**02
昔、一度だけ遊んでくれたひとがいた。
それはとても小さいころだったから、そのひとの顔や名前はもう覚えていない。
だけどあの場所は覚えていた。
そのひとが教えてくれた場所。
でもそれから一度も会ったことがないから、そのひとが今どこにいるのかも分からない。
それからはひとりでいっていた。
そして、いつのまにかあたしだけの場所になっていた。
学校を出て、歩き出す。
少し歩くと細い道がある。
でもその道は誰もが好まない場所だった。
捨てられたままのゴミ。
それをカラスが荒らした跡。
奥のほうは木が生い茂り闇が広がっている。
そして走り出す。その闇に向かって。
でも闇は本当は少しだけ。誰も知らない。
少し走ればまたヒカリ。
そしてその奥には空き地。何もない、ただの空き地。
それがあたしだけの場所。
きれいでもなんでもない、あたしの場所。
「はぁ……、つい、た、っ……」
思わず笑みがこぼれる。
あたしだけの場所。あたしだけの時間。
何もせず、ただのんびりするだけ。
それが昔からだいすきだった。
けれど見つけてしまった。
そんな地味な、けれどもだいすきな人生が変わってしまうもの。
「……? なに、あれ……?」
この場所には毎日来ていた。
だからあるはずがない。
でも目の前にはあった。
空き地のど真ん中に置かれたもの。
それは小さくて、白くて、四角くて。
「手紙……?」
近くまで寄って見てみると、それは便箋だった。
かなり小さくなるまで折られていた。
心臓の音がはやくなった。
あたしの人生にこんなことあるはずがなかった。
地味で静かで、無愛想。それだけだった。
震える指で丁寧に開いていく。
心臓の音はどんどんはやくなっていく。
すべて開いたとき、少し雑な字が見えた。
男のひとが書いたらしい。
「こ、れ……」
あたしは夢中で走った。
いつもは帰りたくない家に、今日は走って向かう。
帰ってすぐに部屋に向かう。あたしの場所に。
机に向かって取り出したのは、シャープペンシルとメモ帳。
手紙なんて書いたことがないあたしが便箋なんて持っているはずがなかった。
それでも書きたかった。返事が。あの手紙へ。
夢中で書いた。時間を忘れた。
言葉を考えるのが難しかった。
それでも書いた。無我夢中だった。
届かないとは思った。だけどそれでもよかった。
それくらい、あたしには衝撃だった。
人生が、変わるくらい。