高校生、目覚めても
メゾン☆アストロVS空き巣高校生 11話
参太は突然発現した超能力に愕然とする。
「なんだ、これ」
零華を救いたいと思って、流れてきた岩石を投げた瞬間。
岩石からロケットブースターが出現、ジェット推進で一気に前進するや音速を超えて宇宙を疾走。敵の破壊光線から零華を護った。
一五分前にさかのぼる。
零華が乗るロボットとエイリアンとが戦闘している間、参太は放置されていた。
両者の姿も目で追い切れず、ただの光の線にしか見えなかった。
そのはずだった。
だが戦闘開始から五分ほどが経ったとき、参太はだんだんと時間がゆっくりになっているかのような錯覚に襲われた。
目で追いきれなかったはずのロボットとエイリアンの姿が、見えるようになった。そればかりか両者の動きさえはっきりとその視界に捉えることができた。
宇宙を漂流する小さな岩石が参太の目の前に流れてきたのは、そんなときだ。
宇宙の塵が凝集したのだろう、手のひらに収まりそうな小さな岩石だった。
「これは、まずいんじゃないか」
そのとき参太はハルが突然テレポートして出現し、なんとあのエイリアンの加勢をしてしまったのを見た。
それまで拮抗していた戦いが、いきなり二対一になったことでロボット側……零華が苦しくなる。参太にもそれくらいはわかった。
しかし見えるだけで何もできないこともわかっていた。
力がない。力を得る方法もわからない。そもそも力など一朝一夕で得られるようなものでもない。そんなものがあれば、空き巣などやってないのだから。
「くそ!」
見殺し。
瞬間、参太は記憶のなかの景色を脳裏に再生させた。好きで再生させたわけではなかった。ずっと思い出したくなかった挫折の記憶だった。
友だちが周囲の生徒に罵られ、蹴られ、殴られ……助けを求める視線をこちらに向けてきた記憶だった。
あのとき。あの視線から目を反らし、見て見ぬふりをした。あのときもこう思ったものだ、力がない、と。いじめっ子たちを撃退するだけの力がなかった。身体能力的にも、弁論技術的にも。
「なにも変わってないんだな。俺は」
ふと呟いてみて、参太は遠い宇宙でロボットが撃墜される瞬間を見た。
エイリアンが破壊光線を放つべく片腕を伸ばし標準をつけている。あとはハルの接近から逃れたコースを狙い撃ちするだけ――そこまでわかっているのに、何もできない。
「くそ!」
呪いを込めて宇宙に声を放つ。無力な己に向けて放った怨嗟の声だった。
「俺には、どうして何もできないんだ!」
『救ってやりたい』
参太の呪詛は、そんな言葉になって参太の脳に返ってきた。
(?)
脳に直接響いてくるような不思議な声だった。それはあのエイリアンの声とそっくりだったが、しかしあのエイリアンよりも明瞭な日本語を話してくる。
『私もだ。君と私は、一緒だな』
声がまた響いた、直後。
参太は己の体に力を感じた。いったいそれが何の力なのか。どういったときに用いるべきものなのか、いっさいわからなかった。
それは自信と言い換えてもよかった。漠然とただ(何とかできるんじゃないか)と思わせてくれる、それでいて何の根拠も思い当たらない空虚な自信だけが参太の胸に宿った。
それだけで充分だ。
参太は反射的に目の前に浮かぶ岩石を放り投げていた。
放り投げた瞬間、参太は己の能力を知覚する。
“兵器化”。
触れた物質を武器に変換する。
参太が触れた岩石は、岩石にロケットエンジンをとりつけただけの簡素な武器“隕石爆弾”に変化した。
誰かを傷つけるためではなく、誰かを救うためにそれは放たれる。
エイリアンの破壊光線が隕石爆弾に命中したのを見た参太は、ロボット――あのOL風の女性を救うことができたのを見ると、ガッツポーズを決めた。
「能力に目覚めたのなら、もう一般人じゃないってことでしょ」
一方、コクピットの零華は呟きながら現状を受け入れると、つづくエイリアンの聖剣をひらりとかわし、さらにテレポートしてくるハルの体から距離をとる。
「また私は、阻止できなかった、か」
零華はため息をつくと、瞬時に宇宙から脱出した。
キラーはワープ機能を使って異世界へ消える。
もう戦う意味はなかった。
あのエイリアンは、覚醒した者を殺すことはないからだ。
ロボットがいなくなったことで参太を護る者はなくなった。
だが、エイリアンは満足した笑みを浮かべ参太をみた。
「ワタシの力を受け継ぎシ者よ。祝福シヨウ」
そうしてエイリアンもまた姿を消した。
「待ってくださいよ、管理人さん!」
ハルもエイリアンの後を追うように宇宙から消える。
参太はひとりぼっちになって、しばらく宇宙を眺めていた。
(とんでもない力、手にしたんだな)
手のひらを見つめて、握りしめた。
参太の覚醒は、住民たちにとっては新たな敵の出現にほかならない。
だが参太は、メゾン・アストロに住もうとは思っていなかった。
「帰ろうか」
呟くと、参太は知りもしないはずの知識が頭のなかに入っていることに気づく。
メゾン・アストロにおける宇宙空間の造り方と、脱出の仕方がそれだった。
知らないはずの知識をつかって参太は宇宙から脱出し元の世界に戻る。
突然、管理人室に戻ってきた。宇宙から帰還した参太の感覚はその一言で説明できる。
空間が反転したわけではなかった。ただ目をまばたきしている間に渡ってしまっていた。そんな感覚だった。
メゾン・アストロとはもう関わりたくはないが、また管理人が学校に来るかも知れない。そうでなくても彼の配下の背広集団が家に押しかけてくるかも知れない。
「はあっ」
参太は盛大にため息を吐き出した。
「何を失望する? 君はもう人類を超越した存在だ」
エイリアンから長髪の男の姿に戻った管理人が目の前にいる。彼の腕にはハルが嬉々とした笑みを浮かべてしがみついていて、その様子は父と娘か援助交際の相手か、といったところだ。
「俺はもう元には戻れないのかも知れない」
「戻る? なぜ前に進めるのに戻ろうとするのだ。その力があるというのに」
「今日はもう、帰る」
色々ありすぎた。家を襲われ、管理人に呼び出された上、もう少しでエイリアンの操り人形になるところでもあった。
端的にいって死ぬところだったが、助けられた。しかし助けてくれたあのOL風女子はいなかった。
「君にはもう、帰る場所はないだろう」
管理人が告げる。
一方ハルはそんなことはどうでもいいからあたしと話そうよと言わんばかりに目をきらきらさせたりウキウキした表情を浮かべている。参太のことなど心底どうでもいいのだろう。
参太は管理人の言葉もハルの態度も無視した。
(居場所はもうないってことくらい、もうわかってんだよ!)
あれだけの騒ぎになった以上、もう家には戻れない。
学校にも連絡がいっているに違いなく、参太の日常はいまこの瞬間、完膚なきまでに破壊されたといっていい。
ドアノブを握って押す。管理人室から一歩出ればいつもの世界が広がっていると願って。外に出た。
黒髪ショートの女子がいた。今日もOL風にスーツを着こなしている。
「ありがとう」
そんな声が聞こえたかと思えば、参太がドアを閉めた瞬間、ビンタが飛んできた。
「いってええ!」
参太は思わずOL風女子を睨むが、しかし彼女の顔を見て目を背けた。
泣いていた。両目が赤く腫れている。それでいて、顔は微笑を湛えていた。
「貴方はもう、私たちと同じになってしまった。貴方がここと関わり過ぎたからよ。馬鹿!」
彼女はそうして踵を返してツカツカと去って行った。
なぜ殴られたのか、そしてなぜ泣いていたのか。参太には一切わからなかった。
わからなかったけれど、それがすべて自分のためにしてくれたことなのだということは、なんとなくわかった。
(なんで俺のために、そんなにしてくれるんだよ)
殴られた頬を抑えて、参太は帰り道を歩き出す。
(どこへ行こうか)
行く当てのない道を参太は歩きはじめた。




