高校生、奇跡をその眼に焼きつける
オレンジ色のエイリアンを切り裂いて、次に現れたのは紫色のエイリアンだった。
「くそ……いったい、いつまで!」
神剣を振るってエイリアンの血を払い、次の血を求めて斬りかかる。
オレンジ色のエイリアンは体を銃のように変化させることができたが、この紫色のエイリアンは両腕を自ら切り離して自在に宇宙を飛翔させることができる特殊なタイプだった。
自身も口から粘液を吐き出して攻撃してくる。それを避ければ横合いから右腕が飛んでくると同時に、下方からも左腕が迫ってくる。
四方八方からの攻撃だ。
「サア。御前ノ力、見セテミロ!」
エイリアンは豪語する。
一方参太は飛翔体となっている腕は無視することにする。参太の左腕がエイリアンの腕につかまれ、さらに右足を強烈な握力で捕らえられた。
(別にいい。いまの俺の体なら!)
全身を金属装甲で覆い尽くした、変身としか言いようのない参太の状態は、あらゆる攻撃を受け付けない強固な鎧を身につけているのと同じだ。
両腕が体にくっついたままの状態で、参太は神剣を思い切り振るった。
「ハッ!」
息を吐き出した直後、まさか腕による攻撃を避けずそのまま受けてくるとは思いもしなかった紫色のエイリアンは虚を突かれる形で参太の斬撃を受けることになった。
頭から切り裂かれたエイリアンはそのまま縦一閃に左右に分断されていく。
「アアアアア」
断末魔の叫びをあげてエイリアンの血が噴き出るが、光でできた神剣の刃の熱量がそれを赤黒く焦し、肉の破片さえ消滅させていく。
存在そのものを消滅させられたエイリアン。しかし同胞さえ使い捨ての駒のひとつに過ぎないと言わんばかりに……ワームホールの前に門番のように立つ青色のエイリアンは腕を前に伸ばした。
「さあ、次ダ!」
ワームホールが青色のエイリアンの腕の動きに応じて揺れ、そこから次の刺客――藍色のエイリアンが姿を現わした。
「これは……奴らも本気だな」
隣にいる霊体となった管理人が呆然と呟けば、参太も瞳の代わりについたスコープ越しにその威容をみつめた。
これまでのエイリアンは口の形こそワニのようだが、基本的には人型だった。身長も地球人とあまり大差はない。
しかしいまワームホールから現れたのは、エイリアンというより怪獣というにふさわしかった。
狭い巣からようやっと体を這わせて出現した宇宙怪獣は、さしずめ巨大な蛇だ。
細長い体をくねらせて進み、しかし側面についた無数の触手のような器官が常に蠢いている。まるで取り込む獲物を探して飢えている食虫植物のようでもあったし、生者を堕とそうとする亡者の腕のようにも見えた。。
体の先についた巨大な頭はやはりワニのように大きく裂けた顎をもっている。頭の形状だけを見れば、ほかのエイリアンを巨大化させたものとわかった。
「これも倒せってのかよ、俺に」
もう五体ものエイリアンを殺してきた。立派な戦士といえるだろう。もう高校生の肩書きは名乗れないかも知れない。
「これは魔獣タンブルだな。間違いない」
管理人は記憶をもとにその忌名を口にする。
「故郷で戦闘生物として作り出された、生体兵器のひとつだったはずだが……どうやらこれはその進化形のようだ」
「要は、あんたが知ってる奴より強くなってるかも、ってことか」
「そういうことだ」
管理人はよく通るハスキーボイスで断言する。
「んなこと言われても!」
参太は呆れたが、事態は急を要した。
魔獣はぎょろりと巨大な眼を動かして参太を捉えると、一瞬で距離をつめてきた。
巨体に似合わぬ俊敏な動きだ。
「また瞬間移動かよ!」
最初の緑のエイリアン――管理人もそうだったが、エイリアンは瞬間移動をあたり前のように繰り出してくる。物理法則を凌駕するその挙動に眼がなれるはずもなく、参太は常に後手に回ってきた。
今回もその例に漏れず、参太は目の前に突然現れた魔獣の尾をみた。
「これは!」
いきなりの攻撃である。避けられる道理はなく、何とか神剣の刀身を構えるので精一杯だった。
だが。
「こいつら、掴んでくる!」
悲鳴をあげた。ひたすら怖くてぞっとする。
尾による打撃を防御した参太だったが、尾の側面から胴体の真ん中あたりにかけてくっついている腕のような器官がのび、そこから人の手そのものの形をした器官が伸展、六本指のそれらは参太の腕や足を掴んでくる。
さきほどの紫のエイリアンの腕力もすさまじかったが、この魔獣の無数の腕は数の暴力だ。一瞬にして数え切れない腕につかまれた参太は、身も世もなく捕縛されるしかなかった。
魔獣は大蛇が獲物を捕らえるのと同じように、参太に全身を巻き付かせて離れない。
魔人に抱擁されるが如く、絶対的な力に支配された参太はまさに身動きひとつできなかった。
強大な力に参太の全身はビキ、ビキ、と少しずつ破壊されていく。己を鋼鉄に変えたことで生身の体では即死の攻撃にも耐えられるが、今回ばかりはどうしようもなかった。
「嫌だ嫌だ、嫌だあああああああ!」
怖くて悲鳴をあげた。
鉄になった自分の体が歪んでいくのがわかる。歪んでも歪んでも耐えきれない部分が折れていくのもわかった。
血は出ない。もうそんなものは捨て去った。それでも参太は口から紫色の高濃度エネルギー圧縮液を吐き出した。血の代わりに全身を流れる流体エネルギー付与物質である。
管理人はその様子を間近で見ていたが、霊体であるが故に何もできない。
「奇跡も、ここまでなのか」
管理人はただ悔しかった。全身を兵器に変えてもなお道具に落ちなかった参太が、絶対的な力の塊にいとも容易く握りつぶされようとしている。まるで人の奇跡が自然災害にあっけなく覆るかのように。
「地球文明よ。もしお前が神をもっているというのなら、いまこそ、応えるべきだ!」
叫ぶが、しかし何も起こりはしない。
世界はいつも沈黙している。動けない者どもを置き去りにして。
管理人が降り立った百年前の世界もそうだった。いや、エイリアンの故郷でも同じだった。奪う者と奪われる者とに分かれ、上から下に見捨てられる世界だ。
百年前も、どんな未来の時空でさえも。
世界は何の進歩もしない。
「まだ!」
凜とした声が、そのとき宇宙に響いた。
参太を取り巻いているとぐろの一部が切断され、鮮血が飛び出す。
ガアアア!
魔獣の悲鳴が轟き、尾を切断された痛みに暴れ狂った。
その間に参太は全身の力を振り絞って神剣を振るい魔獣に斬撃をくりだしつつ距離をとる。
そんな参太は、次の瞬間、全高十五メートルの巨大兵器をみた。
白銀の騎士の姿をした巨大兵器【TN-1 キラー】である。
「参太くん。私も一緒に、戦うわ!」
凜とした女性の声がまた響く。
「あの時の、女の人?」
参太はOL風の女性の顔を思い浮かべた。
武田零華である。
大蛇の体にワニの頭をもつ魔獣の前に、いま白銀の騎士の姿をした巨大ロボットが立ちはだかる。
参太はその姿をみて、呟いた。
「奇跡」
直後、参太は気を失った。




