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あの娘のために俺は、ヤンデレ攻略しています  作者: やんきゃん
プロローグ
4/4

00-04 二人の先生



部室に戻った俺はすぐ撮った写真をまとめ終え、部活の活動も一段落したので帰ろうと鞄を持ち椅子から立ち上がった。


「じゃあバイト行かなきゃだから先帰るね。また来週よろしく」


苗ちゃんに声をかけるとあの、と呼び止められる。


「そういえば今日はバイトって言ってましたね……」


苗ちゃんは机に両肘をつき頬をふくらませて呟いた。

毎回写真を撮り終えた後は、こっそり自宅から持ち出しそのまま部室においている瞬間湯沸し器を使い、紅茶とお菓子を食べて過ごす。

バイトがない日は夕方になるまでだらだらと部室で過ごしたり、ずっと外で写真を撮ったり、清一の活動を見に行ったりなど自由に過ごしているが、今日はそうはいかない。

苗ちゃんはカバンから、デコレーションされた可愛らしいカップケーキが二つ入った透明な袋を取り出し、1つを手に取ると袋ごと残りのカップケーキを渡してくれる。

彼女はお菓子作りが趣味らしくたまにクッキーやケーキ等を作ってきてくれる。



「美味しそうだね、ありがとう。苗ちゃんのお菓子スッゴク美味しいから食べるの楽しみだ。有り難くいただきます!」


「いえいえ、今日のは自信作なんですよ。味わって食べて下さい!」


苗ちゃんはカップケーキをほうばりながらとっても嬉しそうに笑っていた。

優しい後輩を持ち俺は幸せ者だと内心思いながら部室をあとにする。

本当はまだ部室にいても全然バイトに間に合う。

俺は自転車で登校しているし、この時間帯は下校している生徒は少ないためスピードもだせる。

ただ、鉢合わせしたら面倒な人と会ってしまっても大丈夫なように早めにでた。あの女教師に捕まったら愚痴を散々言われて時間をとられてしまう。

何事にも余裕は大事。起こりうる可能性を考えて行動するべきだ。

だからといって貴重な時間は出来るだけ無駄にしたくない。

しかし、階段を下りていると若い長身の女教師と目が合ってしまった。

(なんで急ぐ日に限ってこの人に会うのかな)

もしかしたら今朝の出来事で運を全て使い尽くしてしまったのか。

苦し紛れにすぐ視線を反らしその場から立ち去ろうとするが


「ちょっとまって」


やっぱり呼び止められてしまった。

彼女、楠瀬 八栄子は去年入ってきた数学教師で吹奏楽部の副顧問をしている。

黒髪をバレッタでまとめ、服装はスーツをきっちり着こみ鋭い目付きで俺を睨んでいた。


「貴方、そのカップケーキはどうしたの?」


(はい、やっぱり絡んできました)

どうやら俺の持っているカップケーキが気になるらしい。受け取ってすぐカバンに入れなかった事を後悔した。

この先生はかなり美人だがとっても厳しいと生徒の中で有名で、特に素行の悪い生徒には辛辣だ。そして何故か俺にも冷たい。悪いこと何一つしていない人畜無害な一般生徒なのに……

多分この見た目で決めつけているんだろうが偏見にも程がある。彼女に対して何かしたわけでもないのに不良だと決めつけられては溜まったものではない。

会うたび小言を言われるため正直苦手な先生である。


「……いやぁ、後輩から貰ったものです。それが何か?」


「後輩からねぇ。部活の活動中に飲食しているの?あまり好ましくないわね。貴方の部活は写真部でしょ?まさかまともに活動もせず過ごしているんじゃ……」


たかがカップケーキ一つで部の活動事態を疑われるとは思ってもいなかった俺は呆気にとられていた。部活動中お菓子を食べる生徒は普通にいる。きっと通りがかった先生が楠瀬でなく別の先生なら無言で通りすぎていただけだろう。

ただ、俺に文句が言いたいだけなんだ。


「いやいやいやいや、まっさかそんなわけないじゃないですか先生!このお菓子よく見てください一口も食べてないでしょ。それに俺ら写真部はしっかり活動しておりますとも」


笑いながら少しずつ楠瀬から離れる。

出来るだけ自然に違和感なく立ち去れるように。


「気になるのなら陸上部の顧問の脇田先生に聞いてみてください。今週の学校新聞に記載する写真を撮っていたので。では俺は用があるので失礼しま……」


最後はもう走り出す勢いで逃げた。

これ以上この先生に捕まっている時間はない。しかし、立ち去ることは出来なかった。楠瀬が俺の襟元を掴んでいたからだ。


「何逃げようとしているの?他にも何かあるんじゃないの?」


「何もないです!急いでいるので手を離してください。」


「いいえ、離しません。何に対して急いでいるか教えなさい」


この高校は基本バイトを禁止してはいない。きちんと担任に報告しているし問題はないけれど、相手は楠瀬だ。

どこで働いているか、何故働かないといけないか等質問攻めをされかねない。

この人が担任や顧問じゃなくて本当に良かったと思う。


「あれ?楠瀬先生どうしたの?あれあれ?真鍋くんも」


「……!」


突然救世主がやってきた。

俺ら写真部顧問、原井 奈々子先生だ。

原井先生は料理研究部も顧問をしているため、部活動中いない時の方が多いが時々様子を見に来てくれる。

毎日スーツを着ている楠瀬と違い、ラフな格好を好み、今日も白地の長いワンピースを着ていた。

肩まで伸びた薄黄色の巻き毛をふわふわと揺らしながらどこか楽しげに聞いてきた。


「特に何もないですよ。ただ楠瀬先生と世間話をしていただけですから、でもすみません大切な用事があるのでそろそろ帰らないと……楠瀬先生、原井先生それではさようなら。」


話ながらカップケーキを鞄にしまい、楠瀬の手をほどこうともがくも離れない。


「だから、何帰ろうとしているの?その用事を口に出すまでは帰しません」


「いやいや、別に何もやましいことはないですよ。ただの個人的な理由ですからだから手を離し……」


「その個人的な理由を訪ねているんですよ。やましい事がないなら答えられるでしょう。」



意地でも離してくれないようだ。

原井先生に気をとられ一瞬手を緩めていたがすぐ話を戻されてしまった。

(あぁ、これは遅刻確定かな)

内心諦めかけていると


「楠瀬先生、その手に持っているのは楽譜じゃないですか?それがないと生徒達が困ると思うんですが」


「それはそうですが……」


「真鍋君の用事は私が聞いておくので、楠瀬先生は吹奏楽部の子達に早く楽譜を渡してあげないと」


ね、と優しく微笑む原井先生に渋々といった感じで楠瀬は階段を上がっていった。


「ありがとうございます。原井先生」



「いいのよ真鍋くん。それより急いでるんだよね、楠瀬先生にはあとから私が上手いこと言っておくから。」



原井先生は生徒想いでとても優しい先生だ。少し抜けてて天然な所はあるが多くの生徒に慕われている。


原井先生と別れて、急いで自転車置き場に行った。携帯で時間を確認してみると部室から出た時間より結構たっている。


(明日原井先生に会えたらもう一度お礼を言おう)


自転車のペダルに足をかけ、バイト先へと向かった。


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