高校生、幻獣となる
動かない体。折れている心。
正直、ずっとこうして何もせず漂っていたいと思えるほどに戦場は過酷だった。
だが。
目の前であのOL風女子が死んだ。
悲鳴も絶叫もない。むしろ彼女は潔かった。
ぴたりと操縦が止まった瞬間があった。そこで彼女はすべてを悟ったのだろう。
(俺だったら、見苦しく騒いだだろうに)
目の前の敗北を受け入れ、死さえも飲み込んだ彼女。
自分を救ってくれた彼女。
お礼も言わなかったのに、何度も救ってくれた彼女。
(ごめんさない)
今度も自分は何もできなかった。いまや力を手にしたはずなのに、その体さえ動いてくれなかった。
いったい何のために宿った力なのだろう。
「ああ。そうか」
参太は悟る。
この力は自分の為だけに宿った力なのだと。事実、それを自分も望んだ。
己の人生の絶望を切り裂く為に剣を望み、目の前の死を否定したいが為に体は鉄になった。人ならざる者に成り果てた。
「俺は、俺の為に……」
かつてその言葉は情熱を生んだ。心に力をくれた。
でもいまは、むなしさしか生まない。
「あああああああああ!」
心で何かが弾けた。弾け飛んで、叫びが出てきた。
一緒に悔しさが生まれた。
(どうして俺は、あの人を救えなかった)
一緒に愛しさが生まれた。いつも後から気づいてしまう。
(どうしてあの人は、死ななきゃならなかったんだ)
一緒に、憎しみが生まれた。無情にも彼女を抹殺したあの敵を、切り刻みたくて仕方ない。
「許さない、お前だけは」
静かに呟いた呪詛とどうじに参太の胸から一本のネジが出てきた。
にじんだ視界のなかで、それは彼女の部屋から盗み出したドアノブのネジだと気づく。真鍮の安っぽい金属光沢が輝いていた小さなネジだ。
しかしそれはどういうわけか、虹色の輝きを放っていた。
それに触れたいと思った。体は動かない。
だから参太は己の体をもう一度、“兵器化“した。
人ならざる者に成り果てながらもまだ人の形を保っていたその体を再構成する。
何もかもが溶かし尽くされて内包されたビックバンの炎にもまれる小さな星のように、参太の体は融解し、そして四本の足を備え、そこからかぎ爪が伸びた。口からは長い突起が伸びてくちばしとなる。背中からは永遠の宇宙を旅する翼がはためく。
たとえるなら幻獣グリフォンの姿がもっとも近い。参太は鋼の巨獣となった。
グリフォンは目の前のネジをその瞳に映すと、喰った。もうそれしかない、彼女がこの世界に存在したのだという証を、グリフォンはただついばんだ。
ひとつ雄叫びを鳴動させると、宇宙の闇と同化するかのように黒く染まったその全身をぶるりと震わせる。
次に青色の巨大エイリアンを睨むと、悠然と羽ばたいた。まるで同胞に会いに行くかのようなゆったりとした動作で、この世界から抹消すべき唯一の存在へと飛翔していく。




