高校生、殺し尽くす
管理人はただその悪夢を呆然と眺めていた。
奇跡と思ったはずの参太の変身は、いまや黒く塗りつぶされている。
鋼の戦士から、黒金の猛獣へ。
その変転は、人の奇跡が野獣の暴走に成り果てたことを暗示している。管理人にはそうとしか思えないほど、その悪夢は残虐だった。
グリフォンはあくまで緩慢な動きで、まるで巣の近くを散歩でもするかのように悠然と、青色のエイリアンへと向かっていった。
「是ハ……魔獣デハナイ。ナラ、何d?」
エイリアンは巨大化した四肢を伸ばし、正面から迎え撃つ。彼はグリフォンが参太の成れの果てだとは気づかなかった。
気づかないまま、彼はそこで死んでいく。
グリフォンはぐるりとロール回転すると背後に回り込み翼を次々と背中にぶつける。羽の一本一本が剣となっている兵器の翼は連続斬撃を可能とする。
一方、エイリアンはそんなものはかすり傷程度とばかりに無視。背後に不可視の力場をつくりだす。
零華を捕らえた空間制御がグリフォンにも容赦なく振り向けられる。空間そのものを捕縛する彼の能力は全宇宙でも最強の部類に入る。
ガギン!
エイリアンは思わず振り向いた。音のしないはずの宇宙空間で、彼は鉄が砕け散るような壮絶な音を聞いた。
見れば、そこに宇宙空間はなかった。紫色ともピンク色ともつかない亜空間が広がっていた。ワームホールともブラックホールとも違う。ただ崩壊しただけの何もない空間だった。
その中心にグリフォンがいた。
「馬鹿ナ。空間ゴト破壊デキルナド、ソンナ技術」
エイリアンは絶句したが、しかしもう一度空間制御を試みる。
だが。
ガギン!
グリフォンは力場をはね返すかのように翼を押し広げると、空間を破壊してエイリアンの力から逃れる。
物質ではなく、空間を破壊することができる存在などエイリアンの世界には存在しなかった。
生まれて初めて、エイリアンは恐怖という感情を知る。
「馬鹿ナ!」
幾度も繰り返す空間制御は、すべて無力化される。
宇宙を破壊して己の身を護るグリフォンは軽やかに身を翻すと、エイリアンに突撃する。
空間制御に効果がないとすれば、もう肉弾戦しかなかったが、全身が武器といっていいグリフォンの戦闘能力は魔獣さえ凌駕するだろうことはエイリアンにも推測できた。
「試練ダケデナk、我ガ身マデモ!」
突撃するグリフォンと呆然と立ち尽くすエイリアンが衝突する。
グリフォンのくちばしがエイリアンの肩の肉をえぐり飛ばした。エイリアンは反撃を試みるが手を伸ばす前にすれ違う。
素早くターンしたグリフォンは速度を上げていく。
再び衝突、今度は胸の肉をえぐる。
「ガアアアア!」
獣のような叫び声をあげるエイリアンを、グリフォンはひたすらについばんでいく。
禿鷹が死肉をついばむように、グリフォンはエイリアンの全身を削り取る。
両者がぶつかるごとにエイリアンの肉がなくなっていく。肩、腿、肘、背中、脛……いま、さらに右眼がえぐられた。
戦闘機と比較してもひけをとらない速度と旋回能力で行われる攻撃は緩慢な処刑にみえた。体の部分ひとつひとつを丁寧に摘んでいく。死の感触をゆったりと味あわせるかのように。
「アアアアアア……!」
恐怖の叫びを上げた瞬間、グリフォンがエイリアンの首にかじりつく。のどを切断し骨を砕いた。肉を切り裂き、頭をちぎる。むき出しになった神経繊維が宇宙に漂った。
直後。グリフォンの尾から金色の輝きが噴き出した。それは参太が握っていた神剣だった。
グリフォンは宙返りするように回転すると周囲に漂うエイリアンのすべてを黄金の輝きでなぎ払い、溶かして消滅させていく。
この世界に存在を残してなるものか。そう言わんばかりに執拗に尾を振るった。
戦闘は終了する。
ワームホールを制御していた青色のエイリアンが消滅したことで、時空の歪みは縮小していくことになる。ワームホールは閉じようとしていた。
そこに、グリフォンが迫る。
グリフォンはひとつ鳴き声をあげると、ワームホールの前に躍り出た。
くちばしをそこに入れ、さらに翼を突っ込みワームホ-ルをこじ開けていく。物理的な干渉は受けないはずだが、グリフォンはワームホールの内部の空間を破壊することで無理矢理押し広げているようだった。
グリフォンがくちばしを抜くと、その先端には無防備なエイリアンが叫び声を上げながらワームホールから引き出されていく。
「嫌ダ、嫌ダ!」
エイリアンの世界とつながっているワームホールから、獲物を調達するといわんばかりに。
グリフォンは引っ張り出したエイリアンを翼で切り裂いて宇宙の藻屑にする。
直後、またくちばしを突っ込んでは抜き、新たなエイリアンを宇宙空間に連行する。
そしてまた翼で切り裂き、あるいは脚のクローで頭を潰して絶命させた。時には尾の神剣を使って、ありとあらゆる方法でエイリアンを一体一体引っ張り出しては殺していく。
もはや戦闘ではない。処刑でもない。虐殺だった。
目の前の悪夢を見て、管理人は絶望する。
霊体となった彼はいまや現実に干渉する力がない。
彼はただ願うことしかできなかった。
(神よ……彼を、救ってくれ)
グリフォンとなって、獣となって心の飢えを満たそうとしている彼の姿に管理人は両手を合わせてこいねがう。
そして悪夢を見ているのは管理人だけではなかった。
「いったい何が起こっているの、シャルちゃん」
モニターとなっているドレッサーの鏡からハルは思わず視線をそらした。
宇宙がエイリアンの死骸で満たされていく。十を超え、それでも終わらない虐殺。直視しつづければ嘔吐感が襲ってきそうだった。
「零華サンが敗北することはプランBとして想定してはいましたが……まさかここまでとは」
シャルロットも絶句するが、しかし計画に変更はない。
シャルロットは一度目を閉じて意識を落ち着かせると、その金色の眼で現実を捉える。
「作戦、最終段階に移項しまーす。準備をお願い、ハルちゃん」
「行くのね……あそこに」
「ええ。一緒なら怖くありませーん」
瞬間、シャルロットとハルは覚悟を決めた。




