高校生、変身しても飽き足らず
光の短刀は確かに参太の背中に当たった。
しかし参太が死ぬことはなかった。
死ぬどころか、傷つくことさえなかった。
短刀が参太の背中に命中し、弾かれる。
瞬時に装甲板に覆われた、その背中に。
「これは……」
セレムは首をかしげた。
いったい何が起こっているのかわからなかったからだ。
「変身、とでもいうのか」
ただひとつの可能性を口にして、直後、セレムは息を吐いて笑った。
「ぷはっ! そんな馬鹿なことが起こるとはな! 面白い能力だ」
それは無意識の起動に違いない。だが確かに参太はスキルを発現させていた。
そのスキル……“兵器化”は触れたものすべてを武器・兵器に変えてしまう能力、と、思われていた。
だから参太は余分な物がなにひとつないこの宇宙では、その能力は大して役に立たないと考えていた。万物を戦う道具に変えられても、余分なものがなければ何の意味もない。
だが。
(俺の体も、兵器になるのか)
思い至った可能性はそれしかなかった。瞬間、悪寒に襲われる。
(俺は、どうなった?)
背中に何か熱い物があたった、という感触はあった。そうして振り向いてみれば、さきほどまで敵が握っていたレーザーナイフが宙に浮かんでいた。それがさっき感じた熱い物なのかと理解したとき、参太は今一度自分の身に起きた変化を確認する。
背中が硬い。それどころか脇腹も鋼鉄と化しており、同時に胸も硬化しつつある。
まるでウイルスが感染しているかのように参太の全身は徐々に、しかし確実に鋼鉄にむしばまれていく。
「わあああああ!」
正直、怖い。
自分の体がひとりでに改造されていくようで。
しかし敵も眼を丸くしてそれを眺めていることから、それは己のスキルなのだと参太は理解する。
(人を、超える……?)
その意味を嫌でも理解させられた気がした。
「これが兵器化の意味か」
霊体となった管理人もまたその光景に怖気を感じていた。その能力は自分から彼に与えたものではあるが、与えた側であるにも関わらず、この事態は想定外だった。
己の肉体を兵器に変えるなど、そうした使い方をした者はいなかったからだ。兵器とはあくまで人間の道具のひとつに過ぎない。己を兵器にするということは、己の身を道具のひとつに堕とすということだ。自我さえ失いかねないその行為は、文字通り人間でなくなるという強大なリスクを抱えていた。
だが。
参太はその力を発現させてもなお、己の意志を保っている。恐怖の叫びを上げてはいるが、それは兵器化にともなう意志の消失に耐えているかのようだった。
(これは奇跡か)
管理人にはそうとしか思えない。本来自分の意志で動けない兵器にその身を堕としてもなお、己の意志を保っているのだから。
見れば参太は銀色の鎧を纏った戦士に変化していた。
背中だけを覆っていた装甲板は全身を包みこみ、頭部にはまるでユニコーンのような一本角が生えている。瞳はなく、代わりに光を読み取るスコープが埋め込まれていた。口と鼻と耳はそろって覆い尽くされて見えなくなり、もはや人の面の印象はない。
すべてが銀色に成り果て、人の形だけを保った兵器となった参太は、しかしいま一度強く、その神剣を握り込む。
「終わった、のか」
参太には意志の消失現象などわからなかった。だが自分が自分でなくなっていくような感じがして、怖かった。
体の全部が変化して、それが一段落したのは感じ取って。それを確かめるように呟いてみた。
(よし、しゃべれる)
それだけで確認は終わった。
視界はすでに肉眼で映るものではなかった。AR技術のように、コンピュータグラフィックの記号や文字列が現実の光景に上書きされている。ターゲットサイトや警告文が視界一面に表示されている様はゲームのようだ。
赤い十字架のようなターゲットサイトの中心に、黄色のエイリアンが肩をすくめて立っていた。
「やれやれ。まったく、面倒なことになった」
セレムは左足を前に出し、右足を引いた。腰を落として低く構え、いますぐにでも飛び出して行けそうな威容を全身に湛える。
「だが。この上ない成長だ……私の糧にするには、最上の!」
セレムはそこで初めて、すべての力を出した。お遊びは終わりだ。
さっきまでの動きとは比べものにならないほど速い。まるで弾丸のような速度で前進するセレムはさながら光の如く姿を消し、瞬間移動としか思えないほど超速で接近した。
爪は短く縮められ、近接戦闘に特化している。セレムは足下をすくうかのよう低く低く構えたまま。
足首に狙いを定めて攻撃をしかける。
両手の爪が一閃し、残像が光となって宇宙に刻まれた。
空気抵抗のない宇宙空間だからこそ可能となる動きだった。地球人では視認できず、気づかぬうちに殺されていただろう。
だが参太はもう、人ではなくなっていた。
セレムの爪は参太の足首に命中し、思い切り弾かれた。
「なに!」
鎧ごと切り裂くつもりだったセレムにとって、それは青天の霹靂だった。
参太にとっては、ごく当然の結果だったが。
「よし、思った通りの強度」
自分の体のことは、ある程度自分で把握できるものだ。今日の平熱が高いかどうかを判断するのと変わらない容易さで己の表皮の強度を確かめると、反撃の一撃を叩き込む。
セレムに容赦のないキックをお見舞いした。
鎧となったつま先にはサイの角のような突起がある。それを思い切りセレムの腹部に差し込んでいく。
キックと同時に繰り出される槍の一撃といっていい攻撃がセレムの腹部を一撃で貫いた。
短い角で腹をえぐられたセレムは口から盛大に血を吐いたが、直後、その背中に熱を感じた。
見れば、参太はすでに神剣を構えているどころかその光の刃を己の背中に突き刺しているではないか。
「馬鹿、な」
それがセレムの最期の言葉になる。
背中に突き刺した輝きは腹に達して貫通。絶命したセレムは、直後、神剣の大出力によって全身を融解させられた。
まさに微塵も残らず、その存在を末梢させられる。
「でハ、次だ!」
勝利の余韻などない。
青いエイリアンが再び手を前に伸ばせば、背後のワームホールからまた新たなエイリアンが飛び出してきた。
それはオレンジ色の体表をもつエイリアンだった。
「俺は、どこまで」
戦いは終わる気配がない。
ただ、負ける気はしなかった。
「やってやるよ。俺の為に。この現実を切り開いてやるよ!」
参太はすがるように神剣の柄を握り込み、新手のエイリアンに向かっていった。




