高校生VSエイリアン 七色勝負
青いエイリアンは交渉の条件に聖剣を要求してきた。
「聖剣アゾノフを返還するならバ、この時空世界へノ介入ハしない」
ワームホールは依然として展開されたまま、エイリアンは一方的に宣言する。
「返還ニ応じナイのなら、イマここで貴様ヲ殺し、この世界に軍勢を召喚スル」
そこで彼の言葉は止まった。
交渉とは名ばかりの一方的な要求だ。
(ええと……もう話は終わり、ってことか)
どうにも会話のテンポは理解できないが、エイリアンだから仕方がないのか。
「聖剣は確かにあったはずなんだけど。どこかに行ってしまって」
管理人の肉体と戦闘したとき、確かに聖剣を握っていた右腕を切り落とした。しかしそれ以降のことは参太も必死だったからよく覚えていない。
エイリアンを殺したかと思えばブラックホールが拡大し、それさえ切り裂いて生き残りはしたが。
(もしや聖剣、ブラックホールに呑まれたか)
シャルロットのぬいぐるみが実は持ち出していたことなど、参太には知るよしもなかった。
「ソウか。ならばコレかラ試練ヲ受けてもらウ」
青いエイリアンは左腕を上げ、そっと前に押し出した。六本ある指が参太の方を向く。
直後、彼の背後のワームホールからまた別のエイリアンが出てきた。
「ほう。あれは我が故郷の英雄……ゾルガだな」
参太の背後にいるエイリアンの霊体――管理人が言う。
「名前、ついてるんだ」
「ああ。我々は人間と違って、最初は名無しの状態で生まれる。成果を上げたとき、それに応じた名前をマスターからいただく仕組みになっていてな」
「マスタ-?」
「またいずれ説明しよう。いまは話している暇さえなさそうだからな」
ワームホールから出てきた赤色の表皮をもつエイリアン――英雄ゾルガはワニのように裂けた口から長い舌を這わせ、べろりと口の周りをなめた。舌なめずりなのだろう。
「ヤット戦エル! 相手ハアイツカ!」
「行くガいい、我らが英雄ヨ!」
「YEEEEAAAA!」
雄叫びを上げ、ゾルガが爆発的な加速で前進してくる。
「ゾルガは単細胞のパワータイプだ。私とは正反対だな」
「あんたもずいぶん、力で押してきたけどな!」
直後、参太は手にした宇宙剣――カイゼル・ソードを起動させる。
金色の輝きが柄からあふれ、それが刀身となってゾルガの牙を受け止める。
ゾルガは突進して大口をあけ、ひたすら牙を突き立ててきた。
「こいつの牙、切れないのかよ!」
「ゾルガの牙はけして砕けず、切断されない。原理は存在しない世界の法則だ」
「世界の法則、だと?」
「ああ。物理法則に介入するんだよ、奴は。滅茶苦茶だろう?」
「相手にしてる俺の身にもなれ!」
ゾルガの筋肉が蠢き、まるで自身はミサイルとなったと言わんばかりにひたすら突撃してくる。
人の形をしたイノシシといえばわかりやすい。
「喰われるわけには、いかないんだよ!」
カイゼル・ソードを押しこんでゾルガをはじき返すが、瞬時に追撃がくる。
巨像のように牙が持ち上がり、振り下ろされた。
「AAAAAAA!」
本能的に勝利を確信したゾルガが快哉をあげた。
避けられない。
かといって命中すれば死が待っている。
参太はしかし死のうとは思わなかった。生きたいとも思えないけれど。
カイゼル・ソードがそんな参太の思いに応えるように、柄に埋め込まれたジェット推進器を起動させる。
神剣がひとりでに動いた、そうにしか見えない無理矢理な挙動で金色の刃が持ち上がり、そのまま突きを見舞う。
ゾルガののど元に神剣が突き刺さり、頭と首とを切り離した。物理法則そのものにまで昇華され無敵を誇った牙だけが、いまはむなしく宇宙の闇に漂っていく。
赤い血の海が花のように広がり、まだ己の死を理解していないのかゾルガの肉体は隆々とした筋肉をひとりでに蠢かせていた。
「マズは、一人、か」
一部始終を見ていた青いエイリアンはもう一度、手を前に向ける。
ワームホールが波打つと、また新たなエイリアンが現れた。
「サア、試練の時だ!」
青いエイリアンは不敵な笑みを浮かべると、次の刺客――黄色のエイリアンがやってきた。
黄色のエイリアンはワームホールから出た直後、四肢を伸ばして叫ぶ。
「ひゃあっほおおおおおおう!」
まるで空気の抜けた風船のように宇宙を縦横無尽にかけめぐり、ふたたび青いエイリアンのもとに戻ってくる。
「こいつは侵略しがいのある世界だな、なあ!」
エイリアンの誰よりも流暢な言葉を放つそれは、管理人の記憶にも残っていた。
「あれは故郷の学者だな。たしかセレムといったか」
「学者? 猿の間違いじゃないのか」
「しゃべり方を聞け。ああ見えて、脳の働きは全宇宙の知的生命体の頂点に君臨する。お前の武器も一瞬で解析されるだろう」
「それは、まずいな……」
参太はため息を吐くと、
「それじゃ、いくぜ……ぃいいいいいいいやああああ!」
黄色のエイリアン――セレムはジグザグの軌道で移動してくる。時には後退さえ交えながら宇宙を動き回る。
その自由な動きは、しかしいつこちらに向かってくるのかわからない。まったく先の読めない、予測不能の挙動だった。
「さて。時に蛮族の代表よ。聞いて良いか」
動きながら声が響いてくる。
「お前はどうして、こんなところで戦っているのだ?」
「え?」
直後、セレムが向かってくる。両腕にはいつから展開していたのか、レーザーの短刀が握られていた。
短刀を両手にもったセレムは竜巻のように回転し襲いかかってきた。
「お前はみたところ、凡人だ。どうせこの世界の住人すべてに認められたわけでもなかろう。ではなぜ、ここで私と向かい合っているのだ?」
セレムの連撃が参太に襲いかかる。眼にも止まらぬ斬撃の連続に、参太は追いつけない。
神剣が勝手に動いてそれらすべてを防いでくれるが、限界はあった。
セレムは手加減しているのか、レーザーで切り裂けるはずの間合いで、あえて参太の腹にパンチをぶち込む。
「ぐっ!」
参太はふたたび全身に悪寒を感じた。
(強い……!)
勝てない、殺される。
死の恐怖が眼前に迫り、しかし敵は答えを求めていた。
「言え、その理由を。状況次第では私が交渉してやろう。お前はこの世界の代表者ではないのだから、試練は中止せよと」
「なんだと?」
腹の痛みをこらえながら、参太の心は動いた。恐怖に満ちた心が敵の言葉に向いてしまう。
「ここにいる理由なんて、ないんだよ。偶然、関わってしまって……偶然、こんな武器持たされて、戦わされてるんだよ!」
言った直後、参太は思った。
(じゃあ俺はいったい、誰のために戦ってるんだよ)
ハルのためではない。今回はシャルロットのためだった。しかし見捨てられてその気持ちも失せた。ではあのクマのぬいぐるみのためか? そうかも知れない。けれどクマのぬいぐるみにそれほど思い入れはなかった。
なら、何のためにこんなに必死に戦っているのだろう。いっそ、死んでしまった方が楽とも思えるこの状況で。
「いったはずだ、参太。貴様は、貴様自身を救いたくはないのか、と」
管理人の声が、己を救えといったあの声が、ふたたび参太の心に届いた。
陰と陽のように、二つの心が参太のなかでぶつかりあう。
瞬間理解する。認めてはいけないような気がしたけれど、事実そうなっている現状を。
「俺は、俺のためにここにいる!」
「ほう」
学者はそこで初めて、心の底から笑みをうかべた。




