七色の宇宙剣と敗北高校生の巨大船
七色の輝きが疾走する。
「く!」
漆黒の宇宙剣――ジオ・スラッシュで受け止めた。
「ここで君を、殺す」
管理人の怜悧な声がささやいた。
「俺は、あんたを!」
乗り越える。
負けじと声を張り上げた参太は、もう一方の手に握った緑の宇宙剣――ブレイブ・リープで反撃に出る。
新緑の輝きを放つ刃が振り下ろされた。
即座に刃を持ち上げた管理人は防御姿勢をとるが、つづけて参太はジオ・スラッシュでたたみかけた。
二本の宇宙剣による連撃。司と透の連携を再現するその動きに、管理人はたったの一撃で立ち向かう。
横一線、虹の刃が空間を疾走した。一文字に走る虹の軌跡が二本の宇宙剣を一度に弾き飛ばす。
「クソッたれ!」
叫び、参太はそれでも衝撃に震える両手が軋むのも構わず双剣を叩き込む。両手を同時に前に押しだし、突きの姿勢をとった。
「無駄だ」
いとも容易く虹は双剣を遮った。下から上に払いあげ、参太の突きを無力化する。
またも剣をはね上げられた参太は両手が持ち上がり、胴ががら空きになってしまうのを自覚した。
目の前では管理人がすでに聖剣をかまえている。参太は防御しようにも、一度持ち上がっている両手を下ろさなければならない。下ろしているその間に攻撃されれば間違いなく死ぬ。
「終わりにしようか」
絶対的な言葉が響き、聖剣が横なぎに振られた。
防御を失った胴体に伸びる虹の刃が無機質な輝きを放っている。
やってやる、もう逃げない。
そんな言葉や、決意や覚悟といった上辺の精神論をどれだけ高らかに叫んでも、熟練の技量の前には容易く蹴散らされてしまう。
実力に裏打ちされた行動の前には、論理や言葉は虚飾に過ぎない。崇高な理想が暴虐な行為に簡単に踏みにじられるのと同じだ。この現実を動かすのは常に実力であり、行動だ。
何を念じ、何を考え、どう思ったか。すべて無意味。行動と結果だけがすべてを支配する、そんな世界。
はね上げられた宇宙剣と、鈍い痛みを感じて軋む腕とともにそんな厳然とした現実の理を見せつけられた参太は、しかし友の声をきく。頭に響いた、彼女の声を。
『参太くん、スキルを!』
司だった。
「わかった!」
たとえ実力がなくとも。力がないこと、何もできないこと。無力なことが理由で、己の人生が誰かに踏みにじられることなど、あってたまるか。
そんな意志がまるで鼓動のように参太の心を駆け巡ると、瞬間、司が声を放った。あわせて参太も声を重ねる。
管理人から与えられた、この現実を打ち破る権能――スキルを発現させるために。
『どこまでも無慈悲なこの世界を、変えたい』
「……俺は、その世界で生きたい」
『「世界、改変!」』
宇宙空間でしか発現しない、外の現実を変えるには至らない力。井の中のかわずと指をさされて笑われても反論できないが、いま目の前の事態を突破する方法にはなる。
司のスキルである“世界改変”を発現させた宇宙剣――ジオ・スラッシュは漆黒の刃から純白の輝きを放つ。
「消失させたはずだが……消えない、か」
管理人は首をかしげたが、しかし司のスキルは確かに“消失”していた。スキルを失った状態の司を兵器にしてもそれは変わらないはずだった。
『あなたが与えたという事実が消えない限り、スキルはまた蘇る』
応えたのは老婆の声だった。
『スキルは力であり、救済の証です。それは肉体に刻まれて、離れない。肉体が滅びない限り……あなたが与えてくれたのは、そんな力です』
「我ながら、素晴らしいことをしてやったものだ」
管理人はいっそ笑って吹き飛ばし、変わらず刃を振るう。
「どのみち変わらない。ここで君を、斬ってしまえば!」
刃を止めることなく、管理人はその腕を振り抜いた。虹の軌跡が扇のように残像を残し、参太の腹を打ち据える。
そのまま、世界が逆再生された。
管理人はまた刃を振るう直前からやり直しだ。
「ハ!」
もう一度、管理人は刃を振るうが、時間を得た参太はすでにジオ・スラッシュを構えている。
虹の刃をジオ・スラッシュで受け止め、再びブレイブ・リープで反撃した。
緑の刃が管理人に迫る。
「何度繰り返したところで同じ事だ」
言葉の通り、それはまるで最初の動きの繰り返しにすぎない。
ブレイブ・リープはやはり聖剣に払われ、参太の攻撃は無に帰する。
しかし。
参太の両手には二本の、そして背中には五本の宇宙剣がある。総勢七つのスキルをすべて使えば、まだ勝てる可能性はある。
「一度やり直すだけで、充分」
やり直しはきかない。その現実の法則を“世界改変”で打ち破った参太は、一度両の剣を盾にしまい込むと、すぐに回心の宇宙剣、ナハーム・メイスと天啓の剣、カイゼル・ブレードを取り出した。
管理人の反撃をカイゼル・ブレードで払いつつ、スキル“天啓”を発現する。
「全知全能を、把握する!」
叫び、そしていま一度世界にあふれた情報のすべてを脳に叩き込む。
そして参太は確かにみた。このままでは管理人に殺される未来と、しかし管理人に勝利することができた未来とを。
すでに死の未来が定まっていることなどどうでもいい。
『そう! 問題はそれを如何にして回避するか、デース!』
シャルロットの声が響き、参太も自らの心を奮い立たせるとカイゼル・ブレードを戻してワープ・ダガーを取り出した。
同時、ナハーム・メイスで管理人の聖剣を受け止める。
「すべて無駄だ。どれだけ抗おうと、私の技量の前には成す術はない」
刃を受け止めてもなお、聖剣はじりじりとこちらに迫ってくる。管理人の力に負けているのだ。ナハーム・メイスが押され、灰の刃ごしに虹の輝きが強まっている。
このままではナハーム・メイスごと聖剣に叩ききられるだろう。
だからこそ。
「無駄なことなんて!」
参太はすでに見えている未来を認めつつ、なおもワープ・ダガーの柄に力を込めた。
『ここで負けたら、癪だね』
「ああ」
ハルの声が頭に響いて、スキル“テレポート”が発現する。
刃を押していた管理人は参太が突如としていなくなったことで前につんのめったが、それも一瞬。背後に現れた参太の灰の刃をすぐさま振り返って防御する。
「背後にテレポートするなど、初歩的すぎるよ」
一言。
直後、今度は管理人の肉体が消滅した。
「テレポートか!」
「そうだ。そして、こう使う」
まるで教え諭すかのようなゆったりとした声。
瞬間、管理人は参太の足下に現れる。
「!」
真下に現れることを予測していなかった参太は、虹の刃の一撃を避けることができなかった。宇宙空間での戦闘に熟練した、管理人ならではの不意打ちだ。
ようやく気づいて下を見てみれば、視界いっぱいに広がる虹の輝き。それは途方もなく美しかったが、触れれば死ぬ。
為す術もなかった。何も成せないまま。
参太は、しかしそれでも手を振るう。
「まだ、俺は」
虹の刃がこちらに届くのが先か、手を振り下ろすのが先か。
わからなかった。けれど振るうしかなかった。それが参太に残されたただひとつの選択肢だったから。
はたして、参太の剣が振り下ろされるより先に聖剣の刃先が参太を捉えた。
「クソ……!」
「終わりだな、残念だよ。本当に」
管理人は確かに手応えを感じる。対象物を切り裂いたときの、明瞭な刃の震えを知覚した。
死んだ。
そう思ったときだった。
参太は見る、目の前に巨大な生命体が出現したのを。
いや、それが生命体だということさえ、参太には最初、わからなかった。ただ目の前に表面が微細に蠢き続けている不気味な灰色の壁が現れたのだった。
それが何かの表皮なのではないかと疑問したとき、参太は過去にも同じものをみたと思い出す。
確か、エイリアンシップだったか。
「何だ、これ」
見上げてもなお見渡しきれない巨大なその構造物の影にすっぽり入ってしまう状況はいまだに整理がつかないが、確実に言えることがある。
「まだ、生きてる……!」
敗北してもなお、まだ生きている。
また挑める。参太は両手を握りしめた。
そんな参太の意志に応じるように目の前の蠢く壁が展開、大きな穴があく。
「中に、入れって?」
そう察した参太は、ごくりと生唾を飲み込むとエイリアンシップに潜入した。
他方、反対側の壁面では管理人が同じように船の中に入り込んでいた。
二人はやがて、その中枢で再会することになる。




