**last
走った。夢中で走った。
もう何も考えなかった。
だってあたしの人生はあの手紙を見つけたときに変わってしまったんだから。
だからもう、何があったっていい。
「う……っ、……っ」
涙が出た。
何が悲しいのか、それともうれしいのか、よく分からない。
届くはずがないと思っていた。
けれど心のどこかで届くと思っていたのかもしれない。
だから書いたのかもしれない。
届いてしまった、あたしのラブレター。
あなたがすきだと書いた。でも怖いと思った。
今考えるとあたしはいろいろな気持ちを持っていた。
会いたい。あなたに会いたい。
あたしは、人生を変える。
「は、……っあ、……っ」
空き地には、いた。
彼が。あのひとが。
「久しぶり」
涙で滲んだセカイ。
彼の顔がよく見えない。
「よく逃げないで来たな。よしよし」
彼の手があたしの頭に触れた。
昔もこんなことがあった。
空き地の石につまづいて転んだあたし。
痛かったけど、普段泣いていないあたしは、どうすればいいか分からなかった。
彼はそんなあたしの頭を撫でてくれた。
「な、んで……っ、しって、る、……っ、の?」
呼吸が整っていなくてうまく話せない。
それでも彼は分かってくれると思った。
「お前はほんと周り見ないからな」
顔は見えなかった。
でも彼は笑っていた。なんとなく、分かった。
「学校同じだろ? 気づけよ、ばか」
「う、そ……」
言われるまで気づかなかった。
彼が同じ学校なことも、あたしが周りをまったく見ていなかったことも。
同級生の名前は一応覚えていたし、同じクラスじゃなくても名前を知っている人は何人かいたから。
「まあ、年は俺のほうがふたつ上だからな。気づかないか」
やっと呼吸も整ってきて、涙も止まってきた。
今度こそ顔を見てやろうと思ったけど、彼は身長が高くて見上げないと顔が見えなかった。
「ごめんな。何にもしてやれなくて」
首を横に振った。思いっきり振った。
彼はあたしにいろんなことを教えてくれた。
こうやって泣いているのも、きっと彼のおかげだから。
「じゃあ、笑えよ。そのほうが可愛いだろ」
顔が熱くなった。
そんなことを言われたのは初めてだった。
笑った。絶対、笑えた。
「俺の名前、覚えてるか?」
「ない、っ!」
思わず即答してしまった。
彼はずっとあたしを探してくれていた。
あたしはそれに目を向けていなかった。
だから知りたかった。彼のことを、たくさん。
「お前なあ。俺の名前は───」
呆れながらも答えてくれた。
彼の名前。
あたしはきっと一生忘れたりしない。
そして、このあともう一枚ラブレターを書いたのは、
きっと一生彼には秘密なんだろう。
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おつきあいありがとうございました!
これで終了となります。
もとは短編にする予定でしたが、少し長くなってしまったので連載という形で書かせていただきました。
読み返すと表現がまだまだ足りないな、というところがたくさんあります。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
本当にありがとうございました。