エインズワース一族の会合
「今年もみんなよく集まってくれた。みんな、元気そうで嬉しいよ。それにしてもミラルディ、大きくなったね」
サネルヴァお祖母様が私を見て、微笑む。
皺だらけなのにその顔が美しく思えるのはきっと、内面の美しさが滲み出ているからだわ。
雪のように真っ白な髪は緩やかにパーマをかけたショートヘア。
お祖母様は品があって、お洒落をしぬいてきた人なんだと思う。
奥様は魔女、に出てきそうなサイケなワンピースをお召しなんだけど。
いつもお祖母様はまるで50年代から抜け出してきたようなファッションなの。それがさらりと着こなせちゃうからすごいわよね。
「ミラルディももう、十四歳。エインズワース一族の女として正しく生きねばならないよ」
お祖母様の隣のでっぷりとふくよかなインガ大おば様が私を見る。
この巨漢の大おばさまはついに結婚せず、独身を貫いたままなの。選びすぎて婚期を逃した、なんて言ってるけど。本当はおば様に魅力が無かっただけなんじゃないかしら。
「ミラルディ、聞いてるの? 返事は?」
ね? 性格が少し意地悪なのよ、おば様は。
「ええ、肝に銘じてるわよ、おば様」
私は表面上はにこやかに答える。
毎年毎年、物心ついた時からエインズワース家の歴史を叩き込まれりゃ、ウンザリするほど覚えちゃうってのよ。
私は心の中でため息をついた。
今日は年に一度のエインズワース家会合の日。
毎年、この時期になると本家のサネルヴァお祖母様のお家に一族女たちが総出で集まるのよ。
会合のための奥広間は絨毯ばりの大きなお部屋で昔話のお城の食卓のような長いテーブルが置いてある。サネルヴァお祖母様を奥に年齢順に女たちが座るの。もちろん、この私が末席。
結構、みんなが揃うと圧巻よ。
百年前に作られた大きな古時計を背にしたサネルヴァお祖母様が口を開いた。
「じゃあ今日は魔女狩りの話を少ししようか」
私は首をすくめた。
私たちエインズワース一族が根絶寸前まで追いやられた原因である中世の魔女狩り。
私たち一族って、利用されるか忌み嫌われるかのどちらかなのよね。本当に不憫な家系に生まれちゃったと思うわよ。
財産目当てに火あぶりにされちゃった気の毒な先祖のお話を聞きながら、私はこのマスカダイン島の歴史も少し思い出していた。
マスカダイン島もバイオレンスな過去を持ってるのよね。マスカダイン教の異端者とか、犯罪者なんてのはよく火刑にされたらしいの。裁判もろくにせずにね。
私自身も私のパパも無宗教なんだけど、側から見てても宗教ってなんだか面倒臭いもんだと思うわ。
マスカダイン島民はマスカダイン教徒が大多数を占める。
クラスメイトのポリアンナ級長や麗しのラスカル様も敬虔なマスカダイン教徒なんだけど、みんなが持ってる信仰心ってのが私にはいまいちわかんない。
うーん、私がもし入信するなら仏教が良いわね。ヨシュアは日系人だから仏教徒なんだけど。仏教はお肉も魚も食べることが出来るもの。ヨシュアのゆるさを見てると縛られてるような感じもしないしね。
「じゃあ、みんな手を繋いで」
あ。
サネルヴァお祖母様の声に私はあわてて隣のおばさま達と手を繋いだ。
「ひとつ。私たちはみだりに男に身体を許してはならない」
ふう、合唱が始まったわ。
私も皆と口を合わせてエインズワース一族の戒律を告げる。
これが終わってやっと会合が終了するのよね。
「ふたつ。私たちは邪心を持った男、心の病める男と関係を持ってはならない」
「みっつ。私たちは偉大なる統率力を持つ男に惹かれてはならない、身を許してはならない」
「よっつ。私たちは私たちの身体を奪おうとする者から必死で身体を守らねばならない」
「最後に」
サネルヴァお祖母様が私たちを見回して告げた。私たちはお互いの手を握る手に力を込める。
「男をあげる血筋に生まれたのは私たちのせいではない。世界の汚点の歴史は私たちが悪いわけではない」
私、いつもこの瞬間に思うの。
私たちにとって、恋をすることはまるで罪悪みたいなのねって。




