00-02 最低な再会
「お前一年に告白したらしいな」
噂と言うものは早いもので、一日もたたずに流れていた。しかももれなく尾ひれまでついている。
昼休み、昼食の自作弁当をほうばっていたら親友の後藤 晴一が呆れたように話してきた。ツンツン黒髪ヘヤーの晴一は無自覚鈍感イケメンである。顔良しスタイル良しで結構モテル筈なのに本人はそういうことには無頓着な所がある。
中1からの仲だが、少し残念で愛嬌のある面白い奴だ。
「告白はしてないよ。昔仲良くしていた子。向こうは忘れてるけどねー。」
6年も想い続けていた女の子とはさすがに言えず、簡単に説明すると晴一は可哀想な人を見るような目で見つめてきた。
「そっか、なんか残念だな。」
残念、俺自身そうは思わない。
会えるかどうかもわからなかった彼女に会うことが出来たんだから。幸運とさえ言えるだろう。上手くできた卵焼きをほうばりながらそう思った。
「心配してくれるなんて晴ちゃんは優しいなぁ。」
「うるせぇ。……でもさ、本人の言うとおりに別人かも知れないぜ。」
「それはないよ」
彼女は鈴音に間違いない。
本人が忘れていようと、俺と会っていないと言われてもそこだけは断言できた。
何年たったとしても俺は彼女を見間違うことはない、絶対に。
「あっ!晴一君またパン食べてる。せっかくまたお弁当作ってきたのに」
突然後ろから同じクラスの早橋 智香が話しかけてきた。晴一とは幼なじみで学校の日はほぼ毎日お弁当を作って渡している。薄ピンク色の長髪にパッチリ二重のレモンの瞳。雑誌にのっているようなバツグンなスタイルと、おっとりとした雰囲気で多くの男子から好意を寄せられている。しかし彼女自身明らかに晴一に気があると周りから見てまる分かりのため、想いを伝えず失恋する人がほとんど。
一方晴一はというと全くと言って良いほど早橋の気持ちに気づいていない。
彼女とも中学からの仲でよく遊んでいて二人の事はよく知っているからこそお似合いだと想うんだけど、そうそう上手くはいかない。
「ん?智香。腹減ったからな悪いもらうわ。」
「もぉ。はいどうぞ。」
頬を膨らましながらもその表情は笑みを浮かべている。その微笑ましい状態を羨ましそうに他男子生徒は見つめていた。
「あー、やっと渡せたみたいね。今朝渡し忘れたって慌ててたから安心したよ。」
遅れて登場してきたのは早橋の親友、比島 美佳。少し茶色の混じった色素の薄い黒髪ショートヘアーの少女。少しつり上がった薄茶色の瞳と左眉毛横の小さなほくろが印象的だ。早橋も人気だが、親しみやすく明るい性格の比島も男女問わず好意を寄せられている。
彼女とも同じ中学で付き合いは長い友人だ。
「つかさぁ真鍋ぇ。あんた下級生の子を口説いてたって噂で聞いたんだけど」
さっきまで早橋に優しく話しかけていた比島がからかうような口ぶりで話しかけてきた。内容は清一と似ているが告白から口説くに変わっている。これだから噂というのは信用できない。
「やだなぁ比島さん。俺がそんな男に見えるの?」
ヘラヘラとちゃかして返す。それが気にくわなかったのか眉間を寄せ少しずつ俺に近づいてくる。
「見た感じはそうだよね。真鍋って見た目はチャラチャラしてるように見えるし。その話しかけられた子、変な先輩にナンパされたって思ったかもよ。」
何て事だ!!
そう言われたら確かにそうだ。
俺は今まで初対面で会った人によく軽そうな男と思われる。母親譲りの少し天パの入った焦げ茶色の髪と目。視力があまりよろしくないのでかけている眼鏡のフレームは、四角く細めの濃い緑色。服装もきっちり校則通りに着こなしている清一と違い着くずしているため、チャラいと思われても仕方ないのかもしれない。
ということは俺は鈴音との大切な再会を最悪なものにしてしまったのでは。
鈴音からしたら初めてあった軽そうな先輩に急に前会ったとか何とか話しかけられ名前を言い当てられたんだ。怖いにきまっている。
鈴音に会えた喜びで嬉しさのあまり見落としていた。自分の容姿と軽薄な行動。これじゃあ仲良くなるなんて無理なのでは……。
「あ、えっと真鍋?大丈夫?」
急に落ち込み出した俺に焦ったのか比島は心配そうに声をかけてきた。
「いや、うん。大丈夫だよ。ただ自分自身に腹をたててるだけ」
これはもう無理かもしれない。
久しぶりにあえて喜びもつかの間。俺はどん底におとされていた。