぬいぐるみに持たせた不可思議な光沢を放つボールペンを手にする。
光と物質の中間に位置する謎の素材で造られた、管理人がもつ鍵。いまいる宇宙空間と現実世界とを接続するかけ橋そのものだ。
戦闘時には聖剣の名の通り剣の形状に変形するようだが、現実世界ではボールペンに擬態してその本質を隠していた。
ダイヤモンドより美しい虹の光沢を反射するそれを握ると、ハルはボール投げの要領でそれを宇宙の中心部分に放り投げた。
そして計画の第三段階――クマ型スマートスピーカをシャルロットが遠隔操作し聖剣を破壊。鍵を破壊されたことにより、管理人室の宇宙空間を消滅させる。
「ここを消滅させるときが、くるなんて」
ハルにしてみれば、それは故郷の草原を焼き滅ぼすようなものだ。
住民の誰もがこの管理人室の宇宙空間に来たことがある。管理人から選ばれた人間だけが入ることがでいるこの空間で、ある者は管理人の怒りを聞き、ある者は管理人の願いを聞いた。
『君は、絶対的な力が欲しいと思っているが……手に入れる気はないかな?』
ハルは管理人からそう訊ねられた。はじめてメゾン・アストロの存在を知ったときだった。
成績がふるわず、部活のバスケも絶不調のころだった。はじめて成績に赤点がつき、バスケでもレギュラーメンバーから外され、逃げるように付き合った彼氏とも別れてしまった。
人生のどん底に入ってしまった。その絶望感しかなかったとき、その管理人の言葉は闇を照らす光そのものだった。ハルの心の闇を見透かした上で導いてくれた、管理人との思い出。
いまは成績も好調で部活もレギュラー復活を果たした。彼氏はできていないけれど、そんなものはいつでも作れるから別によかった。
そんないまがあるのは、いまいるこの宇宙空間で管理人と出会ったから、なのだが。
思い出の場所を自ら焼き払う。
ハルは肩に乗っているクマ型スマートスピーカを人撫ですると、ただ一言、願った。
「お願いね」
ハルは目を閉じ、そうして自身のスキル、テレポートで現実世界へと帰還をはたした。
シャルロットが微笑を浮かべて、
「お疲れさまでーす。あとはクマちゃんがやってくれまーす」
顔色ひとつ変えず、淡々とモニターとなっている鏡を見る彼女に、ハルは吐き捨てるように言った。
「ほんと冷徹ね、あなた」
シャルロットはそんなハルの本音の言葉にさえ、微動だにしない。
「フフ。よく言われまーす。他人からも、自分からも」
ハルとシャルロットが見つめるなか、モニターのなかの宇宙空間は終焉を迎えようとしている。
宇宙の中心部分に放られた虹のペンをクマ型スマートスピーカが追い、抱きついた。
スマートスピーカには爆薬がセットされている。
あとはそれを、起爆するだけ。
シャルロットは目を閉じると、ドレッサー上の口紅を強く握った。
口紅状の起爆装置のスイッチが押され、大爆発の花が宇宙の真ん中で咲く。
「聖剣、消滅を確認しました。参太くんとワームホールごと、この宇宙は消滅でーす」
シャルロットのその勝利宣言は、しかしどこか抑揚のない、棒読みのような口調だった。




