高校生VSエイリアン
作戦第三段階:ぬいぐるみと共闘し、参太がエイリアンを引きつける。
「ひぃいいいい!」
参太は宇宙で盛大に悲鳴を上げていた。
「貴様など、擬態のままでいい」
管理人はエイリアンになることすらなかった。
肥大化したブラックホールと宇宙の星々とを背景にして、長髪の男と空き巣高校生がぶつかりあう……のだが。
管理人は右腕だけをぬめりのあるエイリアンの腕に変化させたが、全身を変身させることはしなかった。
しかしその右腕には光と物質の中間に位置する素材でできた未知の聖剣“聖剣アゾノフ”が握られていた。
光ゆえにあらゆる物質に透過し、物質ゆえにダメージも与えることができる。刃渡り一メートルほどの大剣だが、光としての性質があるからか軽量らしく、管理人はそれを軽々と振るっていた。
右に左に、上に下に斜めに、あらゆる方向から聖剣の白刃がきらめいた。
「危ねええ!」
参太は常に紙一重でよけ続ける。一瞬でも触れればどこまで体を切り刻まれるのかわからない以上、かすり傷ひとつ付けさせるわけにはいかなかった。
「ほう。器用に避ける」
管理人は余裕の笑みを浮かべるが、参太はその顔につばを吐いた。
「くそったれ!」
「発声するだけの余力はまだ、あるか」
ニヤ、と口元を歪めると管理人は突然、突きを織り交ぜた。音より速い刺撃が参太に迫る。
参太は反射的に避けられないと悟ったが、しかし刺されることはなかった。
突如、管理人の体が揺れ、狙いは参太の心臓から脇腹にそれた。参太は体をひねると間一髪で刃先を回避する。
「お前さん、防戦一方だな」
クマのぬいぐるみが管理人にタックルしたのだ。
「皇女の鍵か。しかし鍵を前線に出すということがどういうことか、わかっているのか」
管理人は呆れたように告げると、聖剣の狙いをぬいぐるみに向ける。
目にもとまらぬ剣さばきがぬいぐるみを襲うが、ぬいぐるみはアクロバティックに前後左右を転がるように動いてすべてを避けた直後、管理人の後ろに回って蹴りさえ見舞う。
布と綿でできた脚での一撃などダメージにもならないが、
「これが剣だったら俺の勝ちだったな、管理人」
ぬいぐるみは勝利宣言すると、管理人はそこではじめて鋭く眼をむいた。
「小癪な奴め」
管理人ははっと息を吐く。
「だがお前を切り刻めば、このブラックホールに呑まれた醜い宇宙は消える」
聖剣の刃先が伸びる。ガラス細工のようにみるみる細く長く引き延ばされた刀身が見えた瞬間、それが大きく振られた。
振られた衝撃でさらに巨大化したとでもいうようにその刀身がさらに長く、そして幅までもが拡張された。
剣というより扇だ。広範に引き延ばされた虹の巨扇がぬいぐるみと参太をまとめてなぎ払う。
「こんなん反則だろ!」
いいつつ、こればかりは避けられないと思った参太は内ポケットをまさぐりピッキング用の針金を取り出した。
「お前さん、さらばだ!」
ぬいぐるみは我先に颯爽と上昇して逃げ、体の小ささを生かして攻撃範囲から逃れる。
「お前、仲間じゃねえのかよ!」
参太は口ではそういいながら、とりあえずぬいぐるみが逃れられて良かったと思う。
「あとは俺か!」
己を鼓舞するように叫ぶと、参太は宿った力を解放した。
兵器化……それはあらゆる物質を戦の道具に変換する。
「変われ! 光さえ、跳ね返すんだ!」
針金にそう命じると、参太の手のなかでそれはぶるりと震えた。まるで生き物のようにのたうちまわった直後、大蛇のように大きな鞭が参太の手に握られていた。
針金の面影はすでにない。銀色に輝き、雷を思わせるスパークを発光させる鞭だ。
「よぅし!」
快哉をあげるや鞭を思い切り振り下ろす。同時に鞭の発光現象が爆発的に増大、あたり一面を侵食する雷撃の波を発生させた。
「う゛ぁあああああ」
ぬいぐるみの悲鳴が聞こえるがそんなものは無視だ。
宇宙空間の真ん中で、巨大化した虹の扇と雷の鞭とがぶつかりあう。
双方の威力が干渉しあい、扇と鞭の衝突点を中心として衝撃波が発生した。宇宙空間に空気はないため衝撃波が広がることはないが、しかし大量の太陽風のような放射線が拡散される。それを正面から浴びた両者は思わず体を揺らすが、しかし次の攻撃を繰り出してもいた。
「兵器化か。数あるスキルのなかでも、失敗作なのだがな」
管理人は聖剣をもとの形に戻すと踏み込み、瞬時に間合いに入ってくる。
参太は長い鞭を手元に引き寄せ短く持つと、振ることで雷撃波を発生。
振り下ろされた聖剣をはじき返す。
光の刀身をもつ以上、物質で受け止めることができない。ほかの武器を生み出す暇も与えてくれそうにない現状、参太は鞭で応戦するしかなかった。
だが……。
「そのクマが言うように、防戦一方のようだな。参太くん!」
管理人は剣さばきを披露するとでもいうように参太に連撃を浴びせる。まるでどこまで受けきれるか試してやる、と言わんばかりに速度を徐々にあげていた。
「く!」
鞭を引き寄せては振って雷撃をわき起こす。振られた鞭がしなるのをまた引き寄せ、間合いに合せて振る。それを繰り返す参太だったが、ピッチを上げてくる連撃に対して徐々に間に合わなくなる。
最初は攻めるつもりで振っていた鞭が、いまは完全に敵の斬撃の後に振られるようになっていた。
「っざけるな」
参太は聖剣の刃が脇腹をかすめそうになった刹那、鞭を捨ててしゃがみこむように体を小さくまとめる。頭上を聖剣が通り過ぎた。
「ほう」
管理人は感心のため息ともとれる小声をはき出すと、直後に繰り出された参太のキックを左腕でうけとめた。
「これも、攻撃か」
参太は己の靴をダイナマイトに変えていた。瞬時に露わになった靴下には場違いのような赤い爆弾本体が取り付けられており、管理人の左腕にくっついた。
「油断したな!」
参太はにやりと笑うと、ダイナマイトを蹴って慣性移動、宇宙を渡る。
距離をとりつつ敵にダイナマイトを渡す。一石二鳥の戦術的挙動だった。
直後、参太の蹴りに反応したダイナマイトが起爆。盛大な爆発が宇宙に花咲いた。
「やったか」
参太の希望とともに爆発の花が管理人の体を覆い尽くした。
「いや……」
しかしぬいぐるみはガラス製のつぶらな瞳を細め、冷徹な現実を見る。
「やばいぞ、これは」
ぬいぐるみの視線の先には、いくつものワームホールが小さく生み出され爆発を残らず吸い込んだ光景があった。時空の盾である。
全方位に張り巡らされたワームホールの盾の中央に位置するのは、全身を緑色に発色させたエイリアン――管理人の真の姿だった。
「光栄に思え、貴様。いや、参太くん!」
管理人からエイリアンに変わった刹那、エイリアンは視界から消えていた。
「くるぞ、参太!」
「へ?」
ぬいぐるみは叫んだが参太の反応は鈍かった。
直後、消えたはずのエイリアンが参太の背後にいた。
テレポートだ。
「ワタシに斬らレ、ヒトのクビきから解放さレル、ソノ栄誉ヲ!」
ワニの口が大きく開けられ、参太を捕食せんとばかりに迫る。
振り向いた参太には悲鳴をあげる余裕さえなく、ただその瞳にエイリアンの牙だけが大きく映った。




