青年:クレハ エンド
「あれ?」
私は目を覚ますと見知らぬ山小屋にいた。
「気が付いた?」
私を助けた男性は薄茶の長い髪をひとつに纏めている。
なぜだろうこの人に見覚えがあるような気がする。
ふと浮かび上がる長い髪の、それは恐らく人神様と言われていた男性。
「通りがかりに倒れていたから小屋まで運んでしまったけど」
「すみません重かったですよね」
細身であんまり力無さそうなのに、よく運べたものだと驚いてしまう。
「これでも半サバイバル生活は長いからお嬢さん一人くらいは余裕だよ」
「あの、私そろそろ失礼し……」
帰ろうと思ったら、外はもう夜だった。
「村に近くても夜の山は危険だから、泊まって行くといい」
でも知らない人と山小屋で二人きりは良くないと思う。
かといって村まで送ってなんて頼み辛い。
「すいません、私がもう少し早く起きていれば……」
「まあまあ、そんなに謝らないでよ。後悔なんてしてもしょうがないからさ」
済んだことは気にせず前を見よう。なんてポジティブな人だなあ。
「普段からあまり後悔しないタイプなんですか?」
「まあね、人生で一番最悪だった日と比べれば、ちょっとしたミスも大したことなく感じるだろう?」
例えばバスに乗り遅れて一時間ロスした事に比べたら、寝坊で5分遅刻するのはマシって事かな。
「田舎だからニュースしかないね」
私達はテレビを観ながら話す。
ニュースでは隣町で起きた事件の犯人がこの村に近づいているらしい。
犯人の目撃情報は今のところないそうだ。
「こわいですね」
「そういえば君はこの村に来たの初めて?」
ニュースのせいで疑心暗鬼になる。ましてやこの村ということが、一層恐ろしい。
「もしかして事件の犯人とか疑ってますか?」
「いや、なんかついノリで」
「えっと……私は寡李部静華です。夏休みに家族と祖父母の家にきています。神社の帰りにあの場所で気を失ってました」
「じゃあ……俺は九狐クレハ。実家が地主だけど親とモメてここで暮らしてるんだ」
互いに自己紹介をして、これといって疑う点はない。
「それにしても村で事件とか、タイムリーですね」
「確かにミステリー感があるね」
これが刑事モノなら小屋まで犯人が来るんじゃないかと苦笑いしている。
「寝る時には俺の手を拘束していいよ」
彼がその隣町の犯人ならはいくらでも機会があったし、そんなことを自分から提案するくらいだ。
「……隣の花華町であった事件ってなんなんでしょう」
私は勝手にコロシ前提で話していた。
ニュースは途中からみたのでよくわかっていない。
「なんだコンビニで万引きか……昔はよく花華町に行ってたけど町並みも変わってる」
こういう場面をみると都会育ちの自分でも田舎と町の差がなんとなく理解できる。
「ふわ……でもこの村は10年前と変わらないですね」
あくびが出てまぶたがじわりと濡れた。
「そろそろ寝る?」
「私いつも早寝早起き生活だったので……」
彼は若いっていいね。と笑った。
「九狐さんも若いじゃないですか」
「そうかな……ああ、名字で呼ばれるのは嫌だから、できればクレハって呼んでほしい」
クレハさんは後頭部を撫でながら照れている。
なんかオッサンぽい仕草だなと思いつつ、何歳なんだろうと考えた。
「ああ、テーブルに縛っていいよ」
「いやいや……さすがにそれはまずいですって」
取り合えず寝袋に入る彼の右手をテーブルの足に結んで鍵のかかる部屋に入る。
「ふぁ……」
早く寝ようとベッドをめくる。窓の外で何か明かりが光った気がした。
「こ、怖い……」
もしかしたら今のは逃走中の犯人かもしれない。
「クレハさん……起きてますか?」
「どうかした?」
彼はリビングの電気を着けた。私がさっきの事を話すと怪訝そうにする。
「外の人間がからここに来るなんて随分と土地勘がある奴じゃないかな」
「そうなんですか?」
私は運ばれて来ただけで森の中にあるハウスなんて目立つだろう。
「花華町からこの森に来るには村の入り口ド真ん中にしか通路がなくて、村には隠密的に警備が昼夜問わずたくさんいるんだ」
つまりニュースの悪人が村へ入ったらすぐに捕まる。
逆に考えれば悪人があえて見逃された可能性が?
――どこからか足音が聞こえ、ガタガタという音がする。
「君は後ろに」
「は、はい」
クレハさんの背に隠れ、彼はフライパンを手にしてドアを開ける。
「うわっ!?」
「え?」
現れたのはどこかで会った少年だ。
「あ、金魚すくいのときに会った……」
「あーあのときの!」
つまりさっきみた光は彼――ああ、よかった。
「ミノキ、こんな時間にどうしたんだい?」
「なんか親父から珍しく話があって、今すぐ伯父さんとこいけって」
なんでこの時間に、明日じゃダメなのかな?
「あと謎の女の様子を見て来いってさ」
謎の女って私のことだとは思うけど――いるってわかってるなら何故ミノキ君は驚いたの?
「ああ、彼女を運ぶところを見られていたのか」
「いや、その子についてはなにも言われなかったけどさ」
―――私でないならクレハさんの彼女かなにかかな?
「謎の女?」
「一週間前の連続殺人犯似だってよ。まさかニュース見てないのか?」
「久々にニュースをみたらたまたま万引き犯が村に逃げたとかいう話でね」
――あれ、村には警備がいるのにニュースでは万引き犯が既に入った事になってる?
そして連続殺人犯も村の警備に目撃されているみたいだ。
「それが二人にはグル説があってさ、なんで警備が村に侵入させたか不思議なんだよ」
「……犯人は村の出なのかもしれないな」
やはり村の地主は理由があって匿っている!?
「テレビ着けたほうがいいですか?」
「音を着けたら侵入者に気づかないからやめておこう」
クレハさんの言葉に納得する。今は一応朝になるまでは気を抜けない。
「そういえばミノキ君、何か光るもの持ってない?」
「光るもの?」
ミノキ君はポッケを漁るがなにもない。
「連絡も済んだしそろそろオレは帰るけど気を付けてな」
「あ、まって、ミノキ君一人で帰って大丈夫なの?」
――いまミノキ君がここを出たら犯人と遭遇する可能性がある。
家の中ほうが外より幾分かマシだろう。
「というか彼女が光る何かを見た後にミノキが来たんだろう?」
「それってまさか……」
――ガシャアアアン、とすぐ隣の部屋で窓が割れる音。
キシィという誰かがゆっくり歩いて床板が鳴る。
「みィつけたァ」
「ひっ!」
パーカーで顔を隠した黒髪の同年代の少女がナイフを向けている。
「あれ、ニュースの女じゃないぜ!?」
ミノキ君がチャンネルをあちこち付けてニュースを見る。
「とにかく逃げよう……」
クレハさんはあろうことか女にテーブルを蹴り飛ばして女が入ってきた場に逃走誘導した。
「どうして出口じゃないんですか?」
「犯人は二人組って可能性があったからね」
たしかに中で追い詰められて、もう一人は出てくるのを待ち伏せしてい可能性があった。
「クレハさん妙に場慣れしてませんか?」
危険な状況で慌てもしないし、窓が割られてナイフ女が現れても動じていない。
「今日とは状況が違うけど昔から女の子ににナイフを向けられる事はあったよ」
「あ、アンタを殺して私も死ぬみたいな?」
ミノキ君の言う台詞で確かに彼はモテそうだから、きっとそんな感じじゃないかと思った。
「そうなんだよまさか自分がドラマのような目に会うなんて……」
というかニュース見てたらその犯人がタイムリーに襲ってくるというのもドラマっぽい。
「いっ」
急に石のついたほうの手が痛みだす。
しかしさっきヤバい人の登場を予期してくれなかったし、危険を知らせているわけではないのだろう。
「うわっ……」
人が来ると電気がつくセンサーが作動して道が明るくなった。
「こんなところに祠なんかあったんだなあ。まあ森に入っても叔父さん家行くくらいだしな」
ミノキ君は急に明るくなったので反射した目を押さえながらブツブツと言う。
「ああ、何年も前に埋まっていたのを一族がほんの一年前に掘って改装しなおしたんだよ」
「心霊ミステリードラマだと祠が壊れているとかはヤバいことの前触れですよね」
さっきの痛みと祠は関係あるのか、気分的に寒気がしてくる。
「明るくてもこんなとこで止まってたらさっきの奴に捕まる」
気づいたときには後ろに―――
「みつけた」
少女はフードを被り更にさっきは無かったマスクをしている。
「カバナの女神、みーつけた……」
少女の言うカバナの女神とは祭りのそれ、もしかすると花華町と繋がっている?
「女神……」
クレハさんが目を閉じて何かを考えている。
「タイムリミットは今夜、殺さなきゃ出られない」
「くそっおまえ何がしたいのか知らねえけど顔見せろ!」
相手が刃物を持っていても構わずミノキ君は突進した。
「う……」
「え……?」
少女のフードが落ち、マスクを剥ぎ取ったミノキ君の動きが止まった。
「どうして君が……」
「ミノカ――――!」
この反応と名前からして彼女はミノキ君の身内?
■
詳しく事情を聞くことになった。
彼女はミノキ君の妹であり、九狐当主から前代の女神候補の血を引くものを探して始末するように命令されていた。
「ああ、道理で逃走中の犯人が村に入れたわけだ」
「いえ、正確には私の多に花華町で騒ぎを起こしているものがいるだけです」
ミノカはニュースの人物ではないという。
確かに彼女は私より下で、女性というにはまだ若い風貌。
「で、なんでシズカを殺そうとした。命令だけならあんなに取り乱さないだろ?」
ミノキ君は冷静のようだが、むしろ怒りを通り越して困惑という感じだ。
「先代の女神に選ばれなかった叔父さんは解放されないから」
祭りの内容に女神役と贄役が結婚しなければ贄役は村から出られなくなるらしい。
「そんな時代錯誤なこと……」
「ひどい」
私達の言葉にミノカは首を降る。
「人が決めたことと思っているようですが違います」
「なら出てもいいってことなの?」
ミノカはこくりとうなずく。
「この村には美男が多いのですが、贄役に選ばれるのは事更に美しい男で、何故その条件なのかはわかっていますか?」
「神様は美しいのが好きというのは聞きます」
生け贄は大体美女だし、なら女神様には美男が普通だろう。
「女神様の加護なのです。以前に榊家から将来の贄候補が選ばれ、村を出ました。そのせいである女性が祟られて今も精神を患っています」
――そんな話をどこかで聞いたような?
「それで、なんで贄役は出られないんだよ」
「贄役に選ばれたものは村の外では生命維持ができないのです」
村の神社にある木の赤い樹液、贄役は当日にそれを飲む。
しかしそれは一度口にすれば二月を目安に接種しなければ死ぬという。
そして日の光が当たると衰弱する体質に変わるそうだ。
女神と結婚すれば何故か日の光も浴びられ、樹液も不要になり村を出ても良くなるらしい。
「……!」
急にクレハさんが膝をついた。
「そろそろだと思っていた……」
「ミノウ兄!」
ミノウという人はクレハさんに赤い液体を注射した。
「これでわかっただろう先代女神役の娘」
「あの、インスリン注射みたいなのが必要なのはわかりましたが……私が死ねば解決するって物理的に変じゃないですか?」
兄妹は面を喰らったような顔をする。
「しかし女神役が贄と結婚しなかった前例がないので、縁を絶つにはそれしかない」
――彼等の言い分では私の母が前代の女神役で結婚する筈のクレハさんではなく父と結ばれて私が生まれた。
「そんな事を言われても……」
「俺を心配してそう言ってくれているのは嬉しい。死が怖くないわけではないけど、彼女を殺す事は違う」
クレハさんの言葉にミノウ、ミノカ兄妹は顔を見合わせうなずく。
「ではやはり先代の女神役の遺骨を神社へ奉納しましょう」
「え!?」
私の母はピンピンしているのに、その言い方ではまるで――
「どうしたんですか?」
「先代の女神役は私の母なんですよね?」
「あ……しまった」
――ミノカは口を押さえる。私達は祖父母の家に向かった。
「お邪魔しているわ」
「ご当主!?」
まるで王をたぶらかす狐のように妖艶な女性が扇子を降る。
「皆、もう大体知ってるみたいね」
「ねえ……私はお母さんの娘じゃないの!?」
「――二十歳になったら話すつもりでいたのよ」
そうだ。と言われなかったが、ドラマにありがちな一言で理解できた。
「全然気がつかなかった」
「騙すつもりはまったくなかったの」
とんでもなく重たい場面なのに、いつものように動じない笑顔。
目の前の人が実の母ではないことを悟ったことがない。
まるで夢でもみているかと錯覚しそうになる。
「九狐さん、静華は生存してここへ来た。賭けは私の勝ちですね」
「ふふ……相変わらず強かな人だわ」
この二人は私の命を賭けてゲームをしていた。あんなに怖い思いをしたというのに、それを企てたのは家族。
「な……」
ミノウとミノカは何か言いたそうにしている。
「いいえ……賭けは貴女の負けだよ」
「静華さん!?」
頭に血が上って理性が飛んだらしい。
私はミノカのナイフを奪い手首を切った。死ぬ気はなくても尺だから。
「きゃああ!!」
「医者を呼んで!早く!」
九狐の当主は部下に指示を出す。
「……!」
血を見たせいかクレハさんが頭を抑える。
「叔父さん大丈夫か?」
そして私の血塗れの腕を強引に引き寄せた。
「……ごめん!」
クレハさんは傷口から血を啜った。
「叔父さま、静華さんに何を!?」
「お前達は見てはいけない!」
――騒がしい声がだんだん遠くなり、辺りが真っ白になった。
■
「お早う」
「ここは……」
どうやら狭い場所に見える。
「俺が10年前に閉じ込められた場所だよ。家にいるのは辛いと思って連れてきたんだ」
「……もしかして、あの夏祭りの晩の人神様?」
クレハさんが笑ったという事はそうなのだろう。
「“近くにおいで、殺したりしないよ”」
それは幼い頃に聞いた言葉だった。
「やっぱり君はあの時の子だったんだね」
――彼から経緯を全てを聞いた。
彼を選ばずに村を出てから、私とまだ見ぬ双子の妹は産まれてすぐに引き離されたらしい。
九狐家の運転手の事故で本当の母は亡くなった事。
そして母の妹夫婦に当たる二人が育ててくれたのだという。
本当の両親でないことを悟ったことはなかったが、優しい親だったのは本当の子ではなかったからなのだと腑に落ちる。
「知る限り、君についてはこれだけ。次は俺のつまらない過去を話すよ」
「つまらないなんて……」
本当に馬鹿みたいな話だ。と彼は苦笑する。
「君のお母さんと俺は家同士や年が近くて、お互いにただの幼馴染の一人って関係だった」
九狐家のお偉い方は二人を結婚させようと計らった。
しかし母は村へ観光に来た父に恋をして儀式を投げ出して駆け落ち。
クレハさんは村に隔離状態となる。そして件の事故で――
「こんな感じで昔の話は終わり」
「じゃあ……こんなことになって、やっぱり母を恨んで当然ですよね」
母が儀式のルールを知っていたのかはわからない。
しかし自分がクレハさんの立場なら恨むだろうし、当日に駆け落ちするくらいなら儀式前に断るべきだったのではと考える。
「いや、彼女は自分が他に想い人がいると言った。だから儀式は中断されると、互いに思っていたんだ」
まだ儀式には裏があったのか、と聞き入ってしまう。
「彼女が去り、解放された直後に父は俺を刀で斬りつけた」
「なんでそんな酷い事を……」
耳を疑うほど信じられない仕打ち。
「家は九狐の分家だったから寡李部本家筋の娘である彼女と結婚させたかったんだろうね」
いくら家柄を上げたくても、クレハさんは何も悪くないはずだ。
「致命傷でもうダメかと思ってたら神社の棚の盃が落ちて、中身が俺にかかってね。傷は嘘みたいに治ったんだ」
盃からこぼれたのが、あの木の樹液だったから?
「君が気にしてくれたのは嬉しい。ただ経緯はそれだから、彼女を責めたりするのは違うんだ」
「……でも、クレハさん村を出られないのは辛いですよね」
そして木も有限、彼が老衰するまで持つかもわからない。
「それなんだけど……」
「何か解決策が?」
クレハさんは言おうか言うまいか迷っている。
「さっき……君の血を貰ったね」
「そ、そうですね!」
いきなりで動揺した為、声が上擦る。
「左胸に薄い茶色の花の紋様があったけど、君の血を飲んだら消えたんだよ」
クレハさんは着物をはだけて確認した。
「それじゃあ……!」
「たぶん村を出ても大丈夫なんじゃないかな」
私が命を狙われた理由はオカルト的な理由だが、ある意味で解決に近かったようだ。
「それ……知っていたならマチバリで刺して提供しましたよ?」
「いや、たまたまだよ。なんか血走ったというか……」
私が腕を切ったのは偶然だけど、本能的に血に効果があると判断したのだろうか?
「よく考えたら儀式の晩の液体はかかっただけで飲んでいない。樹液には傷を治す力は……」
クレハさんが思い出しながら呟いた。
「もう解決したからいいか……」
「え?」
「君はもう帰るんだろう?」
「帰らないとですよね」
私の気まずさを察したのか、クレハさんが隣に座り暫く沈黙する。
「今のお母さんが嫌いになった?」
「たしかに賭け事はショックだったけど、そんなことはありえません!」
だからって今までの事が全て否定されるわけではない。
「君が無事に帰宅すると信じていた。こうは考えられないかな?」
「……!」
「なんだか虚しくて都合のいい解釈だけど」
「そうですね」
私は家に帰る勇気が出た。
「お帰りなさい」
母は何もなかったように笑う。
「……えっと怒ってないの?」
「なにを?ところで腕は大丈夫なのかしら?」
「うん」
なんかクレハさんのことはスルーされている?
「九狐さんは出歩いて大丈夫なんですか?」
母が問う。
「まだ完治かはわからないですが、彼女のお陰で抑えられました」
「あらあら」
■■
私が東京へ帰る日、クレハさんまでついてくることになった。
万が一を考えて血を与えられるようにとの事だった。
「明日から学校なんだろう?毎日学校まで迎えにいくよ」
「ええ!?」
いくら謎の病が治ったからといって、毎日はやりすぎだろう。
「君に彼氏が出きるまで、ね?」
「……彼氏、一生できませんよ?」
きっと私の初恋は縁日の晩に会ったクレハさん。今まで恋愛を考えてこなかったのは多分、彼のせいだと思う。
「おは……」
「おはようイリカちゃん」
「なにそのかっこいい人!」
クレハさんと登校していたら道行く人が見てくる。
「じゃあさよならミヨちゃん、イリカちゃん」
「うん」
「彼氏かあ……いいなあ……」
「もう送り迎えはしないでください。家で安静になさってください」
「え、なんで?」
「クレハさんに悪い虫がつかないか……私が心配です!」
「クレ、葉だけに?」
「……」
「あ、寒かった?ごめん……」
「クレハさん母の代わりとか償いのつもりじゃないんですけど、私と結婚しませんか?」
「いまなんて?」
「あ、呪いがとけたから結婚しても意味ないですよね。ごめんなさい!」
告白を飛ばしてとんでもないプロポーズをした私は走り去ろうとしたが石に躓く。
「さっき何て行ったのか、もう一回きかせて」
「……聞いても無駄だと思うんですけど。あわよくばクレハさんが私と結婚してくれないかなあって」
顔をおおい隠して彼の表情を見ないようにする。
「ははは……俺オジサンだけどいいの?」
「オジサンには見えないです」
「じゃあ君が二十歳になって気持ちが変わらなかったらしてくれる?」
【君がただひとつの救い】




