伍糸ルート
私たち四人は単独行動で、縁日をまわることにした。
「あ、すみません」
「いや、こっちこそ」
誰かと肩がぶつかるが、縁日だししかたない。
「あれが……か―――――」
―――――
合流してすぐ、双子と同じ大学の友人、伍糸さんが現れた。
「せっかくだし、お前もこいよ」
厭紀さんが誘う。
「参ったな……一人で行動しなければ彼女候補もよりつかない。
だが、一人でいてもよりつかないしな……
だがやはりお前たちとまわるわけには……」
―――なんとなくだが、彼は一緒にいきたそうにしているような気がする。
「あーめんどくさー。静華ちゃん……」
“一緒にきませんか?”と言って、と乃穢さんに耳打ちされる。
「あの、よかったら皆とまわりませんか?」
「そうだな、いつまでも一人は寂しいからな。ありがとう」
なんだかんだで彼も含めて五人一緒にまわることになった。
そういえば、彼とはどこかで会ったような気がするんだけど、まあ気のせいだろう。
―――――
次の日の午前、村を散歩していた途中、ヒトガミ様が気になり寄った神社から帰る途中、意識を失いかけた私。
――――伍糸さんが浮かんだ。
「……」
会ったばかりの人なのに、どうして彼の顔が浮かんだんだろう。
まあ、会ったばかりといえば双子もだから。
「ああ……気がついたか?」
「……豈透さん!?」
なぜ彼がここにいるんだろう。
「君が倒れたとあいつらから聞いてな」
伍糸さんの言う“あいつら”とは双子のことだろう。
もしかしたら私のことをここに運んできて、それから伍糸さんに連絡したとか。
―――だけど私が倒れたからってなぜ伍糸さんにそのことをいったんだろう?
「そういや神社の階段下あたりで倒れたらしいが、もしや転げ落ちたのか?」
「いえ、丁度階段は降りてましたから」
「ならよかった……しかし、あの神社には行かないほうがいいぞ」
「え?」
どうしてそんなことを言うんだろ。
「良い噂を聞かないからな……」
やっぱり、あの神社には何かあるんだ。
私はさらに、あの神社を調べてみたくなった。
◆
―――寝る時間になった。
明日はまたあの神社に行こう。
そう考えていると、手が真から熱をなくし、ひんやりした。
夏だというのに、そしてあの珠が入ったほうだけ。
―――今、神社にいくの?
珠に導かれ、あの神社へ入る。
―――誰かがくる。叫ぼうとしたら――――
「……オレだ」
伍糸さんだった。
「どうしてここに?」
「志望している仕事柄、こういうイワクに触れる機会が多くてな、趣味で調べているんだ」
ようするにオカルトマニアか。
「志望……なにをやりたいんですか?」
「陰陽師」
「え?」
オンミョウジって、悪霊退散のあれだよね?
「冗談はさておき、霊媒師の類いにはなりたいな」
「はあ」
◆
「ここがこうなって……いや、違うな」
―――どうしてこんなことになっているんだろう?
珠に導かれるがまま、神社へ行き、伍糸さんと遭遇。それからすぐ帰ろうとしたけれど。
手が勝手に動いたから、昼間には来られなかったこの神社へ来られた。
ここから帰るには、なんだか暗いし、あまり通ったことがない感じがして怖い。
伍糸さんは探索を続けている。
「あの、人神様伝説についてはご存じだったりしますか?」
「ああ……たしか、この神社には祟りの女神様がまつられて、数年毎にイケニエを捧げる。
だっただろうか、イケニエは田舎じゃ珍しくない印象なのだが。
見目麗しい男限定なのが変わった拘りだとは思う」
そういう話はイケニエは100から千年単位ごとに捧げるのを聞く。
数年という点にひっかかったが気にすべきじゃないか。
「……私、あんがい霊感あるっぽいんです」
人神様のことは伏せて、勘という感じで偶然を装って、彼のいる離れに一緒に行ってもらおう。
「……よくそういうなんちゃってが、大学の合コンにいるな」
「あ、なんかやばそうな離れがありますよ」
「ふむ……」
誘導成功。それとなく彼の安否を確認できたらいいな。
「……なにか、いるな?」
やっぱりわかるんだ。彼には素質があるのかもしれない。
「うかつに近寄ると、不味いな……今日はもう帰ることにする。」
彼が要るならいいや。
「じゃあ、また」
伍糸さんは家の前まで送ってくれた。
「ありがとうございました」
(そういえばなぜこんな時間に神社へ来たのか聞いていなかったな……)
――まあ、明日でいいか。
◆
昼に神社へ行く最中、伍糸さんに会った。
「昨日聞きたかったんですけど、どうして豈透さんは陰陽師になりたいんですか?」
「昔、妖の類いに襲われてな。そのとき救ってくれたのが陰陽師だった」
―――すごいベタだ。ていうかなんで妖が!?
「オレには妹がいるんだが、悪妖を弾くなんらかの力を持っていてな。
その反動で、そういうやつの近くにいるとオレは妖に近寄られてしまう体質らしい」
「……なるほど、助けられたときに知った感じなんですね?」
「察しがいいな。……オレはその陰陽師を真似て眼鏡、黒髪に染めて雰囲気を維持しているんだ」
――子供の頃に受けた影響はしかたないか。ましてや命を救われたんだものね。
「なんとその陰陽師が丁度村に来ているようで、妹と知り合いになったんだ」
「え!?」
―――世界って狭いなあ。
「だがどうやら陰陽師を辞めて、小説家になっていたそうなんだ」
「そうなんですか……」
「なんであれ、救われた事実は変わらないが。
悪人にはなっていなくてよかった」
―――――
「そうだ……いまから神社へいかないか?」
「はい」
二人で昨日いった神社へ行くが――――
「あれ?」
「……どうした?」
―――なにかがおかしい。ここは夜に来た神社ではないような気がする。
―――昼は階段をのぼるが、夜はのぼっていない。あれ――――?
だけど夏祭りの神社では階段があった気がする。どうなってるんだろう。
「そういえばオレはあと一週間ほど滞在するが、そっちはいつまでいられるんだ?」
「あ、私もそれくらいです。実はここに来るのは数年ぶりなので、なるべく長くいて~って祖母が……」
「へえ。なら神社探索も結構できるな」
「そうですね」
一人より二人のほうが心強いし。
―――人の気配はない。ここは探索しても大丈夫な気がする。私にはわからないけれど、手に埋められた珠がそうつげている。
伍糸さんはこういうのに詳しそうなので珠のことを彼に話して、どういうものか聞いてみたほうがいいかな―――
「あの……」
私はこの前倉で起きた不思議なことを、彼に打ち明けた。
「……その話、オレの他に知っている者はいるか?」
「いえ、いないです」
「なるほど……ならオレも秘密を話しておくのが筋というやつだな」
伍糸さんは真剣な眼差しで私を見る。一体なにを隠していたというのだろう。
「まず最初にオレがここの隣にある御神盛<みかみさかり>村来た理由は家族との里帰りだ。
そしてオレが村の外を探索していたとき―――」
やっぱり探索はしてたんだ。
「妹の知り合いを名乗る男がやってきて、黄昏紫村の存在を知った。色々と話を聞いて一瞬で興味を持ってしまったんだ」
どんな話を聞いたんだろう。彼はメモを開いて、読み始める。
◆
――――はるか昔、同じ日に生まれた帝の子、それは三つ子であった。一人は時代の帝、残りの二人は姿を隠される。
帝は犠牲となった二人の存在に心を病み自ら命を立った。そうして数刻、帝の念は悪しきものへ変わりゆく。
陰陽師は黄昏を使いて帝の魂を鎮めうる。紫幻は怒り、悪神を宿し、陰陽師と戦う。
そうして一刀の中へ紫を封じた。
◆
なんだかすごい話を聞いて、1000年前に村にかかわることがあったということしか理解できない。
「悟糸さんが調査にきた経緯って、女神伝説とは関係ないんですね」
「……ああ、女神のことは双子伝説を調べる過程で知ったからな」
黄昏君や夢幻の紫に女神はなにか関係があるのだろうか――――
ここで悶々と考えてもしかたない。一度家に帰り、紙に情報をまとめよう。
「あの、情報を整理したいので今日は一旦帰っていいですか?」
「ああ、オレは暫く調査していくよ。またな」
◆
まずは村、神社、女神、三人、陰陽師、悪い神と書いて―――
村と神社と女神を線で結んで……
帝と黄昏君と夢幻紫に線を引いて、紫と悪い神を結ぶ。
もしかしたら村に伝わる生け贄の儀式って、黄昏の君が由来しているのかな。
女神は村の神社を守護していたんだと考えて間違いないよね。
だけど陰陽師と紫が戦って、その後はどうなったんだろう。
―――そうだ。伍糸さんに意見を聞いてみようかな。
今もいるかわからないけど、神社に行ってみよう。
「静華か?」
私が神社に着くと、声をかけられた。
「はい、まだいたんですね」
「丁度今、帰ろうとしていたんだが……どうかしたのか?」
書いた紙を見せてみる。
「一言で言うならアイディアの海に溺れている?」
よく見てみるとぐちゃりとしていて、書いていたときは盛り上がっていたのに、冷静になると自分にもわけがわからない。
「まあ、まったく役にたたないわけじゃない。この紙を元に他の神社もまわるか?」
彼は地図をとりだした。ここを右か左に神社があるみたいだ。
「どっちにいきますか?」
「オレはどちらでもいいが」
私は――――